49話 救護院
隠遁スキルで姿を消したミザリーは救護院へ入って行く騎士団員達の後ろへ続いた。
「交代に来た三番隊だ!」
先頭を歩いていた騎士が建物の入り口から中へ声を掛けた。
「誰もいないのか?」
「……」
入り口から見える建物内は静まりかえっていた。日中だというのにやけに薄暗い。
交代要員が出迎えないことを訝しんだ騎士達は、互いに目配せすると腰に下げた剣を抜き身構える。
「ゴトッ」
建物の奥の方で何かが崩れ落ちたような音が聞こえた。
「ダグラス、カーク! お前達はこのまま前進しろ、他の者は俺と側面から行く!」
リーダー格らしい騎士は仲間達へ即座に指示を出した。
「ハッッ!」
騎士達は二手に分かれすぐさま行動に移した。
名を呼ばれたダグラスとカークは物音のした方向へ、周囲を警戒しながら足早に駆けて行った。
残りの騎士達は右手に逸れて奥を目指して進んで行った。
後ろに続いていたミザリーは騎士達からそっと離れ彼等とは別の方向へ歩き出した。
救護院の見取り図は事前に頭に叩き込んでいる。
それを思い浮かべながら地下へと続く階段を探した。
「確かあのあたりのはずじゃな」
壁に沿って歩きを進めていくと左手に地下へと続く階段は容易に見つかった。
ミザリーは姿を消している状態だが慎重に階段を下って行く。
しばらく下った所で階段が途切れ少し広めの場所へ出た。
先の方へ視線を向ければ真っすぐ奥へと続く廊下が見え、左右にいくつもの扉が見えた。
壁の両側で灯っているろうそくは一つ置きに設置されているようだ。
「ボン、ズドンッ」
上階で何かが爆発したような音がした。その影響からか天井からパラパラと砂ぼこりが落ちてくる。
「全くなにやっとるんじゃ、あ奴らは!」
頭に砂ぼこりが掛かってしまったミザリーは手でそれを払う。
気を取り直し一番手前の部屋へ近づくと覗き窓から中の様子を窺った。
地下には越境者達が隔離されていると聞いていたが、一番手前の部屋にはそれらしき者の姿はない。
ミザリーは反対側の部屋も同じように覗いてみたがそこにも人影はなかった。
そのまま一つ一つ部屋を片っ端から覗いて行く。
「なんだ、誰もおらぬのか?」
全体の三分の二位を確認したところで人影が見えない事に、よもやがせネタだったかと思い始めた頃、突然ドンッという音がして目の前を扉が横切って行った。
扉はそのまま壁にぶつかって砕け散った。
「何じゃ!」
見れば扉があった部屋からはもうもうと紫色の煙が外へ溢れ出している。
中からヌッと異形の姿をした者が数名出てきた。
四肢が異様に発達しており、身体には元は服だったと思われる布地が貼り付いていた。
市井に出回っているよくある平民が着ている物だ。
「何じゃあれは? 随分イビツな成りをしてるの、収容されている越境者じゃろうか?」
状況からして恐らくそうだろうとミザリーは考えた。
「思った以上に進行は早いようじゃの」
異形の者達は左右を見回すと手当たり次第に壊し始めた。
ある者は力任せに壁をぶち割り、ある者は魔法を駆使して粉砕していた。
隠遁の魔法を行使しているミザリーの姿は見えないはずだが、違和感でも感じるのか当てずっぽうだった攻撃は一点に集中しだした。
「もしや儂の事が見えているのか?」
「なるべく捕獲はしておきたいの」
ミザリーは相手に傷を付けないように反撃を始めた。
「それっ」
まずは小手調べとばかりに軽めの拘束魔法を放つ。
ミザリーの手の平から『ヒュンッ』という音と共に光の輪が三つ解き放たれた。
異形の者達は一瞬で縄に拘束されたかのように地面に転がった。
何が起きたか分からない顔をしてじたばたと動き回る。
だがそれも長くは続かず、腕にグッと力を籠めると一気に拘束を解いていた。
「フム、そう簡単にはいかぬか?」
「少し強目にもう一回じゃ!」
ミザリーは強度を上げた拘束魔法を再び放った。




