66話 物資到着
ロンは路肩に荷馬車を停めると、御者台に座ったまま大きく伸びをした。
身体をほぐしつつ、ロンの視線はマーフィーが向かった救護院に固定されている。
マーフィーからの合図を見逃さないようにするために。
そうやって注目していると救護院側で動きがあった。
中から三人出てくるのが見えた。一人の老女と騎士らしい出で立ちの男が二人だった。
先頭にいた老女と丁度救護院に到着したマーフィがやり取りしている。
老女は掌を向けて何もない空間をぺしぺし叩いているように見える。
あそこに何かあるのかな?…… ロンの頭には疑問符が浮かぶ。
老女は手にしている長い杖を持ち上げると、マーフィのやや斜め上に向かって回転させた。
一瞬、二人の間で何かが光ったように見てとれた。
「あっロメオさん。ようやくマーフィさん入れたみたいです」
「ロン。マーフィ殿が合図してますね」
ロンの言葉に被せる様に荷台に乗るロメオが言葉を発した。
「はい。合図も確認しましたので、馬車を移動します」
ロン達が救護院に到着すると、老女とマーフィーが荷馬車の前にやって来た。
遠目では良く分からなかったが、入り口にはやはり目に見えない壁があった。
「そこの者。結界を解除するでの少し待つが良い」
老女が杖を持ち上げ回転させると、杖に呼応するかのように光が明滅して、目の前の見えない壁が徐々に消えて行く。
老女は結界が無くなるとロン達を手招きして中へ誘導してくれた。
停車した荷馬車から降りてくるのは、もちろんロメオとロンの二人である。
「ロメオ、ロン。二人を紹介するからこちらへ来てくれないか」
マーフィーは二人の側へ寄るとそう声を掛けた。
二人は頷いてマーフィーと共に自分達を迎えてくれた人達の元へ向かう。
「ミザリー様。この二人が私と共にバルザック様の命を受け、物資を運んで来た者達です。この男がロメオ、そしてこれがロンです」
マーフィが順に紹介していく。
ロメオとロンは会釈をしながら、目の前の老女が主のいう今回の重要人物だと認識した。
「ミザリー様。お初にお目にかかります。私はロメオと申します。バルザック家で執事を務めております。主人は此度どうしても動けない用件がございまして、私が代理として馳せ参じました。文を預かっておりますのでご覧いただけますでしょうか」
「うむ。遠路はるばる良く来たの。儂がミザリーじゃ」
ロメオは懐から筒状の物を取り出してミザリーへ手渡した。
ミザリーはそれを受け取ると中身をあらためた。
時折、フムフムと言うのが聞こえる。
ミザリーが読み終わるタイミングでロメオはもう一つ手に持っていた文を手渡す。
「こちらには今回の救援物資の目録が入っておりますのでご確認下さい」
「バルザックの奴も中々に忙しいようじゃの。無理を言ったのは儂のほうじゃから致し方無い。この気遣いはありがたく頂戴するとしよう」
文にはバルザック様が直接来れない理由が記されていたのだろう。
どうにか我が主の事情はご理解いただけたようですね。ひとまず、ミザリー様の心象が悪くなるような事は避けられたな。
ロメオはミザリーが依頼したのはバルザック本人であったため、代理人が自分の様な者で良かったのか危惧していた。どうやら取り越し苦労だったようだ。それが分かリほっと胸を撫でおろす。
ミザリーが書簡から顔を上げると、挨拶のタイミングをはかっていたロンが前に進みでる。
「ミザリー様、僕はロンと言います。本日はよろしくお願いいたします」
「うむ。ロンとやらもよろしく頼むぞ」
ミザリーの他にいた二人の騎士達ともロメオとロンは挨拶を済ませ、一通りの顔見せは終了となった。
ミザリーは騎士達に何か伝えた後、マーフィー達三人へ向き直った。
「三人には早速で悪いんじゃが、食べ物を分けてもらえんかの」
「勿論です。我々はそのために来ましたから!」
「承知いたしました。」
「はい!」
「念のために安全地帯を用意するでの、しばし待つが良い」
ミザリーは杖を片手に救護院の中へ戻っていった。
「マーフィー様。どうにか僕たちは間に合ったみたいですね」
御者を務めたロンも飛ばして来た甲斐があったと満足する。
お尻の痛みもポーションで癒え、一仕事終えた気分だった。
ミザリーの様子から察するに自分達は及第点だろうと感じた。
「ああそうだな」
「ロン。これからしばらく忙しくなるぞ。体力の方は問題ないか?」
普段から身体を動かしているマーフィは、遠出する事も度々あリ、この程度なら辛くはない。
「マーフィー殿。ロン。もし今辛い所があったら、このポーションを飲んで回復しておいてください」
ロメオは肩から下げていた鞄から小さな小瓶を取り出した。
「これがあれば、馬車馬のように疲れ知らずで動けますよ! お墨付きです」
「ロメオさん。容赦ないですね」
「僕は念のため飲んでおきます」
ロンはポーションを受け取りながら、この後の荷下ろしも体力勝負だなと気を引き締めた。
「俺はまだ大丈夫だ。後々調子悪くなった場合は遠慮なく頂くよ」
マーフィーはポーションはいざという時の為に温存する選択をした。




