30話 サリュー家でまったり
話は少し遡り27話の続きです。
クリスに抱きかかえられ恥ずかしい思いをした後、私達は屋敷の中へ通された。
感涙にむせんでいたダンディーな叔父様は、執事のクロードさんという。
クリスは広間のようなところで、あらためて執事のクロードさんへ私を紹介した。
「クロード。彼女は菜摘殿だ。一週間ほど我が家に逗留するからその間の世話を頼む」
しばらくお世話になります……喋れない私はクロードさんにぺこりとお辞儀した。
執事のクロードさんは目頭にハンカチを当てながら、
「初めまして菜摘様。私は当サリュー家で執事を任せられているクロードと申します。ご滞在中の間お世話させていただきますので、何なりとお申し付けください」
と言って気品を感じる綺麗なお辞儀をした。私の中でダンディなクロードさんは好感度大だった。
「ああそれから、彼女は今声が出せないから。その辺はうまくやってくれ」
「かしこまりました」
クロードさんは特に驚くこともなく言葉を返した。
「キャー!!」
外がなんだか騒がしい。声のした玄関の方を見ると、追いついたノエルが丁度、前庭へ駆け込んできたところだった。
牛サイズのノエルを見て屋敷の人達がパニックになり右往左往している。
その場にへたりこんでしまった人もいた。
クロードさんだけは眼鏡の端を指で押し上げながら
「インフェルノ・ルプスですか? これはまた珍しい!」
と言っていた。流石というか執事を任せられる程の人は肝も据わってらっしゃる。
クリスは説明不足だったなという顔をして、パニックになっている屋敷の人達を宥めるために出て行った。
驚かせたのを悪いと思ったのかノエルは『シュルルルルーン』の音とともに豆柴サイズに縮んでみせる。
「キャー可愛い!!」
今度は黄色い歓声が聞こえてきた。そうでしょそうでしょノエルは可愛いのよ。
皆が落ち着きを取り戻したのを確認してクリスはノエルを伴って戻ってきた。
それから私はクリスと一旦別れ、寝泊まりする部屋をメイドさんへ案内してもらうことになった。もちろんノエルは私と一緒の部屋だ。
荷物は肩にかけた鞄だけだったけど、メイドさんはそれを運ぼうとしてくれた。大した量でもないし悪いので丁重に断る。
メイドさんに連れられ案内された部屋は、まあそれはそれはとにかく凄いの一言だった。
ヨーロッパのお城にでも迷い込んだのかと錯覚するくらい。私は行った事もないけれど……。
たっぷりドレープが取られたカーテンが高級感を演出している。備え付けられている調度品は素人目に見ても値打ちがありそうなものだった。どこをとっても素敵としかいいようがなくて自然と私の気分は高揚していた。
通された部屋を見回しながらしばし感激していると、
「菜摘様。お召し物を用意しましたのでこちらに着替えていただけますでしょうか」
ああ私の恰好は酷過ぎたかな……メイドさんに手渡された服へ着替える。
服のサイズを聞かれていないから若干心配していたら案の上、私にそれは大き過ぎた。
着替えて出てきた私を一目見るなり、メイドさんはあーという顔つきをして、
「菜摘様。少しお待ちいただいてよろしいでしょうか」
と言って足早に部屋を出て行った。
ノエルはメイドさんが出て行った方向を見ながら目の前にやってくると、
「裸で居られない人間はめんどくさいね……」
と言って床の上にごろりと寝そべった。君はそのままでいいものね……
しばらくして執事のクロードさんが慌てた様子で女性を一人連れやってきた。
「菜摘様お待たせいたしました。お召し物を調整しますのでお時間よろしいでしょうか?」
断る理由はないのでコクリと頷く。
クロードさんとやってきた女性は洋裁が得意な方のようで、
「ちゃちゃっとやってしまいましょ」
と言ってあれよあれよという間に私の身体に合わせて着丈を調整してくれた。
うぉー凄い。私にぴったり。
「どうもありがとうございました!! となつみがいっている」
ノエルに念話を送り、私はクロードさんと女性に向けてお礼の言葉を伝えて貰った。
二人はノエルが人語を喋ることにものすごく驚いていたが、
「いえ。確認しなかったこちらの落ち度です」
「お気に召していただいて良かったですわ」
と言ってくれた。
呼ばれるまで部屋でくつろぐようクロードさんに言われ、お言葉に甘えてノエルとまったりすることにした。
お腹を見せて寝転がるノエルをわしゃわしゃと存分に撫でる。抱きつくとノエルは日向の匂いがした。
そんな感じでしばらく時間をやり過ごしていると、
「菜摘様。クリストファー様がお呼びです」
扉をノックする音がしてメイドさんが私を呼びに来た。
メイドさんの後をついて歩き、連れだって階下へ降りると数刻前に入って来た広間にクリスが立っていた。
どうしたのかと思ったらクリスはこれから屋敷に『防御魔法』を掛けるのだと言ってきた。
防御魔法?……聞きながらどういうものか想像つかない私は首を傾げた。
それを見たクリスはニコッと微笑んだ。何だか嬉しそう。
「それじゃ行きましょう」
私の方へ向かって手招きをした。どうやらそれを私に見せてくれるらしい。
クリスとノエルそして私の二人と一匹は、連れだって屋敷の外をしばらく歩くことになった。
時間にしてどれ位か分からない。少し離れた林までくるとクリスは立ち止まった。
「菜摘殿は魔法を見たことがないのですね?」
そう言ってクリスは両手を前に出し手のひらを上に向けると、何か呪文のようなものを唱え出した。
その声に反応するかのように、両手の上に霧の様な物が溢れ出し何かがキラキラと点滅し始める。
見ているとそれはクリスの手から離れどんどん上空に舞い上がる。
ある地点まで到達すると霧はさぁーと風に吹かれたように霧散して行った。
あれはどうなったの?…… 私は霧の消えて行った方向を見ながらそう思った。
「クリス。あれはどうなったの?」
ノエルが私の思ったことを言葉にしてクリスに伝えた。
「ああ。あれは消えたように見えたかも知れませんが、四方へ散ってこの屋敷全体を覆う結界になりました」
クリスはそう説明してくれた。
へぇークリスってとても凄い魔法が使えるんだね。かっこいい! 私凄い人と知り合いになっちゃったかも……
空に消えて行った霧の行方に想いを馳せながら、そんな事を思っていると、
「へぇークリスってとてもすごいまほうがつかえるんだね。かっこいい! わたしすごいひととしりあいになっちゃたかも」
私が思ったことをノエルは淡々と一言一句違わずクリスに向かって声に出していた……
ノエル! そんなことまで言わなくていいから!!
私はとっさにノエルの口を手で挟んだ。




