47話 強力な後ろ盾
アーノルド様の申し出について即答出来なかった私は、少し考える時間が欲しいとお断りして、ルーベンス侯爵家を後にした。
屋敷を出る頃には日もとっぷり暮れてしまっていた。
今夜の宿を探さないと駄目ですねとローランさんと話していたら、クリスが心よくサリュー家へ招待してくれた。
ついでにルーベンス侯爵家から馬車を出してもらい、私達はクリスの屋敷へ向かう事にした。
馬車へ乗り込むとクリスは早速、防音壁の魔法を展開していた。
これで私達の会話が外に漏れることはない。
「アーノルド様の件どうしたらいいでしょうか?」
馬車が走り出してしばらくの間、車窓に映る街灯に照らされた街並みを楽しんでいた私は、ローランさんへ先程の件を振ってみた。
「菜摘さんさえ良ければ、私に異存はありませんよ」
「むしろ強力な後ろ盾が出来て、他の貴族達も菜摘さんをどうこうしようとは思わないでしょう」
菜摘の正面に座っているローランは眼鏡の縁をクイっと指で持ち上げて即答した。
「私の事をどうこうしようって考える人いると思います?」
全くローランさんは何言ってるんだか……。
さも私が何処ぞの貴族に狙われる前提で話しているけど、傾国の美女ではあるまいし。容姿はいたって平凡だと自覚してますよ。そんな事より今はノエルをモフりたい!
「菜摘さんはどうも分かっていないようですね?」
ローランは菜摘が話しを右から左に受け流して、真剣に聞いていない事に気がついた。
「目を見れば分かります。心ここにあらずで違う事を考えてましたよね……」
ローランは大きくため息をつく。
「えーと。ほらローランさん私って自分で言うのも何ですが魅力的とは言いがたい容姿ですよ。狙われる何て事は万に一つもありませんって。心配ご無用です」
菜摘は慌てて取り繕った。
「いいですか菜摘さん。貴方を可愛らしいと思って寄ってくる貴族もいるかも知れませんが、気をつけて欲しいのはどちらかと言えばポーションです」
「ポーション?」
「ええ、ポーションですよ。エクストラポーションが問題です」
ローランはキョトンとした顔で聞き返す菜摘を見て、まだ分かっていないのだなと思った。
「菜摘さん、あのエクストラポーションはとんでもない代物ですよ」
「あれがですか……」
薄緑色のポーションは確かに作り方にコツがいるので難しい。
そのうえ二本目、三本目と性能は落とさずに同じものを作るという作業も大変だった。
が、日々の鍛錬で魔力を高めることが出来た今の菜摘にはポーション作りは簡単なものになっていた。
「私が悪い貴族だったら、それこそ菜摘さんを誰の目にも触れない所に監禁してポーションをじゃんじゃん作らせますよ! その辺分かってますか?」
ローランはさも悪そうな顔をして菜摘を見た。
「クリストファー様も同じことしますよね?」
同意を得ようとローランはクリスの方を見て笑う。
「機会とその気があれば私もそうするかもしれないな……」
腕組みをしながらクリスは真面目な顔で菜摘に向かって答えた。
「かっ監禁って……」
聞き流せない単語が出てきて菜摘はドキっとした。変な汗が出始める。
「ローラン殿。怖がらせるのはその辺でいいだろう」
菜摘の顔色が徐々に蒼くなるのが分かったクリスは悪ふざけが過ぎたと口を開いた。
「菜摘殿。閣下の申し出を受けた方が貴方の為にもいいと私は思う」
「閣下はこの国のトップから数えた方が早い地位におられる方だ。その方が後見人になるというだけで周りの扱いは違ってくる。それでも横槍を入れるというのであれば私は容赦しませんよ……」
最後のセリフがやけに愉しげに聞こえたのは気のせいだろう。
「うーん。現役貴族のクリスがそう言うのね……アーノルド様の申し出は私にとってメリットしかないって思っていいのかな?」
クリスとローランさんの顔を交互に見た私に二人は大きく頷いた。
アーノルド様のお願いごととは、私の後見人になりたいと言う事だった。
何故見ず知らずの者の後見人になりたいと言うのか尋ねてみれば、目当てはもちろんエクストラポーションを融通して欲しいからとおっしゃった。
そういうところは普通ぼかして伝えるのでは?と思ったけれど、気さくなアーノルド様らしいとも思え好感が持てたのも事実だ。
「分かりました。アーノルド様には申し出をお受けしますと返事しようと思います」
こうして私は、ご老公様の印籠と大きな後ろ盾を手に入れ強大な権力を得たのであった。
ラミハサーガ国で私を止める者はもう誰もいない……なんてね。




