13話 目指せ売上倍増
ドリアードの館で二泊した後、菜摘は神奈川の自宅に戻ってきていた。
動き出したスマフォを見れば、出発した日と同じ土曜日の昼下がりだった。
向こうと往き来するようになってから、まだ数える程度。時間の流れ方が違うのは頭では分かっているが、体感的には慣れず戸惑いはある。これがいわゆる時差ボケなのだろうか。渡航経験のない菜摘にはよくわからない感覚だった。
「結構儲かったかな?」
菜摘は今、換金してきた野草の代金を机の上に広げ数えていた。
あの森の自動換金マシンは、換金手数料が一切取られない。まる儲けである。
あとは、『森の小人亭』の昼食代と『ドリアードの館』の宿泊代を引いて、29万1400円になればいいはずだ。うん、間違いない。
金額確認が済むと、これを機に命名した『野中家一攫千金ボックス』にお金をしまい、その足で部屋にいる亮介の元へ向かった。
これからもう一度向こうに行くことを伝えるためだった。
「亮さんいる??」
菜摘は部屋をノックした。
「ああっいるよ! なっちゃんお帰り! 今日は随分早いね?」
部屋が開いて、中から亮介が顔を出す。
うたた寝していたのか、顔にくっきりと何かの跡が付いている。ちょっと可笑しくて吹いたが、咳払いしながら、
「これでも、向こうで二日は過ごしてきたけどね」
と菜摘は言い、続けて簡単な報告と収穫後にもう一度行くことを亮介に伝えた。
「あの雑草がね……」
亮介は薬師堂で高値で売れた事に驚く。
「なっちゃん。あまり無理はしなさんなよ」
頑張りすぎて暴走気味になる菜摘に、釘を刺すことを忘れなかった。
菜摘は、もう少し頑張ってくるよと言って微笑んだ。
ヤブカンゾウとカラスノエンドウの収穫は、一旦休憩してとりかかった。
昼を過ぎてしまっているので、ここからは時間との勝負だ。
一心不乱に採り続けること二時間。
今度は前回の三倍くらいの量を採ることができた。
手に取ったカラスノエンドウをまじまじと見つめる。
カラスノエンドウには、サヤエンドウに似た平べったい鞘が付いている。色々食べる方法はあるが、天ぷらにするのが一番多い。
若芽の内に穂先から十センチ程度を摘み取って、水溶き小麦粉にさっと浸してカラッと揚げる。
からっと揚げないと、べちゃべちゃして美味しくない。
料理の苦手な菜摘の成功率は六割強、中々手強い野草なのだ。
育ち過ぎた物も食感が悪くなリ不味いため、食べ頃の見極めが大事だ。
それに引き換え回復薬に出来るなんて、なんて素敵だろう。こっちの世界にないのが残念だわ。しみじみ思う菜摘であった。
思ってた以上の量が採れたので、作業を終了する事にした。それ以上になると運ぶのもしんどい。
しゃがんでいたせいで身体が固まった。
腰に手を当てながら身体を伸ばし、今しがた収穫した裏庭を眺める。
カラスノエンドウのさやが黒くなり始めたら、そろそろ収穫どきは終わりが近い。
黒い実が付くようになっても売れるかな?今度向こうに行ったら相談してみようと思う菜摘だった。
一通りの準備を済ませると裏庭の小屋へ向かった。
今度は台車の上に大き目の段ボールが載っている。
本日二回目の搬入に向け、足取りも軽く菜摘はクイーツ村を目指して歩き出した。
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その頃クイーツ村の薬師堂では、手に入れた薬草を元に、ローランが回復薬の製作に勤しんでいた。
村に流通する薬草が品薄だったせいもあり、頼まれていたポーションの納品が滞っている状態だった。数をこなそうと急ピッチで仕上げていく。
しばらくして少し休もうと手を止める。
ずれた眼鏡を掛け直しながら、ローランはポーションの瓶をじっと見つめた。
それにしても、菜摘さんから買った薬草で作ると、いつもより仕上がりが早いような気がするな。
誰にいうでもなくボソッと呟いた。
机の上のポーションが入った瓶を手に取り、瓶の中の液体が変化していく様を間近で観察する。
貴重な薬草ということもあるかも知れない。それとも何か特別な力でも働いているのか。
色々と検証したい事柄があるが、今は目の前の注文をこなすことが先だった。
雑念を払うかのように、ローランは自分の頬をペチペチ叩き、作業に意識を向けた。




