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十八話『古手悠』





 「――大河、五分保たせろ、俺も混ざろう」


 そう言ってから古手悠の動きは激変した。

一撃一撃が明確なまでの殺意を持って、こちらの全ての攻撃を全く意に返していなかった。


 長谷川竜二は焦っていた。攻撃が全く当たらず。殺されるという恐怖に。


 「――来いっ! ラプラス!」


 だからこそ竜二はここで兵器という横槍を入れた。


 壁を破壊して出てきたのは重厚な鎧をまとった人型だった。

 ただ人よりもふた回りでかく、到底人が自力で動かすことができないという点を除けば。


 竜二はその鎧に乗り込む(・・・・)。竜二が乗ったのと同時に頭部――双眸の部分に光が灯る。


 「…………それが俺たちを捨ててまで手にしたかったものか」


 はぁ、と小さくため息を吐く。その顔には深い失望が浮かんでいた。


 「そんなわけねぇだろ、俺はな自由な世界を手にしたかったんだよ。見ろよこれ」


 竜二が目の前に出したものは少なからず悠の動揺を誘った。手の中にあったのは黒焦げでボロボロのフルフェイスヘルメット、同じく新品の様なフルフェイスヘルメット――間違いなく悠が使っていた物であった。


 「当然見覚えがあるよな? 当たり前だろ、コイツはお前のも(・・・・・・・・)のであって俺の(・・・・・・・)ものだった(・・・・・)んだからよ」


 「…………なに?」


 竜二の言った言葉を反芻し、飲み下す。少しの間考察に時間を当て、ある一つの解にたどり着いた。


 「……そうか、お前――」


 「――――転生者(・・・)か」


 ――俺と同じ。


 ニィ、と重厚な鎧の中にいる竜二が嗤った気がした。


 「――――そうだ、そうだとも。俺はなお前がこれを使って兵を呼び出した時にコイツの身体に転生したんだ。前の名前は『御井倉 (おいくら)昏華(くらげ)ていうんだぜ!」


