第三話 診察
「アーイシャ…」
前世において、結婚後しばらくして、町中でハビーバと偶然出会った。私はお茶に誘われ、近くのカフェへと二人で寄ることになった。
「申し訳ありません、ハビーバ様。このような事になりまして…」
経緯が経緯なだけに、私はハビーバに合わせる顔もなく、あの日以来、会うことはなかった。
「大丈夫よ。いきさつはお聞きしたわ。お気になさらないで」
ハビーバは微笑むと私の両手を包み込んでくれた。
「なるべくしてなったのよ。それに私……」
彼女は言葉を切ると、息を吐きだすように、
「長く生きられないの」
と言った。
「…末期の病だと医師に言われたわ。気づくのが遅すぎたのよ」
「それはいつ……」
「先日よ。…もう少し早く、せめて半年前に気づいていたら、治ったかもしれないわ」
私がサキートと結婚したのは半年前。そうであれば、もっと前、彼らの別れる原因になった、あの出来事の時に分かっていれば、ハビーバの病はひどくならなかったのかもしれない。
「サキートには伝えないでね。あなたたちの幸せを願ってるわ」
そして半年後に彼女は亡くなった。
優しいハビーバ。
今生では、あなたの命を救いたい。
◇◇◇
留学の準備を進める中で、アーイシャはハビーバと会うことが増えた。
「留学なさるんですって?」
「はい」
「遠くへ行ってしまわれるのね」
「寂しくなりますか?」
「ええ。でも、あなたが決めたことなら応援しますわ」
彼女はそう言って微笑んだ。
私は少し間を置いてから口を開いた。
「その前に一度お医者様へ行こうと思っていますの」
「どこかお悪いの?」
「そういうわけじゃないんです。ただ、向こうで何かあったら困るでしょう? 一度ちゃんと診てもらおうと思って」
「それは大事ね」
「でも、一人だと少し心細くて」
不安そうな顔をして言うと、ハビーバは笑った。
「付き添えばいいのかしら?」
「お願いできますの?」
「もちろん」
約束の日、二人で診療所へ向かった。
診察を終えた私は、待合室で結果を待つハビーバへ顔を向けた。
「ハビーバ様も診て頂いたらいかがでしょうか?」
前世ではハビーバは病気で亡くなった。
だから今回は少しでも気になることがあるなら、早めに診てもらってほしかった。
「私も?」
「結婚も近いのですし、一度くらい受けておいた方が安心では?」
「そんなものかしら」
「そんなものですよ」
ハビーバは少し迷ったあとで受付へ向かった。
診断結果を聞く時、彼女は黙って医師の話を聞いていた。
「驚いたわ」
診療所を出てから、ハビーバが口を開いた。
「自分が病気だなんて考えたこともなかった」
「早く見つかって良かったです。お医者様も完治するとおっしゃったのでしょう?」
「ありがとう、アーイシャ」
「私は何もしていませんよ」
「それでもよ」
これでハビーバが死ぬことはない。前は気づくのに遅れて亡くなってしまったのだから。
数ヶ月後、サキートとハビーバの結婚式の日取りが決まった。
屋敷では準備が進み、その間にも留学の日は近づいていた。
この時の私は、
一、日記帳を燃やすこと
二、二人を仲直りさせること
三、ハビーバの病気の早期発見と治療
四、遠く離れる
これで、前の人生につながる出来事はすべて変えたと思っていた。
私の留学する日は三日後に迫っていた。




