表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
24/76

24話 手首の傷痕

話は少し前に戻ります。

 廃屋の前に天幕を建ててから三日ほど経過した。


 私はまだ喋れないけど、助けてくれたクリストファーの事は、クリスと呼ばせてもらうことにした。名前が長くて舌を噛みそうだから。


 インフェルノ・ルプスの仔犬、ノエルはあれから豆柴サイズのままでいる。一度、赤ちゃんサイズにとお願いしたら、それは無理だと断られてしまった。

  

 天幕の外を覗くとクリスはさすが魔道士団の団長様という感じで、部下達にテキパキ指示を出している。捕まえた黒いフードの男達をどこかへ連れて行くようだ。


 私は今日、専門の先生の診察を受けるために、天幕の中で一日過ごすことになっていた。


 先生を待つ間、クリスは部下に頼んでいたようで、飲み物が運ばれてきた。

 

「団長は天幕が出来上がってから一昼夜、貴方の側に付き添ってましたよ」


 飲み物を届けてくれた部下の人が、話の流れでそう教えてくれた。


 付き添って……って私は寝顔をバッチリ見られたということよね。その時の私は色々と大丈夫じゃなかったと思う。かなりの醜態を晒していたはずだ。穴があったら入りたい。

 思わずノエルの背中に顔を埋めてグリグリした。


「菜摘どうしたの? あいつは菜摘に変なことしてないよ」


 私の考えが伝わるノエルがそう言って慰めてくれた。気にしているのはそこじゃないけど……

 やらかしてしまったことで悶々としていたら、予定通り先生がやってきた。

 

 クリスが診てくれたところも含め、一通りの診察を受ける。


「一応回復薬は処方しますが、その手首の傷痕は残るでしょう」


 回復薬を私に渡しながら先生はそう言った。思ったよりこの傷は深かったらしい。


 喋れない私はコクリと頷く。


 手首に傷痕なんて……どうしよう。人目はもちろん気になるけど、これって亮さんがあらぬ誤解を受けるかも知れない。『DV』だってね。


 手首に巻かれた包帯を見ながらどうやったら消せるだろうかと、顎の下に指を押し当てながらしばらく考える。


 ふと私はすっかり忘れていたあるものを思い出した。捕まるまで手に持ってた鞄。


 自分に起きたことに動揺してすっかり頭から抜け落ちていた。


 あの鞄には売上金とローランさんから貰ったポーションが入っている。


 私がいる天幕の中にはもちろん無い。クリスは鞄について一言も触れていなかったから、閉じ込められていた部屋にはきっとなかったのだろう。


 命があるだけでも良かったと思うべきなんだろうけど、冷静になってみればせっかくの売上金とポーションを諦めるにはまだ早いと思う。


 ここはやっぱり頼むしかないかな……とそんな事考えてたら、側で寝ていたノエルが起きた。


 四つ脚で立ち上がると右後ろ脚をピンと反らして全身で伸びをした。見てるとそのまま天幕の外へトコトコ歩いて出て行った。

 仕草が可愛いいと思ってたら、しばらくしてローブの裾を咥えてクリスを引っ張ってきた。

 

「菜摘! 連れてきたよ」

 尻尾を振り振り満足顔のノエル。


 どうやらノエルは、頭の中でぶつぶつ言ってた事を寝ながら聞いていたらしい。

 クリスに説明してもらうためにノエルに念話を送る。


 ノエルの言葉を聞いたクリストファーは、今日はもう時間的に無理だと言って、次の日念入りに廃屋を調べる段取りを付けてくれた。


 次の日。

 

 残っていた魔道士団の人達とクリストファー、そしてノエルの面々で廃屋の捜索を開始した。

 ノエルは魔法に対して鼻が効くのだとかで同行するとのこと。

 私は入り口が跡形もなくなった廃屋へ入っていく皆を見送った。


 それからしばらく経って、時間にすると二時間あまり。クリストファー達は捜索を終え戻ってきた。

 

 クリスは見覚えのある鞄を手にしていた。

 廃屋の中には魔法で隠蔽された場所があったそうで、そこから鞄が見つかったとの事。


 売上金は案の定というか目減りしていた。

 どこのどいつよ私の大事なお金に手をつけた奴!……許すまじ。


 ポーションは鞄の隅の目立たない所に入っていたおかげか無事だった。気づかれなくて良かった。

 処方してくれた先生には申し訳無いけど、このポーションが頼みの綱だった。


 とはいえ、ポーションは一度も使ったことがない。クリスに念のため、飲むのと塗るのとどちらが即効性があるか聞いて飲むことにする。


 よし飲むぞ。私は腰に手を当ててぐいっと飲んだ。

 あの時ローランさんが、おまけにつけてくれたポーション。世話になる事はないとたかをくくっていた。


 時間にすれば五、六秒。傷ついた手首の辺りが僅かに光りを放ちはじめた。


 へーなんだか不思議。ノエル、ポーションを飲むと光るものなの?


 私はノエルに念話で話しかけた。


「クリス。菜摘がこれ飲むと光るのかって聞いている」

 ノエルがそれを言葉にする。


「いや、ポーションを飲んでも光る事はない」


 それはクリスも初めて見る反応のよう。


 暫くみていると徐々に光が弱くなって行った。見ると手首の傷痕が綺麗さっぱり無くなっている。


「菜摘殿! このポーションはどこで?」


 クリスは傷痕が瞬く間に無くなったのを見て、ポーションの出処が気になったようだった。


「菜摘は一軒だけ心当たりがあるってさ」

 

 ノエルが代弁してくれた。


 こんな形でポーションが役に立つとは思いもしなかったけど本当に良かった。

 もう二度とあんな目にはあいたくない。


 

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