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21話 助け出されて2

 動かした指先がなにか柔らかいものに触れた。

 意識がはっきりするにつれて、最初に感じたのは指先に触れた布地の感触。

 真っ暗闇の部屋にいたはずなのに、閉じた瞼は光を感じていた。背中越しに誰かが通り過ぎる足音や話し声がときおり聞こえる。


 顔は動かさず視線を周りに向けてみれば、しっかりした布地で作られた天幕の中で私は横になっているのだと分かった。


 ヒリヒリした口元に手をやろうとして、手足が自由になっている事に気付いた。

 猿ぐつわは外され、手を縛っていたロープは跡形もない。ああ私助かったんだ……


 菜摘は安堵したが、急に不安になったのかその場から飛び起きた。手の置きどころを間違えた拍子に下へ滑り落ちた。身体に掛けられていた上着がはらりと落ちる。


 いたたたた……。思いっきり腰を床にぶつけた。


 腰をさすりつつ床を這い天幕の入り口へ向かうと、菜摘は垂れ幕を捲って外の様子を窺った。外には揃いの服を着た人達が慌ただしく動き回っているのが見える。

 

 ひとしきり様子を確認すると先ほどとは別の、入り口から死角になる場所を見つけもたれ掛かる。その内に疲れが残っていたのかうつらうつらし始めてまた眠りに落ちていった。

 

 天幕にやってきたクリストファーは、そこに寝ているとばかり思っていた娘の姿がなく驚いた。身体に掛けてやった自分のローブが床に落ちている。

 落ちたローブをひとまず拾い上げようと屈みこむと、視界の端に娘の姿を捉えた。


「なぜあんなところに寝ているんだ……」


 見知らぬ場所で落ち着けなかったのか……

 見れば、人ひとりが座れる位の場所にすっぽり納まっている娘がいた。

 

 しかし、そのままの体勢で寝ているのは身体に障ると思い、クリストファーは手慣れた手つきで抱きかかえ、元の位置へ寝かせてやった。

 今度は娘が目を覚ましても不安にならないよう、側についている事にした。


 しばし顔を覗き込んでいると、横になっていた娘が目を覚ました。

 虚ろだった目の焦点が合い視線は目の前にいるクリストファーを捉えている。クリストファーも視線を逸らさず娘をじっと見つめ返した。

 

 二人は無言でしばらく見つめ合ったまま、互いにどう話しを切り出そうか迷っているようだった。


「心配しなくてももう大丈夫だ……」

 

 沈黙を破ったのはクリストファーの方だった。片膝をついた姿勢になり菜摘を見上げながら話しかける。

 その一言で、自分は助かったのだとやっと実感した菜摘だった。



 片膝をついて彼は私に面と向かい、傷がないかを確認したいと言ってきた。

 私は無言のままこくりと頷く。

 

 失礼する……と一言断って私の両頬に手を添え、優しい手つきで顔や両手の傷を診てくれていた。

 その間の私はただただぼーと見つめている。黒髪にモスグリーンの瞳がとても素敵な人だなと思いながら……


 触診の延長で身体も診察するのだろうか。服に手が伸びてきたところで……ハッと息をのむ声が聞こえた。

「……失礼した。身体の方は専門家が診るのでこれで終いだ」

 少し頬を赤く染めモスグリーンの瞳の彼は、とてもばつが悪そうな顔をしていた。



「お嬢さん。少し落ち着きましたか?」

 少し外の空気を吸ってくると言って外へ出ていたモスグリーンの瞳の彼は、戻って来るとそう話しかけてきた。


『お嬢さん……』二人きりなのだから、彼は私に向かって言っている。

 彼からすれば、私は間違いなく十代、二十代に見えているはずだから。お嬢さんと言われる事には嬉しい反面、すごく抵抗感があった。何故か……。

 

 どういうわけだか、こちらの世界にいる時は私の見た目が若くなっているのである。

 菜摘の夫亮介も同じだった。家に帰ると元に戻っているのが残念でならない。


 見た目は若くても内面はアラフォーの私。年齢詐称を働いているようで後ろめたい。

 

 モスグリーンの瞳の彼の問いかけに私は返事をした。


「……??」


 私は口を開いてはいと返事をした。が、口から出てきたのは言葉にならない掠れ声だった。私は目を白黒させた。何度こころみても声は出なかった。

 

「もしや声が出せなくなったのか……?」

 私の様子をみて彼は察してくれた。


「何か温かい飲み物を用意してくれ」


 天幕の外に向かって彼が声を掛けると、ほどなくして二人分の飲み物が運ばれてきた。


「それを飲みながら、少し話そう」

 私は話せないけど……コクリと頷く。ひとまず少し落ち着きを取り戻そう。


 彼は自分の事を話してくれた。この国の魔道士団団長で名前はクリストファー・サリュー。

 自分の事はクリストファーかクリスと呼んでくれと言っていた。


 私の事を探していたと聞いた時は正直驚いた。私の何が気になったのでしょうか。

 こんな素敵な人に気にしてもらえてたなんてね。フフフッ。

 危ない目にあったかいがありました……ちっとも笑えないけれど。


 飲み終えると、私は彼の腕を支えにして天幕の外に出てみる事にした。閉じ込められていた家がそこに見える。


 家というものには、玄関が付いているはずだが……原形をとどめていない。


 彼は、私が家を見て疑問に感じたのに気が付いたのか、口元に笑みを浮かべて指差した。


「あれと一緒にぶち破った」


「あれ?……」


 彼が指差す方向を見ると、しっぽをぶんぶん振っている、牛位に大きな犬がそこにいるのに気づいた。


「かなり大きいけど……シベリアンハスキー?」

 私はそのわんこの事を毛色や顔つきからみてそう思った。

 

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