59話 彷徨いの森製ポーション
「ねえクリス。当初の予定数よりも多目に作ってみたけど、これぐらいでいいかな?」
彷徨いの森に籠ること二日。
菜摘とクリストファーは、ミザリーからの依頼をこなす為、彷徨いの森にやってきていた。
薬師堂でも作れたが、よりいいものを作るには魔素を取り込むのが一番。
それなら彷徨いの森がうってつけだと判断した。
ふんだんに濃い瘴気が漂っている彷徨いの森で、魔素を存分に身体に取り込み、幻の薬草ソーマをこれでもかと投入して作りあげた『超超スペシャルポーション』。
もっと捻ったネーミングは出てこないのと突っ込みはさておき、頼まれたって私にはもうこれ以上の物は作れないやと、菜摘が自信をもってそう言えるだけのポーションが完成した。
「お疲れさまでした菜摘殿。これでも飲んで少し休んでください」
「あっ。ありがとう」
クリスが手ずから淹れてくれた紅茶を私に手渡し労ってくれた。
微笑むクリスの笑顔が今日も眩しい。
紅茶を手渡すとクリスは「少し身体を動かしてきます」と言って、森の中の少し開けた場所へ歩いて行った。
クリスは知ってか知らずか、無自覚なのか男前に磨きがかかって危険なのだ。
最近の私はクリスから向けられるあれやこれやに、過剰に反応してしまって自己嫌悪の日々。
何たってこれでも人妻なので道を踏み外してはいけないと、自制しなきゃと思ってるわけですよ。
うちの亮さんがひょっこりやってきても誤解を与えないようにしないとね。
でもはたと気が付く。若い男性と二人きりでいるこの状況(正確にはノエルも一緒だけれど)自体が何気に不味いのではないかしら……と。
紅茶に添えられたクッキーを頬張りながら、出来上がったポーションを眺めつつそんな事を考えていると、身体にふさっと柔らかいものが触れた。
いつの間にか散歩から帰ってきたノエルが私の横をすり抜けると、出来上がったポーションをくんくんしている。
「ノエル。瓶に入ってるからポーションの匂いなんてしないでしょ?」
「うん。匂いは分からないよ。でも嗅がずにいられないの!」
ルプスは魔獣に属するけど狼に近そうだし犬科の習性があるということ?
未だインフェルノ・ルプスの習性は謎だ。
「それにしても菜摘。凄いの作っちゃったんじゃない。これを見せたら山神様もきっとびっくりするよ」
片足でポーションの入った瓶をつんつんしながらノエルは言う。
「そう? 出来上がりには満足しているけど、山神様を驚かすような出来栄え?」
ノエルは太鼓判を押してくれたけど、実際に使ってみない限りなんとも言えないな。
「菜摘は鑑定出来るでしょ! 確認してみるといいよ!」
ああーそうだった。私は鑑定出来るようになったんだ。
「鑑定!」と呟くと同時に、頭の中にポーションの情報が流れ込んでくる。
うわー何これ。ありとあらゆる呪いを撥ね退ける耐呪効果。死人も生き返るほどの再生能力。その他等々。解呪・再生・解毒に関わる効力を発揮するだって……とんでもポーションがどうやら出来たようだ。これがミザリー様のお役にたてばいいのだけれど。
しばしトリップしていると、身体を良い感じでほぐせた様子のクリスが戻ってきた。
「菜摘殿。休憩が終わったら出来上がったポーションを鞄に仕舞って頂けますか。出来れば今日にでもここを発って、師匠の元へ向かった方がいいと思います」
そうでした。クリスがミザリー様から受け取った遣い鳥の伝言。
既に受取ってから四日は経っている。内容から察するにあまり時間を置いてはいられない。
「そうね。ミザリー様を大分お待たせしてるしね。急いだ方がいいよね。」
休憩もそこそこに、私達は荷物をまとめ一時間後には彷徨いの森を後にしていた。




