51話 マークの成長
「どうですか菜摘さん、僕だってやれば出来る奴っすよ」
「おおー宣言した通り、二百本を完成させたんだね! やるじゃないマーク君」
ローランさんの指示した数を作りあげたマーク君は額に玉のような汗を浮かべてドヤ顔だった。
「僕は誉められて伸びるタイプっすよ!」
自分でも自覚しているようで、最近のマーク君はポーション作りが格段に上手くなった。
マーク君は三年前からローランさんの弟子として薬師堂に勤めている。
聞いた話では彼のポーション作りの腕前は中の上位だったそう。
そこそこ上手な部類に入るらしいけれど、大量にポーションを作るほどの魔力が足り無くて、毎日くる常連さんの分だけをこなしているのがやっとだったらしい。
今回の二百本は、今までのマーク君であれば到底成し得ない数だった。
「数をこなせるようになっても、問題はきちんと効果を付与できたかどうかですからね」
「ローラン先生。今回は自信があるっすよ。今までで一番付与できたと思います。確認お願いします」
マーク君の顔を見ればやり切った感一杯の清々しい笑顔。
お前言う通りちゃんと込めたんだろうな……。
優しくマーク君へ語りかけるも、目は笑っていないローランさんの言葉の裏にそんな単語が見え隠れしているように思うのは気のせいだろうか。
ローランさんは机の上に並べられたポーションへ向き直ると、列ごとに手を翳して鑑定を始めた。
自分が採点されてるようで緊張してくる。
「ふむ。ここは良し、これはまあまあかな」
聞く限り好感触のようだ。ローランさんはぶつぶつ呟きながら作業を続ける。
チラッと横を見れば普段は呑気なマーク君が、鑑定中の師匠の一挙手一投足を唇を噛み締めながら見守っている。
かなり緊張していると見た。
「マーク」
一通り確認を終えたローランさんは掛けていた眼鏡を外した。
「はいっす」
「思っていた以上にいいポーションの仕上がりでした」
「……あっありがとうございました」
よっぽど嬉しいのかマーク君の言葉遣いが丁寧になっている。
「菜摘さんが来てくれたおかげで、マークのやる気スイッチがどうやら入ったようですね」
ローランさんは眼鏡を拭きながらそんな事を言い出した。
「見えないところで努力した結果が出たようですね」
ローランさんが弟子の成長ぶりにフフッと笑みを浮かべる。
いやいや私のせいでやる気になったとかないと思うけど……
「私でお役に立てたなら良かったです。それにしても、若者が頑張る姿を目にするはいいもんですねローランさん」
うんうんおばちゃんは素直に嬉しいよ!! と一人頷く。
「菜摘さん。私は貴方の歳を知っているのであれですが、その容姿で言われても今いち説得力ないですよね」
半笑いのローランさんから軽くジャブ、ツッコミが飛んできた。
そう私はアラフォーですけど……この世界ではなぜか二十台の女性にしか見えない仕様となってます。
思いっきり年齢詐称を働いてますが開き直っておりますです……はい。
若作りした私、いやここは見た目二十台の女性が、同じ年頃の男子をそんな風に誉めてもねーという事を言いたいのでしょう。
「そう言えば、ローランさんは私の歳を知っても別に驚いてませんでしたよね」
思い返してもローランさんは知る前もその後も、一貫して態度は変わらない。よりフランクに会話をするようになったとは思うけれど……
「それはもう、女性に歳の事を持ち出すのはタブーと心得てますからね……」
何かあったのだろうか、少し遠い目をしているローランさんにそれ以上を聞くのは憚られ遠慮しておく。
「僕はそれを聞いてギャップ萌えっすよ!」
「えっ! 逆の意味でなんだか怖いんだけどマーク君。若いふりしやがってなんて思ってない?」
「嫌っすね! 何を悲観してるっすか。ギャップがあっていいじゃないっすか。ギャップ萌えっすよ!」
「マークもたまには良いこと言いますね」
なんだか良くわからないマーク君の声援?を受けつつ、その日のノルマを達成しようと張り切っているとお店の方から男性の声が聞こえてきた。
お店の開店時間までは後小一時間ほど時間がある。
あまりの盛況振りに品数が追いつかなくて、ポーション作りの時間を取るため薬師堂の開店時間を前より遅くしている。そのせいか変更されたのを知らなくてやってくるお客さんもいたりする。
「また知らずに来た人がいるようですね……」
「あっ私、ちょっと見てきます」
席を立とうとしたローランさんを制し、ここは下っ端の私が行くべきだろうと店へ向かう。
お店に行って見ると、入口にクリストファーが立っていた。
ここにも麗しのイケメンがいます。眩し過ぎです。少し片目を抑つつ私はクリスに声をかけた。
「ああ菜摘殿。居てくれて良かった!」
そう言いながら近寄ってきたクリスはニコッと笑うと私の手を取リ手の甲に口付けた。
「うへぇ」
私は思わず可愛くない変な声を出してしまう。
クリスは動揺している私が面白いのかクスクス笑っている。
仕草があまりに素早く自然だったからされるがままになってしまったけど、やっぱりこれは恥ずかしい。
乙女の時期をとっくに通り過ぎた私でもまだ多少の恥じらいは持ち合わせている。
照れるし唇が触れた手が綺麗だったかどうかもの凄く気になってきた。
やめてほしいと言うか、でも貴族の礼儀作法の一つでやらないと相手に失礼にあたるのかな………それに勿体ない気がしなくもない……みたいな? とりあえず今はスルーしておこう。
「クリスお久しぶりです。今日はどうしました?」
コホッと咳払いして気持ちを切り替えると私はあらためてクリスに向き直った。




