63話 森の中に入ってみれば
「ブヒーン,ブヒーン!」
クリスが広げた地図を一緒に眺めていると、急に馬達が騒ぎ出した。
何事かと思い鳴き声のする方向を見ればノエルがやってくるのが見えた。
まだ仔犬とはいえノエルはインフェルノ・ルプス。
インフェルノ・ルプスは魔物の中でも頂点にいる存在だ。
魔物から放たれるオーラは余程訓練された動物でない限り耐えられないそうだ。
強い魔物であるほどそのオーラは強力らしい。
馬達がノエルに対してあんなに怯えるのも仕方ない事。
木に括り付けている綱からしきりに逃れようと暴れてるのも分かる。
その事もあってノエルには離れて付いてきてもらっていたんだけどね……
「ノエルちょと待ってて!」
菜摘はノエルに声を掛けると胸の前で手を重ねて唱えた。
丸い球体のシャボン玉のようなものを創り出すと、馬達をそれで囲う。
気配も遮断するようにしたからこれなら大丈夫だろう。
「うまくいったみたい!」
「菜摘殿そのような事も出来るんですね」
「そうでしょう凄いでしょー」
初めて私の魔法を見たクリストファーが単純に感心していたので、
「私も色々進歩しているのですよ!」
どや~という感じで得意げな顔で答えれば、何故か口許を抑え肩を震わせていた。
何かツボに入ったらしいクリス。私の顔がそんなに可笑しいか?
馬達が結界に覆われて大人しくなったのが分かるとノエルが側までやってきた。
「菜摘、助かったよ! あいつら相変わらず慣れなくて困るよ」
ノエルは毎回自分に怯えまくっている馬達に不満たらたらだった。
「ノエルはこんなに良い仔なのにね……」
不満げなノエルの頭を菜摘はワシャワシャと撫で回した。
今度は全身を撫でてもらうつもりなのかノエルはゴロンと横になった。
要望に応えるべく、横になったノエルを菜摘はくまなく撫でてやる。
「それで? ここで止まってどうしたの?」
ひとしきり撫でられ満足したのかノエルが頭をもたげて聞いてきた。
「ああノエル。ほら、後ろ見るとわかると思うけど、橋が渡れなくなってるじゃない。他の行き方で早く着くルートがないかクリスと地図を見てたのよ」
「ああ本当だね。橋が無い……」
ノエルは菜摘の指さす方を見ると、橋が途中から無くなっているに気づいたようで声を上げた。
「それで他の道は見つけられそう?」
「うーんどうだろう。クリスどう?」
地図が読めない私は、後ろにいるクリスに丸投げした。
「そうですね、いくつかありますがどれを選ぶと正解なのか迷うところですね」
クリスは地図の上を指で辿りつつ、脳内シュミレーションをしているようで、何か決めてにかけるようだ。
「それならルーシと一緒にこの山見てくるけど?」
ノエルはそんなクリスを見て提案してきた。
「探してきてくれるの?」
「うん。人が作った道で無くてもいいんだよね?」
ノエルの言葉を聞いたクリスが頷く。
「それはいいけど、馬達が通れないと駄目だからね」
「道があんまり狭いようなら、菜摘がお願いすれば大丈夫じゃない?」
「私がお願い? 誰に?」
「森の皆にお願いすれば聞いてくれると思うけど?」
出たよ森の皆……あれか。ここでもまさかの草の根ネットワークかい。
ノエルの口ぶりから察するにそういう事だろうと予想できちゃうんだけども。
「取りあえず山の中を見てくるよ! ルーシー行こう!」
「主。やつはああ言ってますが、よろしいでしょうか?」
「ああそうだな。よろしく頼む」
「では行ってまいります」
木の上で一休みしていたクリスの使い魔ルーシーも、ノエルに呼ばれて羽ばたいて行った。
「ご主人様の躾がいいのか、ルーシーはほんと礼儀正しいわね……」
「飼い犬は飼い主に似るといいますしね……」
なんだか含み笑いのクリスにカチンときつつ、ノエルを少し自由にさせ過ぎたかしら……と思わないこともない菜摘だった。




