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60話 救援

 早馬で主の屋敷に到着したマーフィーは、門前で待機している警備員へ軽く挨拶をすると、その先にある屋敷まで一気に駆け抜けた。


 屋敷の玄関先を通り過ぎようとしていた使用人に声を掛け、馬から飛び降りるとその使用人に手綱を押し付けて自身はそのまま屋敷内へ走り込んだ。

 

「マーフィーさん。そんなに慌ててどうしたんです?」


 息せき切って走りこんできたマーフィーに声を掛けたのは、この家の執事ロメオだった。


 ロメオが視界に入ったマーフィーは急ブレーキを踏むがごとくその場で立ち止まる。


「ロメオさん丁度いいところに! 旦那様から至急とのことでこれを預かってきました。」


 マーフィーは預かった文を懐から取り出しロメオに手渡した。

 ロメオは受け取るとその場で中身をあらためる。


「本当に至急ですね。お待たせしているようですからすぐに向かう必要がありますね」


 主人からの文には、準備整い次第、彼の地に出立するようしたためられていた。


「マーフィーさん。貴方は護衛として同行すると言う事ですね?」

「はい。そうなります。」


「分かりました。では急ぎましょう。急なことで人を掻き集める時間もありません。申し訳ないが貴方にも手伝っていただきます」


「私に出来る事であれば何なりと」


 護衛騎士として雇われているマーフィーは今時珍しい腰の低い男だった。

 大方騎士と言われる者達はプライドが高く使いづらいというのが世間一般で云われている。

 そもそも業務以外の依頼など願い下げだと言われるのが落ちだった。


 入れ替わりの激しい商家の護衛騎士が数年この男に落ち着いているのは、案外そういう所かも知れないとロメオはそう結論付けていた。


 ロメオは近くにいた使用人を手招きすると矢継ぎ早に指示を出した。

 使用人は聞きもらすまいと時折質問を交えながら必死にメモを取る。

 

 二人のやり取りが落ち着いたようでロメオはマーフィーの方へ顔を向けた。


「ではマーフィーさん。貴方には荷物の運搬をお願いします。この者はロンと言います。ロンと一緒に倉庫へ向かって下さい。何を運ぶかの指示はこの者が出しますので、貴方はそれらを荷馬車へ運んで下さい」


「分かりました」


「荷馬車にも人を遣りますので、運び込んだ後の整理はその者が対応します。貴方はひたすら倉庫から荷物を運んで下さい」


「承知しました」


 マーフィーと使用人のロンは連れ立ってロメオに指示された倉庫に向かう事にした。

 屋敷の裏手に回リ、その先に連なる倉庫を目指す。


「マーフィー様大変な事になりましたね」

 

 ロンは年の頃は十代半ば位だろうか、いっぱしに働いているから大人扱いされているが、まだまだ少年のあどけなさが顔に残っている。


 ロンは護衛騎士として屋敷に勤めているマーフィーが、護衛任務とは関係のない作業に駆り出されている様子を見て、気の毒な叔父さんだなと内心思っていた。

 

「大変? いや何、何事も臨機応変というのが俺の信条なんでな。どうってことはないさ」


 マーフィーは顔色を窺うように話しかけてきた少年の様子に苦笑いしながら返事を返した。


「そうなんですか……気にしてないなら良かったです」


「ああっ。気にしてくれてありがとな。作業は精一杯頑張らせてもらうよ」

 

 倉庫にたどり着くと荷馬車はもう所定の位置に待機していた。


 ロンに指示された品々をマーフィーは淡々と運び出して行く。小一時間ほどで荷馬車はたくさんの荷物で一杯になった。


「何とか積めましたねマーフィー様」

「ああそうだな。逆に積込過ぎて急いで行けるか心配だがな」


「そのために引きが強い馬たちをロメオさんが用意してくれましたよ」


 そう言われて荷馬車の先端を見れば、マーフィーが乗ってきた早馬とは違う、がっしりした体格の馬達が繋がれていた。


「あれなら大丈夫だな」


 いかにも馬力が凄そうな馬達を見てマーフィーは安堵した。

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