23話 あらぬ疑い
「人妻をたぶらかしたクリストファーはいるか!」
聞き捨てならない言葉を発しながら、魔道士団団長室の扉をノックもせず一人の男が入ってきた。
男の名は、ラミハサーガ国の騎士団団長アビゲイル・ウルバート。彼は幼馴染のクリストファーを冷やかしにやってきたのだ。
「いつも言っているが、アビゲイル・ウルバート伯爵。ノックくらいしたらどうなんだ」
書類の山をあらかた片付け、紅茶を飲みながら一息ついていたクリストファーは、アビゲイルの言葉に苦笑いしていた。
「それに誤解を招く言い方はよしてくれないかアビー」
「聞いたぞクリス。人妻を屋敷に連れ込んだそうじゃないか」
「我が屋敷に逗留してもらったのを、連れ込んだというならそういう事になるな」
「ほー。あっさり認めるんだな」
アビゲイルは楽しそうに目を細めてクリスを見た。口元は僅かにニヤついてる。
「それでアビー。なにか問題でもあるのか?」
クリストファーは幼馴染が何を言わんとしているのか聞いた。
「女絡みの噂が無いクリス君の事を我は心配していたのだ」
「それとこれと何の関係がある」
アビゲイルはクリストファーの側へスススっと近寄ると、口に手を添えて小声になった。
「したのか?」
アビゲイルの囁いた言葉を聞き、クリスは危うく紅茶のカップを落としそうになる。
「そんな事するか!! 彼女に手を出そうものならルプスが暴れるさ」
「クリス。格好よく颯爽と彼女を助け出したのだろう? 命の恩人に惚れない女なんていないさ。礼をするならそういうこともあるだろう」
アビゲイルは大げさに一連の流れを身振り手振りで説明する。最後には、男女がお互いを抱きしめ合う恰好を取ると、クリストファーにウィンクして見せた。
「我には隠し立てしなくてもよい」
アビゲイルは分からんでもないぞ……という顔をしながら、クリスの肩をぽんぽんと叩いた。
「私がそんな卑怯な事をする奴だと思っているのか君は? 仮にもしそんな事になっても、私は助けた代わりになどと言うつもりはないがな……誠意をもってお願いするよ」
クリストファーは、いつまでこのやり取りを続けるのかと少々呆れながら言葉を返した。
「それで、彼女のことで冷やかしに来ただけなのか?」
クリストファーの反応を一通り楽しんだアビゲイルは真顔になると、
「此度の騒動、その人妻が関わっていることは万が一にもないか、摂政殿下が疑っておられた」
「摂政殿下が?」
「ああ。タイミングが良すぎるのではないかと仰ってな……」
クリストファー達魔道士団が廃屋に集まっていた頃、本来向かう予定だった薬草園が襲撃されていたのだ。
「お前たちを其処に引き留める陽動ではないかとさ」
襲撃を防げなかったことに対しては、弁解も余地がないが……とクリストファーは思う。
「根拠もないことを仰るな。それこそ摂政殿下の思い違いだ。彼女は襲撃とは一切無関係だ!」
クリストファーの主張に、アビゲイルはしばし考える素振をして、
「なあクリス。お前は何処まで彼女の事を信用しているんだ? 彼女の素性ははっきりしていないのだろう?」
と、クリストファーへ言った。
「それは……」
アビーの問いかけに、クリスは適切な言葉を用意できなかった。
素性に関してはクリスにも疑念が残っている。菜摘は自分にはクイーツ村から来たと伝えたが、それは嘘だと知っていた。彼女と別れた後、ルーシーに後を付けさせたからだ。
彼女はクイーツ村ではなく『彷徨いの森』へ入って行った。その先の足取りは掴めていない。
「彼女は被害者だ。断じて一味と関係していないと私は信じる」
クリストファーは菜摘の顔を思い浮かべながら、強い口調で断言した。
「ならばお前は彼女を擁護する必要があるな。近い内に彼女に対して捕縛命令が下るだろう。見つけ次第連行して審議会が開かれる」
「何だと! 正気か!?」
クリストファーは何馬鹿な事をと机を叩いて抗議した。
最後まで読んでいただきましてありがとうございました。
少しでも良かった。次話も読んでみたいと思って頂けたら嬉しいです。
ついでに評価もしてもらえると今度の励みになりますので、よろしくお願いします。




