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15話 インフェルノ・ルプス

 薬師堂のローランに、持ってきた野草を()()買い取ってもらった菜摘は、また大金を手にしてホクホクしていた。


 やーどうしよう。もう会社辞めちゃおうかな……。


 ローランは買取金として、大金貨十枚、金貨三枚を菜摘に支払った。

 日本円に換算すると百三万円になる。

 ローランはお金以外に『おまけです』といって、ポーションを一本菜摘に手渡した。


「菜摘さんがこの前持ち込んだ、薬草で作ったものなんですよ」

 イケメン眼鏡男子の微笑みで菜摘に言った。


 何でも少量で効果を発揮する優れものになっているそうだ。

 生産者として、効果を知っていた方がいいでしょう?ということらしい。

 生産者といっても、自生している野草を摘んでるだけですけどね……。


 ポーションは試験管みたいな細長のガラス瓶に入っていた。

「ローランさん。これって割れやすいですよね?」


 転んだり、うっかり落とせばすぐ割れそうだと思った菜摘は、確認の意味もかねて、耐久性について尋ねてみた。


「ポーションの瓶には、耐衝撃魔法が付与されているので、そう簡単には割れませんよ」

 

 ローランは薬師堂だけではなく、市販品は全てそのような付与がされていると話してくれた。  

 

「ポーションは基本は経口ですが、直ぐ出来た火傷や傷口等は、直接掛けた方が即効性があります」

 と言って、その他基本的なことをローランは説明してくれた。


 ローランさんを信用していないわけではないが、病院以外で処方されるもの、自分が住んでいる世界以外の薬を試す勇気はまだないな……と思う菜摘だった。


「菜摘さん。そういえば、この間、薬草園に興味があるといってましたよね?」


 ローランは先日のやりとりを思い出したようで、そんな事を菜摘に言ってきた。


「そういえば、そんなこと話しましたね……」


「まだ興味がおありでしたら、ここからそんなに離れていないので、行ってみてはいかがですか?」


 ローランはそう言いながら、簡単な地図を描いて菜摘へ手渡した。


‐------------------



 それはそれはとても綺麗な月夜の晩だった。


 人里から遠く離れた険しい山の高台に、一頭の大きなインフェルノ・ルプスの女王が立っていた。

 豊かな銀色の毛並みが月明かりに煌めいて、女王の風格を更に底上げしている。


 女王が見つめる視線の先には、絶対的な力の前に服従する無数のルプスの群れがひれ伏していた。


 女王の横に視線をずらせば、一匹の仔犬が籠の中ですやすやと寝息をたてて眠っている。


 その姿を見つめる女王の顔は、愛しい者を見つめる慈愛に満ち溢れていた。


 しかし、一瞬でキリッとした顔に切り替えると、ルプスの群れへ向かって言葉を発した。


「皆の者よく聞け。我は先ごろ神託を受けた! 我が一族より人の子へ護衛をつけようと仰せだ」


「……」


「どういうことだ」


「誰になるのかしら……」


「なんで人間の護衛をしなければならぬのだ……」


 インフェルノ・ルプス達の間から様々な声があがったが、大方は事情が呑み込めずに互いの顔を見合わせていた。


「して、女王様。護衛の任には誰か決められたのですかな?」


 群れの中からひときわ異彩を放つ、鋭い牙を持ち片目に眼帯をしたルプスが前に進み出てきた。


 女王は眼帯のルプスを見ると、『ディーンか』と呟き、


「神はそのことについて、我が子を指名された」

 とルプス達に向かって更に言葉を続けた。

 

 女王の言葉を聞いたルプス達の視線は、一斉に女王の傍らで眠る仔犬に向けられた。


「神には失礼ですが、姫さまはまだ幼い。先日あんな目にあったばかりですぞ」


 眼帯のルプス(ディーン)は、解せないという顔をして首を横に振った。


デーモン・エーグレ(魔鷲)に攫われたのであったな……」


「はい。そうであります」

 今度は、仔犬の側に控えていた一頭の若いルプスが答えた。


 デーモン・エーグレ(魔鷲)に仔犬が攫われた時、女王は遠出していてその場に居なかった。数日後にその事態を知ったのであった。


 攫われた仔犬は幸運な事に、その日の内に人里近くでデーモン・エーグレに振り落とされ、林の中で鳴いていたところを、追跡していたルプス達によって助け出されていた。


「己を守る力を持たないうちに護衛とは……私も同じ気持ちです」


 先程とは別のルプスが、眼帯のルプスと同じく異を唱えた。


「我も疑問に思い問うとな、我が子は今はまだ、この通り成りは小さいが、内に秘めた力は間もなく一人前になるそうじゃ」


 インフェルノ・ルプスは、一人前になるまでに個体差はあれど通常一年ほどかかる。

 すやすやと寝息をたてて眠っている仔犬は生後三ヶ月。贔屓目に見ても、まだまだ庇護下にある年齢だった。


 女王は右前足を上げ、仔犬の額にそっと当てた。


「左様ですか……して、我らはこれからどうすればよろしいのですかな?」


 眼帯のルプス(ディーン)は、女王へ問いかけた。


「ふむ。そうだな」


 女王はしばし目を瞑って思案した。

 神は護衛をする人間が何処におるか言われなかった。近いうちに沙汰があるはず……。


「ディーンよ、神からは近い内に必ず沙汰がある。それまでの間、我が子に一通りの稽古をつけてやってくれぬか……」


「ハッ! では早速取り掛からせていただきます」


 眼帯のルプスは女王の言葉に短く答えると、女王の傍らから、仔犬が入った籠を口に咥え、側に控えていた若いルプス共々森に向かって走り出した。



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