  「そうか」


 「そしてこれは俺が貰った(・・・)能力だ! まさかお前と同じとはなァ、悠!」


 「そうか」


 淡白に返答していく。すでに竜二におくる復讐などどうでも良くなった。目の前にいる奴を早くこの世から消し去りたくなった。


 「――――」


 奴が次に口を開く前に悠は動いた。数メートル間を一瞬で詰め、腹部を殴りつける。


 轟音が響く。さすがに硬かった様で拳は鎧で止まったが、それでも大きなへこみをつくり、中にいる竜二――もとい、御井倉昏華にダメージを与える。


 「ぐほぁっ!?」


 「別に、何でもいいんだ。お前が転生者であろうと誰であろうと。俺たちに犯した事は償ってもらうだけだしな」


 鎧のわずかな隙間に指を捩じ込み、文字通りこじ開けた。

 筋力などでどうにかなるはずがない鎧の装甲が外されたことに竜二は動揺する。


 そのまま中にあった装甲板も一緒に外す。すると中のものが見え始めた。


 「――ふむ、パワードスーツか」


 そう言いつつ、動力源たる物であろう光を放つ物体を槍で突き、破壊する。ついでに中身もぐちゃぐちゃにしてやる。


 そこまでやって竜二が鎧の中から出てきた。外相がこれといってないのは鎧の影響だろう。


 「――くそっ! 何でこいつがこうもあっさりとやられんだよ、くそっ!」


 悪態をついた竜二はフルフェイスヘルメットを被る。


 「――なら、こいつを使うだけだ!」


 そう言うと竜二の目の前に三人の兵が出現した。三人とも屈強な兵だと一目で分かる。


 しかし、今の悠の前では三人も歯が立たなかった。


 動く前に近づかれ、手足をもがれ、首を飛ばされ、心臓を突かれ絶命する。

 そんな蹂躙劇を目の前で見ていた竜二は呆気にとられていた。


 「――さて、元NATO国家・長谷川竜二――転生者・御井倉昏華、これからお前に刻みつけるのは仲間たちの痛みだ」


 逃げようと、懐から取り出した結晶ごと斬りとばす。

 手首を斬られたことに遅れて気がつき、痛みで絶叫する。


 「――あの時は本当に地獄だったよ。魔族が、大国の人間が攻めてきて、あまつさえ仲間内から裏切り者が出たんだからな」


 「ぐっ、うううぅうぅううぅっ……」


 悠に斬られた左腕を押さえながら痛みに耐えている竜二、話は聞いているのかどうか分からないが悠は続ける。


 「覚えているか? 当時の私達NATO国家の人数を。一億近い数の兵がいたんだ。それの半分――五千万ほどが敵だ。魔族と他も合わせればそれこそ一億はいただろう。様々な攻撃で様々な叫びが、地獄があそこでは繰り広げられていたよ、元いた世界では考えられないくらいのな」


 「あの時の戦争の音は今でも耳に残っているよ」


 この苦しみがわかるか? と竜二に問いかける。


 「――はっ、知るかよ、クソが。テメェ、一体どんなチートつかいやがった」


 吐き捨てる様に竜二は悠に言う。


 「チート。チートか、たとえ言ったとしてもお前には到底理解できないものだろうな――憎悪を満たし尽くした器に火を焚べたんだよ。煮えたぎった憎悪が俺たちの力になったそれだけだ」


 「そんな、馬鹿な話が――!」


 ――あるか、そう言い切る前に悠は動いていた。

 腕を振るって右手首を切り落とす。


 「あ、ぐぁあああぁあっ!!!!」


 「それが俺たちだ。お前達裏切り者を殺すために俺たちはここにいるんだよ」


 今度は左足首を旗槍で切断する。竜二が呻くが悠は眉ひとつ動かさずに口を開く。


 「何故、俺たちを裏切った? どうせお前は他の奴が裏切った理由も知っているんだろう、言ってもらおうか」


 「…………」


 「だんまりか……別にいいさなら無理矢理話してもらうだけだ――――知ってるか? どんなに決意した人間も一思いに殺さずに身体を刺身みたいに切り刻んでいけば喋ってくれるんだぜ? ――お前はどこまで保つかな」


 それを聞いて僅かに顔色が悪くなった竜二だったが、自分の右腕を左腕を左脚を右脚を数センチ両断されたのを見て絶叫する。


 ――結局、竜二はそれからもう一度切り刻まれてから喋った。


 「――お、俺がが裏切ったのは、自由が欲しかったんだよ……下についてい、るんじゃなく、自分の国を持って頂点に立ちたかった、だが、そ、そのためにはお前が邪魔だった。だから仲間の数名を、す、スカウトしてじょじょに懐柔していったんだよ。

 まぁ、バレる前に殺したし、人を選んでたから、ごほっ、よっぽどがなけりゃばれなかった」


 「そんな頃からだ、魔族の連中や、大国の連中から声をかけられたのは……もともとNATO国家が気に食わなかった奴らが集まり、やがて、ごほっ、大国の人間も魔族の強い奴らもな」


 「なるほどな」


 大体の事は分かった。俺は竜二の手足を(・・・・・・)再び斬り刻む(・・・・・・)


 「――あ、あああっ!? な、何で! 言ったら助けてくれるんじゃないのか!」


 「おいおい、言ったら助かるなんて甘い考えだな、お前が何したか忘れたのか?」


 再び槍を振るい、斬り刻む。斬り刻む。斬り刻む。


 「五千万人分の恨みがあるんだ。関わったものを全員殺すとしてもお前に与える分にはまだまだ程遠い」


 「や、やめ――」


 「末路を受け入れろ、長谷川竜二、御井倉昏華。そして死んで往け――」


 血の泡を吐きながら懇願するも悠は手を動かし、少しずつ、確実に竜二を刺身にしていった。



 「――――」


 「死んだか、あまり保たなかったな」


 長谷川竜二が死んだのは両手足をダルマにされ、胴体を輪切りにされる前だった。

 凄まじい血と肉片にまみれ、竜二はその表情を苦悶に歪め死んでいった。


 「――残りは地獄にいる同胞がしてくれるか」


 死んだと分かった悠は踵をあの魔王へと向けた。





 「――待たせたな、終わったか?」


 悠が大河に声をかける。

 こちらの方を見ずに大河が口を開く。


 「い゛や゛、ま゛だだぜ(いや、まだだぜ)だい゛じょ゛う゛。(大将。)そ゛っ゛ぢば(そっちは)お゛わ゛っ゛だの゛(終わったの)がよ゛(かよ)だい゛じょ゛う゛(大将)


