14話 回復薬の効果
薬師堂の前には開店前だというのに、長蛇の列が出来ていた。
「ローラン先生、お店の前に行列出来てるっすけど! 何かあったっすか?」
ローランの下で働いている、薬師見習いのマークが、来て早々ローランへ聞いてきた。
「マーク君。私も先ほど見て、同じように驚いているところだよ」
ローランはそう答えた。無理もない。長蛇の列が出来たのはいつ以来だろうか。
記憶を辿ってみても頭に浮かぶのは、開店祝いの時に出来た行列だけだ。
あの時は開店祝いということもあり、来店者へ景品を配っていたからそれ目当ての物だった。
今日のこれは一体何事だろうか……。ローランは考えたが、思い当たる事は何も無かった。
そろそろ開店時間が迫ってきて、ローランはマークへ開店準備の指示を出した。
ーーーー
「おはよう、ローラン先生。すまねぇが、この間のポーションを頼む」
開店すると、列の一番前に並んでいた客が、ローランへポーションを注文した。
「ジョンさん。これでよろしいですか?」
ローランは、一番前にいた客が常連のジョンだと分かると、いつも処方している青いボトルを掲げてみせた。
ジョンと呼ばれた客は、ローランが手にした青いボトルを見ると、首を横に振った。
「いいんや! それじゃねえ。そっちの緑色の方だ」
ジョンは、薬師堂に年中置いている、青色のポーションではなく、隣の棚に置かれた、緑色のポーションを指さした。
「これですか!?」
「んだ! そっちだ」
ジョンは大きく頷いたが、ローランはそれを見て首をかしげた。
「ジョンさん。この前お渡ししたのは、いつものポーションが品切れだったので、通常の半分量を処方したものでしたが、何か違いがありましたか?」
「先生。あん時のは量が少なかっただろ? 気やすめ位のつもりで飲んだんだけどよ……」
そう言って、ジョンはシャツの左袖をめくった。
「これってどうよ!」
「……ええ?」
ローランは自分の目を疑った。ジョンの腕にくっきりあるはずの深い傷が、悪目立ちしない程度の傷痕になっていたからだ。
素人目にも、何度か薬を服用すれば、完治するかも知れないと思えるくらいに回復していた。
「先生。あれは効き目がすごいってもんじゃねぇぞ」
ジョンは、声を張り上げた。
「あまりに効きがいいからよ! 儂は知り合いに声を掛けてきたぜ」
後ろに続く行列を指してジョンは笑った。どうやら、この光景はジョンの差し金らしい。
ポーションを購入したジョンは、手を振り上機嫌で帰って行った。
ローランとマークは客達の目的が、緑色のポーションだと分かると、随分と慌てていた。用意しているポーションの数が足りなかったからだ。
接客とポーション製作の二手に分かれ、客がはけるまで休む暇もなく、対応に追われる羽目になった。
来た客へ話しを聞いてみれば、ジョンが声を掛けた知人が、更に知り合いを呼んだ形となって、予想以上の盛況ぶりになってしまったようだ。
「ローラン先生。僕は一週間分の仕事をしたっす! もう出来ないっす!」
最後尾にいた客にポーションを渡し終えると、マークはそう言って座り込んだ。
ローランもそばにある椅子に腰掛けて息をついた。
「マーク君。今日は本当に疲れたね。でも、もしかしたらしばらく続くかも知れないよ……」
それを聞いたマークは、もういいや!と言わんばかりに顔を引きつらせたが、薬草不足が続いているクイーツ村では、しばらくの間、ローランの言葉通りの状況が続くのであった。
「おー。あんな所から行列が続いている……」
クイーツ村に入ってすぐ、薬師堂方向に行列が出来ているのに気付いた菜摘は、最後の客が店を出たのを見計らって店内へ入った。
「こんにちわ。ローランさん、行列が出来ていたようで大変でしたね」
ややぐったりしているローランへ菜摘は声を掛けた。
「あっ菜摘さん。ちょうどよいところに来てくれました。」
ローランは、店内へ入ってきた菜摘に気付くと、疲れた顔はどこへやら、イケメン眼鏡男子の魅力を振りまいた。
この人は何だかんだ顔がいいから眩しいな……。
今日は……。今度こそ絶対に顔を赤らめたりはしないぞと、菜摘は自分に言い聞かせた。
菜摘的には、本日二回目のご対面という事になるが、こちらの世界では、数日振りの再会となる。
ローランは、腰を上げて、自分の隣でへばっている青年を紹介した。
「こんちわーっす。薬師見習いのマークっす。よろしくっす!」
「初めまして、菜摘です。この前、薬草をこちらで買っていただいた者です」
マークの軽い挨拶に、若者とのジェネレーションギャップを感じる菜摘だった。
「早速で悪いのですが、菜摘さん。今日は薬草をお持ちですか? もし、ありましたら、あるだけ全部売っていただきたいのですが!」
ローランは先ほどの客達の様子から、いくらあっても困ることはないだろうと薬草を買い込む算段をした。
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