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19話 共闘

 私はラミハサーガ国魔道士団団長のクリストファー・サリュー。


 最近、我が国の貴重な薬草地帯を狙った犯行が頻発している。魔法が関わる案件だけに魔道士団は総力を挙げて事にあたっている。私は部下達と別れ、本来の目的から外れとある人物を探していた。


 そして今……目の前の獣。インフェルノ・ルプスに飛び掛かりそうな使い魔、白いファルコンのルーシーを念話で制しながら、私はいつでも魔法が放てるようインフェルノ・ルプスと距離を取っていた。


 ルプス相手に魔法で勝てるとは到底思えないが……この状況では仕方あるまい。


 クリストファーは冷や汗を掻きながら、目の前のルプスとのレベル差を肌で感じていた。

 

 そのルプスは伏せた状態から身体を起こすと、クリストファーにゆっくり近づいている。

 クリストファーの緊張感は更に増し、手には汗が滲んでいた……

 気づけば、ルプスはもう目と鼻の先まで距離を詰めていた。


 互いに視線は逸らさず、しばし無言で向き合っていると、


「そこの人間、この中に我の恩人がいるのだ! 協力しろ!!」

 と、インフェルノ・ルプスが言葉を発した。


 インフェルノ・ルプスが人語を喋るだと!……私は正直驚いていた。


 ルプスは一頭で街を破壊し得る魔力を持つ獣。魔法に関する逸話は色々あるが、その生態はよく知られていない。

 人語を喋るということは周知されていない。この固体が特別なのか……


 そのルプスが私に面と向かって協力しろと言ってきた。

 突拍子もない申し出に驚いたが、ここは言わせてもらおう。


「それを見も知らぬ人間に頼むのか?」


 無駄な問いかけだと思ったが念のため確認する。


「お前なら大丈夫だと周りが言っている」


「周り?? それは一体誰のことだ……」

 そこに一陣の風がサーと吹き抜けて、周りの木々がざわざわざわと揺れ出した……


 ルプスはその問いには答えず、眼光するどくクリストファーを見つめている。

 協力するのかしないのか返答を待っているのだろう。


 答えを返す気はないのだな……

 

 あくまで沈黙するルプスを見ながら、クリストファーは考える。

 ここでいつまでもルプスの相手をしているつもりはないが、逃げ出す選択はもとより無い。


 どちらにせよ抵抗するだけ無駄だろう……

 クリストファーは先ほどルプスが言った、恩人というのも気になっていた。


「それで! どう協力しろというのだ」


 作戦はいたって単純だった。共に廃屋へ突入しルプスの恩人とやらを助け出す。

 敵対するものは躊躇なく殲滅していくだけだと言ってのけた。


 どちらにせよ拒否権は無いのだと、私は腹を括った。

 

 それにしても、この辺り一帯は以前から魔導士団で捜索してきたはずだが……廃屋については一切報告が上がってきていない。

 情報を操作されたか、余程高度な隠蔽魔法が掛けられていたかそのどちらかだろう。

 敵方には中々の使い手がいるに違いない。


 バァリィリィリィリィー!ドッカーン。ガッシャーン


 派手な音が辺りに鳴り響いた。

 ルプスは廃屋の玄関を、邪魔だとばかりに風魔法で盛大に粉砕していた。

 窓ガラスが粉々に飛び散る。


 恩人とやらがそこにいたらとは考えないのだろうか?クリストファーは苦笑しながら後に続いた。


 ちらっと見れば、ルプスはこの状況が楽しくて仕方がないような顔をしている……今は気にしないでおこう。それでいい。


 ルプスとクリストファーが廃屋へ突入すると同時に、物音に気づいた黒いフード姿の男達が、あちらこちから飛び出してきた。


「うわぁー! なんだこれは!」


 玄関だった場所を見れば外の景色が広がっているのだ。驚くのも無理はない。


 男達はそれに気をとられて、目の前の獣に気づくのが一瞬遅れる。


「ルプスッ。ルプスがいるぞ!」


「なんでここにいんだよ!」


 黒フード姿の男達はルプスを見て一瞬ひるんだが、体勢を立て直した数人が、こちらに向かって魔法を放ってきた。


 ルプスは素早く空中に駆け上がると、いくつも放たれた魔法の間を右に左にと器用に捌いていった。


 バッシ!! ドサッツ!! ズザザザァ!!


 そのまま男達の頭上へ飛び込むと、右前足を上から下へ器用に振り下ろす。

 あたりどころが悪く壁にぶち当たっている者や派手に吹っ飛んでいく男も見えた。

 ルプスが通った後には成すすべなく倒れた男達で溢れかえった。


 私の出る幕はどうやらなさそうだな……


 活躍する機会がなく気落ちしていると、視線の端にキラリと光ってナイフが数本飛んでくるのが見えた。

 クリストファーは手のひらを向けそれに応戦した。

 

 放った魔法はナイフの軌道を変えると反転し、そのまま投擲した者へと送り返された。

 離れた場所でうめき声と共にドサっと人の崩れ落ちる音がした。


「こっちだ!!」


 あらかた敵を片付けたルプスは一直線に走り出していった。

 目当ての人物の場所がどこか分かったようだ。

 玄関から奥につながる廊下を抜け、ルプスは何の変哲もない壁の前で停まる。


「そこにいるのか?」


 軽く頷いた後、周りの匂いを嗅ぎながら、ある一か所に前足を当てている。


 僅かに光を発し紋様が浮かび上がるとそこに扉が現れた。特段仕掛けは施されてないようだ。


 ルプスの大きさでは通り抜けられない。目配せされクリストファーは、扉の中に入っていった。


 部屋は薄暗くて室内が見通せない。クリストファーは魔法で灯りの球体を作り部屋に浮かべた。


 ぼんやり灯る球体の下には、何か小さな固まりが転がっているように見える。

 クリストファーは近寄るとその固まりに手を伸ばした。

  

18→19話に訂正しました。

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