 「――あぁ、あいつには私たち全員分の想い(・・・・・・・・・)を込めてやった。さぞ嬉しかっただろうよ――おっと次はお前だがな」


 と、悠がいうと「そいつはおっかねぇ」と肩をすくめた。


 「――ふ、まさかお主自ら我と死合ってくれるとはな」


 イシュタルがこちらに話しかけてくる。


 そこから先は攻撃と攻撃、破壊と破壊の応酬だった。

 大河が手こずっていたイシュタルだったが悠が参戦したことで対局はかわりつつあった。しかし少しの油断も許さない状況であるが。


 「! だい゛じょ゛う゛(大将)!」


 一瞬の油断が大きな危機を招いた。槍を弾かれ、大きく仰け反り、致命的な隙を晒す。イシュタルの攻撃が迫るが悠は大して焦らずにその光景を見ていた。

 手刀が悠の体に触れる前にイシュタルに何かが衝突し逆方向に飛んでいく。


 「――あら? 私も入れてもらええるかしら?」


 そこに混ざる声は悪戯が成功した時のような陽気な声色だった。

 星野澪が入り、三体対一となったがイシュタルはゲラゲラと楽しげに嗤った。

 

 そして再度戦闘が再開される。さらに苛烈に。


 イシュタルはそのなかでもゲラゲラと笑っていた。



 「どうしたァ! その程度では我は殺せんぞ!」


 いくら致命傷を与えても死なず、たちまち傷は癒えていく。



 「――――――心配するな。今、殺してやるよ」


 大河と澪がイシュタルの両腕を切り落とした時、悠が動いた。



 「――――なぜ、お主がそれを」


 イシュタルは悠の手に握られたあるものに驚愕する。


 それは一本の黒い針のようなものだった。色こそただ黒ずんでいるだけと分かるが、薄っすらと見ることのできる表面には幾何学模様が何重にも刻まれているようだった。


 ――それに答える時間も、気もない。

 悠は手にしている針――(マギ・)王殺しの(ヴァイシュゲルト)(・ナーデル)――シルフィード・ラル・クロイツから渡された魔王殺しの武器、その針を力任せに振るいイシュタルの心臓部、左胸に突き刺す。

 それだけでは死なないはずのイシュタルに変化が訪れる。

 叫び、悲鳴をあげる。イシュタルの身体に浮かび上がった刻印が彼女を苦しめているようだった。


  「お、おおおおおおぉおぉおっ!」


 咆哮を上げながらも眼前にいた悠に向かって突進し、手刀を叩き込んだが悠の左眼を潰しただけだった。

 それでも悠は怯まずにイシュタルに後一歩分だけ踏み、勝負をしかける。


 「っ!?」


 今更気付いても遅い。

 踏み込み、上半身を捩じらせ、それを一気に爆発させ、鞭のように振るい、鉤爪のように固定した手のひらは針もろともイシュタルの左胸にぶち当たった。

 掌に針が刺さろうが関係なく全力で振るう。

 指が肉に食い込む。

 ボッ、という何かが小爆発したかのような音とともにイシュタルの左胸が抉り取られていた。


 そこで振り向いたイシュタルと目があった。イシュタルはただただこちらを見つめていた。


 どうしようもなく似ている姿に憤慨し、そして悲愴でもあった。


 その内なる想いを振り払うように握られていた心臓を握り潰す。


 パンパンに入れた水風船が破裂したかのように血が撒き散らされ、悠自身も全身に浴びる。。


 「……見事だ人間――いや、NATO国家の頭、古手悠よ――――」


 悠に賞賛を述べてから思い出したかのように口から血が溢れ出し、前の仰向けに倒れる。殺したからか、チカラが霧散したからか、その身体は元の幼女体型に戻っていた。


 ――そして、もう動くことはなかった。


 「…………」


 悠も大河も澪も、誰一人言葉を発さずイシュタルの亡骸を少しの間見つめていた。




 ――シルフィー、仇は討ったぞ。


 その場で悠だけが静かに黙祷をしていた。




 

明日の十五時に投稿します。

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