第二話 留学
伯父からの話は隣国への留学についてだった。
前回は留学しようとしたところ、サキートとの結婚が決まり行けなかった。
今回は必ず行く。もう二度とあんな死に方はしたくない。
「お兄様、大丈夫?」
その後、サキートの部屋に向かった。
扉を開けると、彼はソファーに持たれかけ、グラスを傾けていた。
酔ったサキートを見て、前世の夜を思い出した。
身体が強張る。それでも私は、その場から逃げなかった。
ーーこの日のことは覚えている。
あの夜、サキートは酒を浴びるように飲み、ハビーバは怒って家へ帰った。
そして、その夜が全ての始まりになった。
◇◇◇
「お前はいつも優しいな。俺が好きなのか?」
酩酊した彼は私に口付けをし、私も好きな彼の口付けに酔い、夢中になって応え返した。
初めてだった。幸せだと感じたのは。
でも、彼の手が私の服を脱がせて中へ入り込んだ時、彼は「ハビーバ……」とつぶやいた。
私はその瞬間、冷水を浴びせられたかのように夢から目覚め、
「やめて、お兄様!私はハビーバ様じゃない!やめて、やめて」と泣きながら抵抗した。
サキートはやめなかった。
そして翌朝、侍女が戸を叩いた。
寝ぼけながら生返事を返したサキートの前で、侍女の手から水差しが滑り落ちた。
その割れた音で、彼は完全に目を覚ました。
「アーイシャ…俺はなんてことを」
「お兄様……私…」
彼は言い訳する事も出来ず、シーツに付いた赤い染みと蒼ざめた裸の私を見て、その後、責任を取って私と結婚したのだった。
◇◇◇
ーー今回は前のようにはしない。
ハビーバをサキートの隣に戻す。私は、あの未来には進まない。
「お兄様、飲み過ぎは身体に毒ですわよ。お水を飲んでくださいな」
私は何とかサキートに水を飲ませると、眠り始めた彼の耳元で何度も言い聞かせた。
「ハビーバとは別れませんよ。これは些細な喧嘩です。明日になれば、きっと彼女と仲直りできます」
私は彼に毛布を掛けると自室に戻った。
翌朝、私はハビーバの屋敷へ向かった。
突然の訪問に、彼女は驚いた顔をした。
「アーイシャ。こんな朝早くからどうなさったの?」
「先触れもせず、いきなり来てしまい申し訳ありません」
「気にしなくていいのよ」
「お兄様が昨晩から酔っていらして、ハビーバ様に悪かったと繰り返しおっしゃっているんですの。…それで私、心配になりまして、思わずこちらへ来てしまいました」
ハビーバの表情が少し変わる。
「サキートが?」
「後悔してるんだと思います」
そう言って、小さく笑った。私もね、と心の中で皮肉る。
「でも、私が言うことではないですね」
「あなたは優しいのね」
そのままハビーバはサキートの元へ戻った。
これで一つ。
前世とは違う未来になった。
二人が仲直りしたことを確認すると、私は留学の準備を始めた。




