31話 安否確認
「いい若いもんが何を遠慮しとるのじゃ!」
「ミザリーさん。そんな今日会った人にそこまでしていただくのはちょっと……」
成り行きで目の前の老女ミザリーさんに問答無用で飯屋に連れて行かれ、遠慮しないでどんどん食べろとせっつかれている。
亮介は老女のなんとも豪快な様子にタジタジだった。うちのお袋よりすごいな……
「なに重い荷物を運んでもらったんじゃ!これぐらいの事はさせてもらうわい」
亮介の母親は色んな意味で豪快な人だった。目の前の老女はそんな母の面影を彷彿とさせる。
「んっ何じゃ? 私の顔に何か付いてるかの?」
「いえ何でもありません」
亮介はじっと見つめ過ぎてしまったなと頭を掻いた。
「ところで亮介。お前さんは奥さんを探しに来たと言っておったの?」
ミザリーは目の前の皿から骨付き肉を取るとかぶりつきながらそう尋ねた。
「ええまあ」
「奥さんは家出人じゃろか?」
初対面の老女にどこまで話したものかと亮介は一瞬悩んだが手短に話すことにした。
「妻は薬草を売りにこの村へ来ているはずなんですよ」
「ほう。薬草とな!」
「はい。いつもは直ぐに帰ってきているんですが、今回は少し遅いので気になりまして」
「それは心配じゃな」
「ええ。幸いこの村には知り合いがおりますので、この後訪ねてみるつもりです」
「そうか。まずはそれからじゃな」
ミザリーは時折相槌を打って亮介の話を聞いていた。
「儂も力になれるかも知れん。名前はなんというんじゃ?」
「菜摘。野中菜摘と言います」
「野中菜摘じゃな。お前さんと同じで黒髪かの?」
「ええそうですが、よくお分かりで……」
「うむ。名が珍しいからの。そしてお前さんと同じ風貌かと思うてな。黒髪も滅多におらぬでの」
「ああそうでしたか。背格好は大体これくらいです」
亮介は立ち上がると自分の胸の高さに手を当てた。
「随分と小柄じゃの。分かった気に留めておこう。家に戻るよう伝えればいいのじゃな?」
ミザリーは懐から紙を取り出すとさらさらと何か書き留めた。亮介に聞いた菜摘の特徴を書いているようだ。
「はい。もし見かけたらそう言っていただけると助かります」
「ところでミザリーさんはこちらの村に住んでいらっしゃるんですか?」
亮介は自分の用件だけ話すのも悪いと思い話しを振った。
「いや。儂は通りすがりじゃ。用事を済ませて自分の家へ帰る途中での」
「そうでしたか」
「この村出身じゃないがな。知り合いに探し人を見つけるのが得意な者がおるでの。そ奴に聞いてみるわい」
「ありがとございますミザリーさん。今日はごちそうさまでした」
食事を済ませ手を合わせると亮介はミザリーに礼を言い席を立った。
「何こちらこそありがとうの。そなたも達者でいるんじゃぞ!」
ミザリーはニカっと笑うと亮介に向かって手を振った。
亮介も手を振り返してサマンサの家へ向かって歩き出した。
「おや亮介さん。久しぶりだね今日は一人かい?」
村の中をサマンサの家を目指して歩いていると後ろから声がかかった。
振り向けばこれから訪ねようとしていたサマンサだった。
「ああサマンサこんにちは! お久しぶりです。ちょうどいいところで……」
亮介はサマンサに菜摘の事を聞いてみる。
何でも聞けば薬草を売りに来たのは一週間以上前で、その後は会っていないとの事だった。
向こうの世界とここでは時間の流れ方が随分違う。
ここでの感覚では一週間以上音信不通ということになるが、亮介の中では一日経ったぐらいの感覚だ。それほど驚きはしない。ただ、なにか引っかかっている。
「薬師堂に連れて行ったから、そこで心当たりを聞いてみるかい?」
「はい。お願いします」
サマンサは亮介を伴って薬師堂へ向かった。
「マーク。ローランドはいるかい?」
薬師堂に着くと、サマンサは店内にいた青年に声を掛けていた。
「ちわーサマンサさん」
マークと呼ばれた青年は顔見知りだからなのか、随分くだけた物言いで挨拶をした。
「済みません。ローラン先生は隣村へ出掛けたっす」
「そうかいそれは残念だねぇ。あっでもマークは知ってるかい?」
「何のことっすか?」
「マークは菜摘ちゃんの事知ってるだろう?」
「はいっす。この前お会いしたっすよ!」
「ここに来た後何処かに行くといってたかい?」
「薬草園に行くと言ってたっすね。反対側の門から出た方が近いっすから途中まで僕が見送ったすよ!」
「その後は戻って来たのかい?」
「それ先生とも話したっすけど、ここには顔は出さずに帰ったらしいと話してたっす」
亮介はサマンサと顔を見合わせた。
「薬草園に行ったきりでしょうか? サマンサさんはどう思います?」
「帰りがけにここに顔出す必要もないし、村を通らずに帰る道もあるからね」
「そうですか。それなら入れ違いでもう戻ってるかも知れませんね」
亮介は薬師堂の店内で端の方に移動すると少し黙って考えた。一旦戻ってみるか……
「あっいらっしゃいませ!」
客が入ってきたようで、先ほどのマークが声を張り上げた。入ってきた客はローブ姿の若い男だった。
「サマンサさん。あのお客さん村の人達となんだか身なりが違いますね」
村人達と雰囲気からして違う若い男に目が向いて亮介はサマンサに尋ねた。
「あああれかい。あの恰好なら魔道士団の人さね」
「魔道士団?」
「そうさね。最近ここら辺で火事騒ぎがあってね見回りに来てくれてるのさ」
「そうですか……」
魔道士団の若い男は緑色のポーションを買いに来たようだった。
「多分そこの団長さんかも知れないね」
そう言ってサマンサは自分の左胸のところをトントン指し、階級を証明するものがそこにあるのを教えてくれた。
へぇーここにも黒髪の人がいるんだな……
先ほど会ったミザリーは黒髪は滅多にいないと言っていたが、目の前の若い男は黒髪だった。
亮介は変なところで感心した。
「サマンサさんお手数お掛けしました。もう戻っているかも知れないんで一旦帰ります」
「そうかい。もし居なかったらすぐ知らせてくれよ」
「はい。そうします」
亮介はクイーツ村を後にして神奈川の自宅へ帰るため『彷徨いの森』を目指して歩き出した。
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