28話 魔道士団
クリストファー達魔道士団が廃屋から撤収した翌日。
ー王城の魔道士団隊舎前修練場ー
始業の鐘が鳴り終わると魔道士団の一日は鍛錬から始まる。
「お前達気合いを入れて集中しろ」
「はい!」
「おお!」
「ハッ!」
修練場に響きわたる若い団員達の声。
彼等は魔道士団の中ではまだ実戦経験の無い、入団して一 、二年の新米達だ。
来たる日のために今はひたすら鍛錬の日々を送っている。
騎士団とは違ってそれほど身体を鍛える必要は無いが、最低限の身体能力は底上げしておく必要はあった。
一通りのメニューをこなした後は、各々の得意魔法を更に強化する鍛錬へ移る。
自習に近い鍛錬は整然と並んで行う必要はない。
集団は自然とばらけ自分達の集中しやすい場所に其々散って行った。
そんな中、三人の団員達が練習場所へ向かう間噂話しをしていた。
「なあお前達。あの話し聞いたか?」
赤毛の団員が周りをキョロキョロと見まわしながら話しを切り出した。
「何の話しですか?」
少し線の細い、細面の団員は尋ねた。
「火事か? 団長の事か?」
二人に比べると大柄な団員は、思いつく事を上げた。
その程度の聞き方では二人共思い当たる事はなさそうだ。
「団長達クイーツ村の外れに廃屋を見つけただろ?」
「ああそうでしたね」
「索敵魔法に反応なかった場所だろ?」
正式発表はされていなかったが二人は人伝には聞いていたようだ。
「そこで娘、いや小娘を保護したってのは?」
「いえ私は初耳です」
「可愛いいのか?」
「それがどうしたんだ?」
可愛いかどうかが気になる大柄な団員が尋ねる。
「普通は魔道士団に連れてくるだろ?」
「そうですね」
「そうだな」
三人共その点については同じ意見だった。
「それがな! 何故か団長は家に連れて行っただと」
「それは妙ですね」
「やはり可愛いんだな?」
「保護した女の子ですか……」
三人の中では比較的丁寧な言葉遣いの団員はそう言うと、顎に手をあてながら何か口ごもっていたが、
「団長はてっきり殿方が好みかと思ってましたが、そちらでしたか」
と続けて言った。
「ああ俺も今そう思ったよ。団長がな……」
大柄な男は溜め息をつきながら渋い顔になっている。
三人はひとしきりその話しで盛り上がると思い出したように自己鍛錬に没頭し始めた。
きちんとした説明がなされるまで、しばらくの間新人達の間では同じ噂が広まっていった。
団長に特別な感情を持っていた団員の中にはハンカチを噛み締め号泣する者も出るのであった。
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同日午後。
クリストファーが率いる魔道士団の精鋭部隊は、薬草地帯の一つに向かって馬を走らせていた。
そこに団長であるクリストファーの姿はない。
クリストファーは王城の魔道士団には寄らず屋敷から直接現地へ向かっていた。
合流地点へ馬を走らせながら、クリスは屋敷を出て来た時の光景を思い出していた。
出掛ける時は屋敷の者達に見送られているが、いつもと違い今日は菜摘も見送りに混じっていた。
「家人以外の女性に見送られるのも悪くないな……」
馬上から見送りの家人達を見回して菜摘のところで視線を止める。
目と目が合った菜摘は一瞬戸惑った様子だったがにっこり微笑んだ。
クリストファーはそれを思い出す度、自然と口元が緩むことに自分では気づいていなかった。
しばらく走り続けると魔道士団の精鋭部隊との合流地点に到着した。
クリストファーは早速仕事に取り掛かる。
「いいか皆。この辺り一帯にこの様な形で防御結界を張ってくれ」
団員達の前で防御結界の魔法を展開する。
団員達は指示された通りに見よう見まねで魔法を放つ。
遠目には空中に金色の蜘蛛の糸が広がっている様に見える。中々綺麗な光景だった。
「君。もう少し魔力を注いでくれ」
「君は、安定させる様にこの辺に気を付けてかかれ」
一人一人に的確なアドバイスをし、魔力を調整してやる。
精鋭部隊の面々は難しいとされている上級魔法を使いこなすほどの者達だが、クリストファーと比較するとその足元には到底及ばないものだった。
クリストファーはそんな彼らに自信を持たせ、経験を積ませるために防御結界の展開を任せた。
だがクリストファーが目指す防御結界にはまだまだ強度が足りていない。
クリストファーは団員達が張った結界を空間を操って重ね合わせた。
重ねる事でその弱さを克服する。
「まずまずだな……これでいいだろう」
出来上がった防御結界の仕上がりを見て納得すると手をかざして魔法を付与した。
結界はキラキラと光の粒子を放ちながら目の前から掻き消えていった。
「団長! 今のは何をなさったのですか?」
団員の一人が疑問に思って聞いた。
「ああそうだな。君達は見るのは初めてだったか?」
「はい!!!」
団員達は一様に頷いた。
「君達が作った防御結界に私はリフレクションを付与した」
「リフレクション?」
「ああそうだ。攻撃をしてきた術者へそのまま魔法を跳ね返すことだ」




