76話 その頃の男達
ミザリーと菜摘が越境者達の治療を始めた頃。
クリスはというと、ミザリーに頼まれた救護院入り口の結界の修復作業を行っていた。
(師匠のは相変わらず出鱈目な性能だな)
魔道士が創り出す結界には、どんなやり方をとってもある一定の法則が出てくるものだが、目の前のそれはどれにも当てはまることなく、かつ高性能な出来栄えだった。
やや呆れながらも、それ以上の強度で最構築していくクリス。
それほど時間もかからず依頼を終えると、クリスは菜摘達の元には真っ直ぐ向かわず、救護院へ訪れた男達が集まる部屋へと足を運んでいた。
中に入ると部屋中の視線が一斉に集まる。
(おやおや私などに興味を引く事がありましたかね……)
男どもの熱視線を貰ったところで少しも嬉しくない。
クリスは心の中で毒づいていた。
・・・・・・・・
「ダグラスさん、ちょっと入り口を見てくださいよ!」
「どうした?」
「入り口にいる奴、何処かで見た事ないっすか?」
ダグラスは隣に立つカークに言われるまま、入り口へと目を向けた。
「おやあの方は……おいカーク言葉には気をつけろよ」
「どうしたんすか」
ダグラスは、カークを軽く小突き、入口に立つクリスに対しさりげなく背を向けながら小声になる。
「あの方は団長じゃないか、魔道士団の」
呆れた調子で話すダグラスに、カークは目を見開く。
「ええ、普通こんなところに来ますか?」
予想外の人物の登場に騎士団員のダグラスとカークは驚いていた。
「魔道士団のローブ姿ではないが、俺達は園遊会でお会いしているぞ……あの方がミザリー様の愛弟子と言うことは知られているからなぁ、いらしても不思議ではないぞ」
「挨拶に行くぞ」
「了解で!」
クリスは自分の方へと歩いてくる者達を視界に捉えると、自身が記憶している貴族年鑑と照らし合わせていた。
身なりから騎士団員だという事は直ぐに分かった。
高位貴族は全て網羅しているが、面識の無い二人が自分より上の者か記憶を辿る。
下手な対応を取ると後々面倒くさいからにつきる。
「お初にお目にかかります。魔道士団のサリュー団長とお見受けいたしますが、ご挨拶よろしいでしょうか」
そう言ってやや年嵩の体格のいい男が一歩前に出る。
「ああ、いかにも私が魔道士団団長のサリューだ。隊服から見ると、君達はウルバートの配下の者か」
「はっ、クラカーマ派遣部隊、三番隊所属のダグラスにカークであります」
ダグラスとカークが所属する三番隊は、救護院に詰めていた二番隊と交代する為にやってきたが、変異した越境者達と交戦し隊は全滅。
辛うじて生き残った二人だった。
運が良かったのはミザリーと合流出来たことだろう。
「此度のことご苦労だったな。ところでこの件は騎士団長、ウルバートも承知かな?」
「恥ずかしながら、我等も暫くここを動く事が出来ず、ウルバート団長には詳細を伝えきれておりません」
「そうか、なら私からこの後連絡を取るとしよう」
「「ご配慮感謝します」」
それからしばらく三人が立ち話を続けていると、入口付近でガラスの割れる音や椅子が倒れるような音がした。
「騒がしいっすね」
「何事でしょうか」
「……」
物音が聞こえる方向から何かが駆け寄って来るのが見えた。
突然姿を見せたインフェルノ・ルプスに室内が騒然となっていた。
「「ルプスだと!!!」」
「サリュー団長お気を付けください」
クリスを守ろうとダグラスとカークが咄嗟に前へ出る。
ダグラスとカークは腰に手をやるが、帯剣していないことを思い出し焦る。
「心配ない、これは連れの従魔だ」
ダグラスの肩を軽くたたき、問題ないことを告げると、クリスはやってきたルプスに視線を合わせる。
「クリス。ミザリーが呼んでる」
「「ルプスが喋っている」」
「ああ分かった」
「悪いがこれで失礼するよ」
説明を求める視線から目を逸らし、クリスは居合わせたダグラスとカークにこの場を押し付けることにして、ミザリー達の元へ向かうのであった。




