41話 渡りに船
老紳士達は王都へ帰る途中だった。行先が同じだったローランは馬車を扱えることもあり代わりの御者となって同行する事にした。
手綱を取り目的地に向かって馬を走らせる。ローランの隣には布に包まれた御者がいる。
走り出してから数時間後、馬車は王都に入った。老紳士の家は王都の中心からさらに奥にあるらしく、ローランは指示に従い道なりに進んで行った。ほどなくして前方に大きな屋敷が見えてくると、あれだと言う声が後から掛かった。
「やはり貴族でしたか……」
老紳士の佇まいから察しはついていたが、屋敷を見てローランは納得した。かなり大きな邸宅だった。
門から入って少し進んだ所で馬車を停めた。
門番から連絡が行ったのか屋敷の方向から、数人の使用人達が走ってくるのが見えた。
「馬車に乗せていただいてありがとうございました」
御者台から降りたローランは、馬車から降りてきた老紳士へ礼を言った。
続いて降りてくる孫娘には手を差し出して誘導する。
「どのみち儂らでは扱えないからの、お主が御者代わりをしてくれて助かったぞ」
老紳士もローランに対して謝意の言葉を掛けた。
「旦那様! お帰りが遅いので皆で心配しておりました」
小走りで駆け付けた執事らしい出で立ちの男が老紳士へ声をかけた。
「うむ。セルジュが急死してしまって儂らは立ち往生していたのだ」
急死した御者はセルジュという名前らしい。
「家族に連絡して、セルジュを手厚く葬ってやってくれ」
「はい、かしこまりました」
執事に促され、他の使用人達は御者台から亡骸を引き取ると屋敷へ運んで行った。
その姿を見送り孫娘と顔を見合わせた老紳士はローランへ向き直った。
「お主には何か礼をせねばならぬな! お主の用事には時間はまだあるのだろう?」
「それはそうですが……」
宿を取っていなかったローランは、一泊して行けという老紳士の申し出を考えて受ける事にした。
「そうと決まれば早速我が家へ招待しよう」
――――――
一方その頃、騎士団団長室を魔道士団団長のクリストファーが訪れていた。
騎士団団長のアビゲイルは人払いをすると、幼馴染を見つめる。
「アビー! 菜摘殿に会わせてくれ」
クリストファーは部屋の入り口に立っていたが、二人きりになると座っているアビゲイルへ詰め寄った。
「クリス、久々に会うなり第一声がそれか? 我は驚いたぞ」
アビゲイルは嬉しいような哀しいような複雑な顔をした。
仕事以外に興味を示さなかった幼馴染が、他の事に目を向けたのを友として歓迎していた。ただ、その興味の対象と思われる者は騎士団に収監されている。
「この時期にまずいだろう! お前の評価に傷がつくぞ」
アビゲイルはクリストファーを窘めた。
「アビーそんな事はどうでも良いのだ……それでどうなんだ!」
クリスはアビゲイルの言葉をつっぱねた。
「はぁ……そうだった我は忘れていた。お前は昔から頑固な奴だったな」
「いいだろう、但し時間は五分しかやれん。それで良ければこの時間に来てくれ」
アビゲイルは腕組みしながらしばし考えると紙に時間を書いてクリストファーに手渡した。
深夜と言ってもいい頃。
牢屋が連なる一画に、ランプを手にしたクリスの姿があった。門番はアビゲイルの指示が出ていたのか姿が見えない。
「……菜摘殿!」
薄暗い中一つの牢屋の前で立ち止まったクリスは声を抑え気味に呼び掛けた。
「……」
ベッドの上に横になっている菜摘が見えたが、返事がないのでもう一度呼んでみる。
「……クリス? またこんな無様な恰好をクリスに見られるなんて」
と言いながら思っていたよりも元気そうな菜摘が出てきた。
鉄格子の前まできた菜摘をクリスはじっと見つめると、格子に手を入れ頬に触れた。
「これは誰にやられたんだ?」
菜摘の赤く腫れた頬をみて顔をしかめた。
「ああこれは……入る時にちょっと……」
罪人と見れば容赦しない人だっているわけで……菜摘も納得しているわけではない。
「菜摘殿。時間は限られているので話は手短に……貴方が早くここから出れるように手を尽くしますので、味方がいることを忘れないでください」
クリスの励ましに菜摘は嬉しい気持ちで一杯になった。




