62話 待ち人來る 2
マーフィー達一行が救護院前にもう間もなく到着するという頃合いで、前方の建物から数人出てくるのが見えた。
「ロメオさん、誰か中から出てきましたよ」
ロンは荷馬車の速度を少し落とし荷台のロメオへ声を掛けた。
どれどれという感じで荷台から顔を出したロメオは、数人いるのを確認するとマーフィーへ指示を出した。
「マーフィーさん。先に行って救援に来たことを話してきてもらえますか。終わったら手を上げて合図してください」
「承知した」
マーフィーは馬の腹を軽く蹴ると救護院に向かって駆け出していた。
徐々に速度を上げるその後ろ姿はすぐに小さくなっていた。
マーフィーの愛馬は、少し前に飲んだポーションが効いてきたらしくすこぶるご機嫌だった。
背に乗った主が引くぐらい足取も軽く土煙を上げて颯爽と駆け抜ける。
「ロン、ここで待機して下さい。彼の合図が見えたら救護院に向かってください」
「はい。わかりました」
ようやく着きますね……。
ロメオは窮屈なこの空間から早く解放されたいと願った。
ポーションで疲労感は無くなったとはいえ、精神的苦痛は払拭できないのだ。
もう間もなくそれも終わる。広々としたところで仰向けになりたいもんだと切に願った。
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土煙を上げてこちらに向かってくる一頭の馬と騎士。
救護院からミザリーと共に出てきたダグラスとカークはこちらに向かって走ってくる馬を見つめた。
「おおっ。威勢のいい馬だな!」
「ご機嫌だなあれは」
騎士団で日頃から馬と慣れ親しんでいる彼等は、走りを見ただけで馬の状態が分かる。
「お主達は馬の状態が一目で分かるようだの」
ミザリーは感嘆の声を上げる二人に話しかける。
「騎士団の者なら大体わかりますよミザリー様」
ダグラスが答える。
「そうだな! よっぽど鈍い奴じゃなきゃ分かってくるな」
カークがその意見に同意する。
「ほう。そんなものかの」
「ええ、そんなものです」
「だな」
そんなやりとりをしている三人の前に、先ほどみた馬と騎士が到着した。
馬上の騎士はそのまま歩みを進め、ミザリー達に近づこうとするが見えない壁に押し戻されていた。
騎士は手を出すと自分の周りの何もない空間をぺちぺち叩いて何かを確かめるように触れていた。
「おっと、忘れておったわい。結界を解除せねば入れないんじゃった」
ミザリーは杖を持ち上げ先端をクルクルと回して呪文を唱えた。
「シュンッ!」
風切り音の様な物がきこえ、目の前の結界が解除された。
馬上の騎士は三人の顔を見渡すと、ミザリーに視線を定めて切り出した。
「ミザリー様とお見受けいたします。馬上からの挨拶ご容赦ください。私の名前はマーフィー。バルザック様の命により救援物資をお届けに参りました。」
「儂がミザリーじゃ、マーフィーとやらよくぞ参った、遠路はるばるご苦労じゃったな。待ちわびたぞ」
挨拶を受けたミザリーは声を掛ける。
「お待たせして申し訳ございません。」
マーフィーは深々と頭を下げた。
「ところでミザリー様、先ほどのあれは何でございましょうか」
マーフィーは行く手を阻まれたものに興味を示す。
「先ほどは悪かったのう。ちと事情があってのここら辺に儂が結界を張っておったんじゃ」
「そうでしたか……」
マーフィーは頷くと何か聞きたげな顔をしていたが、やるべきことを優先するため口を閉じた。
「ミザリー様、後ろに控えている仲間達へ連絡しますので、しばしお待ちください」
そう言うとくるっと愛馬を反転させ仲間の方へ大きく手を振った。
「ダグラス。ようやく食事にありつけそうだな」
「ああそうだな。」
手を振るマーフィーとその向こうからこちらを目指す荷馬車を見ながら、ダグラスとカークは安堵していた。
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「私達思ってたよリも時間がかかりそうね」
「そうですね菜摘殿」
ミザリーが遣い鳥で呼び寄せたもう一方のクリストファー達は、救護院に向けて出発していたが思わぬアクシデントに見舞われ、到着が遅れていた。
通る予定だった川が、数日前に降った雨の影響らしく橋が流されてしまっていた。
二人は迂回することを余儀なくされた。
遅れた時間を取り戻すため、菜摘は特製ポーション作って馬達を労う。
「もうちょい我慢してね」
馬達のたてがみを撫でて励まし、ついでに凝り固まった自分の身体もほぐす。
「菜摘殿。これを見てもらえますか」
クリストファーは丁度いい大きさの岩を見つけるとその上に地図を広げた。
「この辺りの地図?」
「ええそうですよ。私達は今この辺りにいます。救護院はここです」
クリスの示す点を交互に見ると、まだまだ距離があるように見えた。
「早く着きたいけど難しい感じね…………」
「効率よく最短で進める道を探しましょう」
クリスの前向きな言葉に菜摘は頷くと視線を地図に戻した。




