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75話 治療3

 重症者達の部屋を出た菜摘は、ミザリーに連れられ、今度は比較的軽い症状の病人の元へ向かう。

 先程いた部屋の男達は、回復に向かっているのが一目瞭然だったので、部屋の施錠は簡易的なものに変更済みだ。

 手の空いている騎士を呼んで、何かあれば呼んでもらうように言付けてある。


「今から向かう部屋の者は、菜摘達があと二、三日来るのが遅ければ、あの者達と同じ様に変異してたじゃろうな」


「儂の手持ちのポーションで、誤魔化していただけじゃからの」


「菜摘のポーションが思った以上の効果が出てるからの、症状が軽い者達はすぐ回復するやも知れんの」


「そう願います……」


「ここじゃ」


 案内された部屋には、ざっと二、三十人だろうか。

 それくらいの人数がベッドの上に横になっているのが見てとれた。

 男女別に分けられ、それぞれ衝立で仕切られている。


 ミザリー様によると、重症患者の事もあり、軽症者達もいつ変異してもおかしくない状況だった為、この二、三日は眠らせていたとの事だった。


 思っていた以上に切迫した状況だった事がうかがえる。

 何はともあれ、自分はポーションを大量に作って持ってきた。

 

 菜摘が今ここですべき事は、粛々と病人達に投与することなのだから、それに徹しようと決意をあらたにする。


 それに数日とは言え、寝ている時間が長ければそれなりに筋力低下もしているわけで、回復次第リハビリが必要だろうと考えられる。

 その時に助けがいるようなら手伝うこともやぶさかではない。


 ポーションでも良くすることは出来るが、それはそれ。

 あまり薬に頼りきりなのは、身体を甘やかしてかえってよくない。


「とりあえず始めるかの」

「はい」


 菜摘は肩掛けカバンからポーションを取り出して、備え付けの机の上に置き始めた。


「それにしてものう……人数が多いのう……二人だけではちとしんどいのじゃ」


 ミザリー様は腰に手をあてつつ、病室を見回していた。


「そうじゃ犬っころ。クリスとあと何人か呼んできてくれんかの」

 

「ん? クリス?……うん分かった。連れてくる!」


 ノエルは意外と素直にミザリー様の言葉に返事をすると、部屋から足取り軽く出て行った。

 退屈すぎて、部屋からどこかへ出たかったのかもしれない。

 

「犬っころが人を連れてくる間に、儂らは出来るところまでやるかの」


「承知いたしました。私は向こう側から回りますね」

 

 菜摘は一番端のベッドから対応しようと、数本のポーションを鞄に入れて移動する。


 一番端のベットに横になっているのは、どうやら女性のようだ。

 短髪だったから一見少年に思えたが、華奢な体つきから一目瞭然だった。


 服から出ている手足は、青黒い入れ墨のようなものが見える。

 症状が進行すると全身にそれが現れると聞いている。

 

 指先にもその入れ墨が見えているから、この女性は症状がかなり進行していると思われる。

 接触感染はしないと聞いてはいたが、身体に直に触れるのは少し躊躇われた。


「失礼しますね……これから貴女にポーションを飲んでいただきますよ」


 声を掛けながら、菜摘は女性の上体を抱き起した。


「スリープ解除!」


 小声でミザリーが掛けている状態を無効化する。


「……んん」

 

 小さな呟きと僅かに身じろぎながら、閉じていた女性の瞼が徐々に開いていく。


 菜摘はそんな女性の様子を確認しつつ、再度声を掛ける。


 耳元で聞こえる他人の声に一瞬驚いた女性は、ベットから飛び降りそうになるが、腰に回った菜摘の腕にしっかりとホールドされているのに気づくと、ゆっくり振り返えった。


「……どうも初めまして……私は菜摘と言います。これから貴女に回復ポーションを飲ませます。なので、怖がらずに飲んでくださいね」


 寝起きの女性は、どうやら意識がハッキリしてきたようだった。

 菜摘と菜摘が手にしているポーションを認識出来たようで、こくこくと頷いた。


「驚かせたみたいで済みません。怪し物ではないので、ご安心ください」


 女性が落ち着いたのを確認した菜摘は、ポーションを目の前で振って安心させると、女性の肩に手を添えながら、口元にポーションを当てがった。


「ゆっくりと……そう……少しずつでいいので……はいそのまま飲んでください」

 

 躊躇いがちに口を付けてポーションを飲む女性に、焦らないよう促した。

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