48話 魔道士ミザリー
ミザリーはクリストファーの屋敷を出た後、自分の領地へ向かいがてら気ままな一人旅を続けていた。
いくつかの町や村を通過して数日前に国境近くの街クラカーマに入った。
気が変わるまでそこに滞在するつもり予定でいる。
つい先ほど昼食を街の食堂で済ませ、逗留している宿屋に戻ってきたところだった。
部屋に入るとミザリーは鞄から薄紫色のポーションを取り出しテーブルに乗せた。
街中で耳にした噂話に興味を持ち、入手しづらくなっていた薄紫色のポーションを運よく手に入れたのだ。
椅子に座るとテーブルに置いたポーションを持ち上げあらためて観察する。
「ふむ、やはり儂の目は節穴ではなかったの……」
店で買い求めた時に感じた違和感は気のせいではなかったのだと頷く。
鑑定のスキルを持つミザリーにはポーションの中身が何なのかが視えている。
「通常の鑑定スキルでは、このポーションの本当の姿はまず把握出来ぬじゃろうて」
「全くこんなおぞましいものが出回っておるとは……」
顎に手を添えしばし思案する。
「やはりどう考えてもまずい状況じゃな。サンシャインの小僧とクリスちゃんには伝えた方がよかろう」
ミザリーは立ち上がると部屋の中心へ移動して小さく呪文を唱えた。
床が一瞬淡く輝くと白い紋様の魔法陣が浮き上がってきた。
ほどなくして中から鴉のように真っ黒な二羽の鳩が飛び出してきた。
飛び出た鳩達は部屋の中をパタパタと一周すると、ミザリーの前へ降り立った。
降り立った鳩達を見ながら、ミザリーは胸元から紙とペンを取り出しサラサラと文字をしたためた。
手のひらにそれを載せると何やら呪文を唱え同じ物をもう一部作り出した。
「文書にしか使えないのがほんに不便じゃの」
それをクルクルと丸めて、鳩達が背負っている鞄に入れる。
「お前達。これを急いで届けておくれ」
「おっと、クリスちゃんにはもう少し伝言を追加しておくかの」
仕舞った物を取り出して文字を書き入れた。
「ふむ。これでよかろう!」
ミザリーから手紙を託された鳩達は大空に羽ばたくとその内空中に霧散していった。
魔法で造り出された彼等は鳩の姿を象っているだけの存在に過ぎない。
目的地までは風に溶け込み時折姿を現しながら移動する。
飛び立った鳩達を見送るとテーブルの上の薄紫色のポーションをあらためて凝視する。
「そういえば町外れの救護院に隔離されている者達がおると言っておったな」
噂では救護院に収容された者は誰一人出て来ておらず、普段は誰でも近寄れる所らしいが、今現在は、部外者以外立ち入り禁止となっているとの事だった。
「どれ様子でも見てみるかの」
ミザリーは身支度を整えると部屋を後にした。
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数刻後、ミザリーの姿は町外れの救護院の前にあった。
救護院に収容されている者達は隣国から越境して来た者が多いと聞いている。
最初は小さな痣が出来その内全身に広がるとか……。
接触しても感染しないとの事らしいが、警戒心と不安を募らす住民達の事を考え、駐留する騎士団の判断で全員収容されているとのことだった。
建物の近くまで来たミザリーは更に近づこうとして薄手のカーテンに触れたような感覚を覚えた。
その手触りからどうやら建物を取り囲むよう侵入不可侵の魔法が張り巡らせているのだと気づいた。
ミザリーの口から、「ほほうっと」少し嬉しげな声が零れ出ていた。
「どれっ少しは張り合いがあるかの」
丁度そこへ交代の時間なのか騎士団員達がやってくるのが見えた。
ミザリーはこれ幸いと建物の影に隠れ隠遁の呪文を唱えると彼等の後に続き中へ入って行った。
建物に入る瞬間にカーテンのような物を分け入ったような感覚があったが、騎士団員達は何も感じていないようだった。




