61話 待ち人來る
マーフィー達は準備を終えると屋敷を出立した。
荷馬車は徐々にスピードをあげていき、しばらくの間高速を保ってひた走った。
普段なら使わないポーションを馬達に惜しげもなく与え、休憩も碌に取らない強行軍。
その甲斐あって、通常五日かかるところ二日短縮し、三日目には目的地の近くまでたどり着いていた。
「ロン、あの山を越えたところが私達の目指す場所です。ペースは落とさずこのまま行って下さい」
ロンの横に後ろから前方を指さす手が伸びてきた。呼びかけた声はやや疲れを滲ませている。
その声の主。ロメオは御者台と荷物の間に出来た人一人がやっと座れる隙間に無理やり座っていた。
「はい! 承知しました。ところでロメオさん大丈夫ですか? 大分お疲れのようですね」
「ええ。流石に私だってこんなに馬車を飛ばして何処かへ行くなんてこと無いですからね。この馬車は衝撃を緩和するように出来ていたはずですが、それでも身体に堪えますね」
「ロンも平気じゃなさそうですね」
「全く酷いもんですよ。そろそろ着いてもらわないと困ります。僕のお尻が限界ですよ」
ロンはこれ以上は痛みで座っていられないと、御者台から腰を浮かして馬車を走らせていた。
しばらく進むとなだらかな丘の向こうにそびえ立つ建物が見えてきた。
「あっあれは? マーフィー様あれが救護院でしょうか?」
手綱を器用に持ちながら前方をロンが指差した。
「ああそのようだな。あれで間違いなさそうだ」
荷馬車と並走していたマーフィーも前方に見えてきた建物に違いないと頷く。
「ロンもう一踏ん張りだ! 頑張れよ」
「はい!」
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「やっと来よったかい……ぎりぎり間に合ったの」
愛用の杖を腰に抱えストレッチをしていたミザリーは、やれやれと言った面持ちで壁の向こう側に意識を向けた。
「あやつの家の者か。儂の好物を持たせてくれとるといいがのう」
期待に胸が膨らむどころか、ミザリーはぐうぐうなるお腹を宥めるようにさすった。
「もう少し落ち着くんじゃ儂の腹の虫……さてと出迎えに行くかの」
ミザリーは地下室から地上に出るため階段を上ると、一階で待機していた騎士達に声を掛けた。
「ダグラス、カーク。ちょっと儂と一緒に来てくれんかの」
「はっ」
「はい!」
呼ばれた二人は、ラミハサーガ国の騎士団員達だ。
彼らの所属する騎士団がクラカーマの町に派遣されており、その中の三番隊に所属する彼等は、この救護院に詰めていた二番隊と交代する為にやってきた。
ところが救護院は隔離していたはずの越境者達。数名の異形へ変異した者達の手に落ちていた。
被害が表へ広がらないよう二人はミザリーと共に奮闘していたのだった。
「ミザリー様、いかがなさいましたか?」
ダグラスは歩き出したミザリーの横に並ぶと呼ばれた理由を尋ねた。
「なに 、お前さん達も非常食がそろそろ尽きた頃じゃろう? 儂は遣いをやったんだが、それがようやく来たようじゃ。中に運び込むのを手伝ってくれんかの」
「本当ですかそれは有り難いです。 是非手伝わせてください」
「良かったなぁダグラス! 俺ももうそろそろ限界だと思っていたんだ」
カークはミザリーの言葉を聞きながら、目頭を軽く押さえていた。
「何もうしばらくの辛抱じゃ。軽く腹ごしらえ出来たらお主たちにはもうひと働きしてもらうからの」
カラカラ笑いながら足取りも軽くミザリーは外へ向かって歩き出した。




