十九話『収束の果て』
ラストです。
その場に十一人全員が集まったのはイシュタル・ブランシェルを倒してから数十分が経ってからだった。
その場に転がっている死体を一瞥し、全員が悠の元に集まる。
「来たか」
駿河千歳が我道正志が匂宮慎二が内藤正樹が齋藤駿が後藤正俊が斉藤薫が名桐守が星野澪が轟大河が古手悠がアルト・ヴァン・テレウスを囲む。
地面に縫い付けられている状態では逃げられるはずもなく、なす術は無かった。
「残るはお前だけだ、アルト・ヴァン・テレウス」
「……ふっ、私を殺すのか」
玉のような汗を掻きながら悠に聞く。悠は間髪入れずに答える。
「当たり前だな、お前は殺されないと思ったのか?」
槍を突きつける。穂先を向けられたテレウスは息を詰まらせる。
「殺す前に一つだけ聞くぞ愚王――お前はラーチ・ベスティエ村を覚えているか?」
「…………」
「知らないよな。大国の外にあり、さらに森の中にあった村だ。大国の人間が知っている訳がない」
「……だから何だというのだ、所詮は取るに足らぬ村が淘汰されただけの話であろう」
苦悶に顔を歪めながらニヤリを笑みを浮かべる。
「………………」
全員が何も言わずに見ていた。空間の圧力が増した気がした。
「それで? 話はそれで――」
テレウスが言い切る前に澪、千歳、大河、悠の四人が同時に動く。
千歳と悠が槍でテレウスの両肩を突き貫き、澪と大河が手斧で太腿を縦に貫通させ地面に磔のようにする。
――まさに阿吽の呼吸であった。
「お前に与えるのは裏切りの罪過ではない。ある復讐の手向けだ」
あまりの激痛に呻くことすらできないでいるテレウスに構わずに告げる。
「――お前は人種以外、獣人を何だと思っている? ただの道具か? それとも奴隷か? それ以下のクズ同然か?」
「…………そんなものたちなぞ、等しくクズ同然の有象無象よ……」
声を絞り出してテレウスは答える。
「お前たちのその醜い政策のせいで一体何人の獣人が死んだと思う? 一体どれくらいが見せしめとして殺されたと思う?」
「…………知らんよ、そんな、ことは」
「だろうな、お前たちはそういうと思っていた」
二人が槍を引き抜き、悠の爪先がテレウスの脇腹にめり込んだかと思えば、縫い付けられていたはずの身体が宙に浮いていた。
痛みよりも先に再び身体の中に入ってきた異物に不快感を覚える。
「――――ぐふっ」
――それは槍だった。十一本の槍がテレウスの身体を串刺しにし、しかし急所には一本たりとも当たっていなかった。
槍の重さと自重で落下し、より深く穂先が突き刺さる。テレウスの身体は十一本の槍で支えられ、宙に浮いていた。
「持って数分の命だが、このまま終わらすほど私達は緩くない」
さっきも言ったろ? 復讐の手向けにしてやるよ、と言って大河、澪、の二人は刺さっていた斧を抜き、持つ。残りの六人も鉈や斧を構える。
「ラーチ・ベスティエ村にいた家族は二十名、二十名分を刻みこめ」
「――我らが家族、ライチャ・アウォールトに」
悠が右腕の前腕を中ほどから両断する。
「――グンタ・ベケットに」
大河が左腕の前腕を切り落とす。
「――ナサ・アリアに」
澪が左足首を切り落とす。
「――ナザリア・ナナットに」
千歳が右足首を切り落とす。
「――アイサ・アウォールトに」
慎二が左腕を肩から両断する。
「――ウォン・ピークスに」
「――タザタ・グレスに」
「――ウルリカ・ピークスに」
「――カッサ・グレスに」
「――ラッタ・アイリスフィールに」
「――ネネ・アイリスフィールに」
「――ハッサン・クリスマスに」
「――クラスタ・ネットに」
「――アイサン・クリスマスに」
「――ライラ・ネットに」
「――リラ・アリアに」
「――トール・ベケットに」
「――アルマス・マライアに」
「――ノネット・コールソンに」
「――ヴァン・メイビスに」
――――――――――――
その惨状は今までのものとは段違いだった。
竜二は生きながらにバラされ、そして途中で果てたが、テレウスは違かった。
