16話 静かに回り出す歯車
クイーツ村と隣村のほぼ中間地点の鬱蒼とした森の中に、今は誰も住んでいない廃屋が建っていた。
夕闇に紛れて、黒いフードを被った男達が一人、また一人とその廃屋に吸い込まれていく。
彼等は最近、ラミハサーガ国を混乱に陥れている集団『暗黒神の使徒』の構成員達だった。
廃屋に入った男達は、ある一室に集まると、先頭にいた男が壁に向かって手をかざした。
すると何か紋様の様なものが宙に浮かび上がり、存在していなかった扉がそこに現れた。
男達は扉をくぐり、更に奥の部屋へと入っていった。
それから幾日か過ぎた頃、黒いフードの男達は、数人づつのグループに纏まると、夜陰に乗じて四方八方に走り去った。
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インフェルノ・ルプス達の棲む森では、眼帯をしている一頭のルプスが、小さな仔犬を相手に成獣に対するのと同じ様な稽古をつけていた。
「さあ、姫様。私に向かって、技を放ってみてください」
眼帯をしているルプスはディーンと呼ばれている。
インフェルノ・ルプスの女王から、仔犬の教育係に指名されて以来、この場所へ籠っていた。
ルプス達の棲む森から更に奥まった場所にある洞窟で、ディーンと仔犬は対峙していた。
その洞窟は彼らの間では修練場と呼ばれている。
特別な結界が張られ、時間の流れ方が尋常ではない速さで流れている。
この中で修練を積めば、外界で何年も掛かる時間を、一気に短縮する事が出来るのだ。
ルプスの中でも、特別な時にしか利用出来ない場所だった。
「やぁー。えい!」
仔犬はディーンに促されるまま、先ほど習った技を繰り出す。
ディーンはそれを器用に、空中を駆けて右へ左へと回避して行く。
「今のは中々いい攻撃でしたぞ!」
インフェルノ・ルプスは魔法攻撃を得意とする獣魔だ。
中でも風魔法を得意とするが、鋭い爪から繰り出す斬撃も侮れない。
ディーンはルプス達の中でも、特に固く鋭い爪の持ち主だったが、仔犬の爪はまだまだ柔らかかった。
爪を使った攻撃はまだ使える代物ではないようだ。
「姫様。爪での攻撃はまだ完全ではないですな。人間を薙ぎ払う程度に使えばよろしい……」
ディーンは限られた時間の中で、出来る限りの事を仔犬に教えた。
「ディーンよ。我は何のためにこうして修練をしておるのだ!」
仔犬は詳しい事については、何も聞かされていなかった。
時折、自分の側についている若いルプスから、母親の……女王の近況を聞かされる程度。
「神様からご指名だって言われても困るの! どうして我なのだ!!」
まだまだ遊びたい盛りの小さな仔犬にとっては、当たり前の疑問だった。
ディーンは仔犬の主張を静かに聴いていた。
確かに姫様が疑問に感じるのももっともの事……。
そろそろ、女王様に話していただかねばならない頃合いのようだ。
二頭がそれぞれの思いに考えを廻らしていた丁度その時、洞窟の外から二頭を呼ぶ声がした。
「姫様。ディーン殿。女王様がお呼びです」
二頭は、インフェルノ・ルプスの女王が待つ、森の中央へ向かって歩き出した。
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ローランから地図を受取った菜摘は、薬師堂を出て薬草園を目指す事にした。
薬草園は、隣村との中間位の位置にあると聞いた。
今はまだ日も高いし、クイーツ村の街道沿いを、のんびり散策しながらゆっくり行こう。
日頃の運動不足も解消しなくちゃね!
薬師堂は村の中央広場に面した通りに建っている。
薬草園に行くには、村に入る時に通った入り口ではなく、反対側の門を通った方が近いらしい。
菜摘は今、普段歩いてくる道とは逆方向の道を、その門を目指して歩いている。
そういえば……こちら側にはまだ、足を運んだ事なかったな。
同じ村の中とはいえ、知らない光景が菜摘の目に飛び込んできた。
もの珍しくてついつい、キョロキョロしてしまう。
気になるものが目に留まり立ち止まった。
案の上、急に目の前で立ち止まったため、後ろを歩いていた人が止まれずぶつかってきた。
「痛いっす!!」
聞き覚えのある声がした。
「マッマーク君!」
ローランの下で薬師見習いをしているマーク君だった。
「菜摘さん危ないっすよ! よそ見なんかしてると」
自分よりかなり年下だと思うマークに注意され、菜摘は苦笑いをするしかなかった。
「ローラン先生が言ってた通りっすね! 危なっかしくて見てられないっす!」
ローランさんに何と言われているか……怖くて聞けないと思う菜摘だった。
「門の近くに用事があるんで、そこまでは付いて行くっすよ!」
菜摘はよそ見をする暇もなく、すたすた歩くマークの後を追いかけた。
マークは門の前まで付いてくると、ローランが手渡した地図を確認して、
「この地図通りに道なりに行けば、そんなに時間はかからないっす! 後は、ここの曲がり角だけ、道を間違えなければ大丈夫っしょ!」
と注意する箇所を教えてくれた。
菜摘はマークにお礼を言うと、門から薬草園を目指して歩き出した。
最後まで読んでくださりありがとうございました。
ブクマ・評価をつけて下さった方ありがとうございます。
大分話が煮詰まってきて、続きをどうしようか思案中です。
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