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40話 ローラン

 常連客のジョンさんから、菜摘さんが捕まったと聞いて、私は彼女の嫌疑を晴らすために何か出来ることはないかずっと考えていた。


「菜摘ちゃんは厄介ごとに巻き込まれやすいわね……」

 

 彼女が捕縛された事を伝えると姉のサマンサは神妙な面持ちで呟いた。

 その点については私も同感だ。


 菜摘さんはトラブルとは無縁そうに見えるが、世間に疎いところがあるせいか見ていて危なっかしいところがある。

 何かに巻き込まれてしまうのは、それと関係しているのだろうか……


 あれから三日が過ぎた。この三日間彼女はどう過ごしていただろうか。

 食事は摂れているだろうか? 酷い仕打ちを受けてないだろうか? 頭から離れず私は仕事が手に付かなかった。……正直自分でも驚いている。


「あの後レオンに菜摘ちゃんの状況を知らせるよう連絡してみたけどね、詳しい事はよく分からないそうだよ」


 城勤めの義兄レオンなら何か分かるかと思っていたが、やはり駄目なようだ。


 そんな折、騎士団から事情を聞きたいとの出頭命令が来た。無論断ることは出来ない。


 店にいても落ち着かないローランは、指定の日時まで数日の猶予があったが早めに向かう事にした。


「マーク、私が留守にしている間、店の事は任せましたよ」


「はいっす! 心配ご無用っす」


「それじゃ姉さん行ってきます!」


「菜摘ちゃんの誤解を晴らしてやっとくれ」


―――――


 クイーツ村を出発してしばらくの間、牧歌的な光景がどこまでも続く道を進む。


 さすがに王都を目指している人々は多い。商隊のキャラバンや幾人もの旅人に追い越された。逆に王都経由でどこかへ向かう人達ともすれ違う。 

 

 王都に入る手前の街道沿いまでやってくると、しばらくの間すれ違う人もなく辺りは静かになった。鳥のさえずりと木々が風に揺れている音だけが聞こえてくる。


「こういう雰囲気もなかなかいいもんですね……」


 ローランは深呼吸をした。凝り固まった思考が自然とほぐれていくような気がする。


 背伸びをしつつ辺りを見回すと、道の上にくっきり残る轍の跡が目に留まった。

 轍の跡はある一定の距離まで真っ直ぐだったが途中から道をそれている。

 土がえぐれているところを見るとスピードが出ていたに違いない。


 ローランは曲がって行ったと思われる方向へ視線を向けた。

 街道から逸れた脇道は鬱蒼とした森の中に続いている。目を凝らして見ると奥の方に草が覆いかぶさるようになっている馬車が目に入った。何かに乗り上げたように少し傾いている。


 ローランは通り過ぎようかとも思ったが、馬車と木の間に挟まれている男性が見えて慌てて駆け寄った。


「どうしました!大丈夫ですか?」

 

 近づいて見ると男性は口から泡を吹いていた。肩を揺すって声を掛けたが反応がない。男はこと切れていた。


「誰か乗っていますか?!」

 

 他に人はいないか確かめようと馬車の扉を開けた。中には老紳士と妙齢の女性が乗っていたが返事がない。

 ローランは馬車に乗り込むと二人の状態を確認した。女性は軽い脳震とうを起こし気を失っただけのようだが、老紳士は状態が良くない。

 

 こんな事もあろうかと、いつも出掛ける時は鞄の中に複数のポーションを持ち歩いていた。

 薄緑色のポーションを取り出し、老紳士の口元に一雫垂らす。

 反射的に老紳士の唇は動くと呑みこんだ。しばらくすると老紳士の胸元が僅かに光ったのが見えた。


「うううっ!」


 老紳士は僅かにうめき声を発して薄目を開けた……が、開けると同時に傍らのステッキを手に取るとローランめがけて振り下ろそうとした。


「何するんですか!!」


 ローランは振り下ろされようとしたステッキを慌てて手で制した。


「んん? お主は誰だ?」


「私は通りすがりの者です」


 この爺さん物騒だな……と思いながら答える。


「おおそうじゃ! エミリアは無事か?」


 老紳士はローランの言葉を遮るかのように反対側に座る妙齢の女性に声を掛けた。


「彼女を気を失っているだけですから大丈夫ですよ」


 ローランは軽い脳震とうだろうと付け加える。


「儂の可愛いエミリアに何もしていないだろうな!!」


 老紳士がえらい剣幕で突っかかる。


「私は気を失っている女性を襲う趣味はありません」


 ローランは失礼な爺さんだな……と思いながら答える。


「それよりも……ですが、貴方は心の臓が悪いのではないですか?」


「何故そうだと分かる」


 老紳士はその言葉を聞くとローラン見て訝しんだ。


「私はクイーツ村で薬師をしているローランと申します。仕事がら貴方の状態は見ていて分かリます」


「差し出がましいようですが、あまりいい状態とは言えません。これを差し上げますので後で飲んで下さい」


「お嬢さんにはこちらを……」


 ローランは、老紳士に先ほど飲ませた薄緑色のポーション、女性用に青色のポーションを手渡す。


「お嬢さんの方は単なる気休め程度のポーションです。精神を安定させる効能があります」


「ふむ、薬師であったか……なれば納得だな」

 

 老紳士は合点がいったようだ。


「そころで、御者が表におったかと思うが。どうしているかお主分かるか?」

 

 老紳士の問いにローランは答えた。


「そうか……あ奴はきっと無理してたのじゃな……」


「しかし困ったのう……代わりはすぐに来ぬし……ところでお主は馬車をあつかえるかの?」


 ローランは老紳士に”ええまあそれなりには……”と答えていた。


 






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