命を繋ぎ止めるために回復魔法を強制させ、渋れば魔石を砕いて無理矢理にでも肢体を癒された。そして解体が再開される。
四肢を全て斬られてもまだテレウスは死なずに意識を保っていた。
胴体が輪切りにされていく。
一刀ごとに地獄のような苦しみと、身体が無くなっていく恐怖を植え付けられていく。それでもまだ死ぬことは許されず、魔石を使って治癒が始まる。
「――あ、あぁ。ああ…………」
「――――あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ぁ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ぁ゛あ゛あ゛!!!!」
――――――――――――
二十人目の名前を言い、切り捨てる頃にはテレウスは心臓から上しか残っていなかった。
それでもまだ虫の息ほどにテレウスは生きていた。
発狂していたが喋ることもできなくなった。
最後は中心を真っ二つに斬られ死んだ。
血の海と化した床にドチャリと音を立てて落下する。
脳みそがぐずぐずに崩れ、体からは少しだけ残っていた臓器がはみ出していた。
「……諸君、私達はついに四歩目、復讐を踏破した。残るは五歩目――関わった全ての者たちを狩り尽くすぞ」
その場にいた十人は血に染まった槍を手にし悠に敬礼することで返事をした。
「――あの時の魔族の顔も、奴らの顔も、全て覚えているな。この世から消し去ろう、新たな復讐が生まれないよう」
なんの未練もないとその場を去った十一人。アルト大国が陥落したのは明白であった。
――大陸に散った魔族、アルト大国の人々を見つけ出し悠たちは殺していった。
見つけ出し、あぶり出し、一人、また一人と殺していった。
だが、それはこちらも同じで一人ずつ、今までの力を使い果たすように死んでいった。
それを看取り、火葬していく。
最期の表情はとても晴れやかそうであった。
我道正志が死に、匂宮慎二が死に、内藤正樹が死に、齋藤駿が死に、後藤正俊が死に、斉藤薫が死に、名桐守が死に、駿河千歳が死に、星野澪が死に轟大河が死んだ。
ただ一人、悠は全員を看取り、十旗の旗を背にし、課せた使命を果たす。
六五十日が過ぎ、悠は完全に人のそれではなかった。
それでも悠は殺し続けた。時には軍隊を相手にすることもあった。賊にも襲われた。
だがそれを殺さずに無力化し、半分は発狂して逃げ出して逃れた。
――そして運命の六百六十六日、悠は思い出せる最後のアルト大国国民を殺した。
槍を心臓に突き刺し、そのまま肉体を突き破って地面に刺さる。しばらくの間悶絶していたがやがて動かなくなった。
――これで復讐の種はもう無い。
辺りが騒然とする。いきなり殺し合いが起こり、周辺にいた人々はたちまちパニックになる。
住人が憲兵を呼んできて悠を囲む頃にはもう悠は息絶えていた。
――心臓を突き刺し、もう思い残すことはないと言わんばかりに晴れやかな顔で果てていた。
その後、賢者クレムリンがこの者を弁明し、アルト大国で何があったかを世界に明かす。
人と魔族が初めて共存したはずだったために起こした事態は大きく、世界に波紋を呼んだ。
それから廃墟と瓦礫の山と化したアルト大国と、丁度、悠が最後の一人を殺した場所に慰霊碑が建てられた。
亡くなった全ての者たちを鎮魂するために。報われない魂を静めるために。
この大事件はおとぎ話となり、人々に語り継がれていった。
人が同じ過ちを犯さぬよう戒めとして。
それから数十年の時が経ち、再び人と魔族が寄り添い、共存をした。
今度は多少のいざこざが生まれるものの、昔のようなことはなかった。
そしてそれは何代にも渡って続き、平和そのものであった。
――――それは悠たちが願い、シルフィーが願って叶わなかった夢が叶った瞬間であった。
Fin.
ここまで読んでくださり、誠にありがとうございました。完結を迎えるのも嬉しい気持ちもあり寂しいものがありますね。
最後ですが、実はもう一つだけあります、ちょっとしたおまけのようなものですが。
明日の9時に投稿します。




