作戦決行
『侵入!?』
スアンさんが立ち上がり、ハユンを除くその場の全員が思ったことを代弁する。
「何を言ってるんですかリーダー!あまりにも危険すぎるでしょう!」
するとハユンはスアンさんを宥め、不穏な笑みを浮かべた。
「まぁ落ち着け、お前達私の異能を忘れたのか?」
皆の顔に疑問符が浮かんだ。
ハユンの異能は"タイムレクトル"、時空を操ることができる…だったよな。
「作戦はこうだ。我々5人でせーので飛び込む、以上!」
「……はあ!?」
「ふざけてるんですか?!」
「もし何かあったら私の異能で全員過去に、侵入する前まで戻す。」
そうか、危険な状態になったら時間を巻き戻せばいいのか!
スアンさんが手をパチンと叩いて、ハユンの言葉に納得したような顔をする。
「なるほど。確かにリーダーがいたら怖いものなしですね!」
皆が納得する中で小さな疑問が頭に浮かんだ。
そんな無敵能力、異能力者本人に代償などはないのだろうか。
「しかし無闇矢鱈に能力を使うとバタフライ効果が起こってしまうかもしれない。そして人々に違和感が残ってしまうとそれが膨れ上がり混乱を巻き起こしてしまう。そのため私の異能を使うのは最終手段だ。」
「このままグズグズしていても事態は悪くなるだけだ。危険を犯してでも作戦決行する価値はあるでしょう。」
「イーゼンさんの言う通り、私も作戦決行に賛成です。」
「アンナが言うなら私も賛成で。」
するとハユンが俺の方を見て問いかける。
「ヤマトくんはどうだ?」
「俺はもちろん賛成です…けど、なんの異能もない俺がついて行っても足手まといなだけじゃないですか?」
スキルは手に入れたといっても異能者のような圧倒的な力はないし、ずば抜けた頭脳や能力もない。
そんな俺の不安とは裏腹にハユンは自信満々な顔で頷く。
「大丈夫。今回君は必ず役に立つ。」
自信に満ち溢れたこの男の前で俺は頷く以外の選択肢はなかった。
「…わかりました。」
「よし!決まりだな。」
イーゼンさんが一番に立ち上がり、指揮を執る。
「早速準備に取り掛かりましょう。」
部屋を出ようとするメンバーをハユンは呼び止め、堂々とした力強い顔をする。
「断言しよう。私達は全員無事にここへ帰ってくる。絶対に誰も死なない。」
根拠のないその言葉を信じている訳ではない…なのに何故かその言葉が心強く、自分達は大丈夫だと思うのだった。
駐車場へ向かう途中、イーゼンさんにこっそり探りをいれた。メンバーの中だとイーゼンさんが一番長い付き合いだという。
「あの…ハユンさんの能力についてなんですけど、あんな強い異能を使って本人に代償とかはないんでしょうか?」
イーゼンさんは歩きながら俺の問に答えた。
「無いに等しい…かな。ただ、ヤマトが思っているほどリーダーの異能は有能じゃない。」
「どういうことですか?」
「リーダーの能力は誰かを過去や未来に"する"ことができる事と、時空を操ることができる能力だ。よく考えてみろ。未来なんてまだ起こるかもわからない空間に入り込むなんてできると思うか?」
確かに、まだ存在すらしない未来に入り込むなんてことできるとは思えない。
「じゃあ、ハユンさんの言う未来って?」
「リーダーが能力を使った相手以外の人々が"過去"になるんだ。」
「"過去"になる?」
「未来…つまりまだ存在していない者とされる。だからリーダーが能力を使っている間は未来にされた者はリーダーに触れることができないんだよ。そしてタイムレクトルのリーダーだけは触れることができるから一方的にボコボコにできるってこと。」
「うわー…趣味の悪い能力ですね。ハユンさんだけ触れられるって、めちゃくちゃ強くないですか?」
「強いけど…唯一の欠点はリーダーがちょーー疲れるってことかな。」
「能力を使うと疲れるんですか??」
「数秒程度だったら全く問題ないらしいんだけど、何分とかになるとすっごい疲れるらしい。」
だから最初会った時も能力を使おうとしなかったのか…
「なら"過去"に飛ばせるってのは…」
「未来の逆、能力を使った相手以外が未来になる。だから相手の動きを読めるってことだ。」
「じゃあ接近戦になったらハユンさんは有利ですね。」
「そういうことだ。ちなみに時間を戻せるってのは、時空ごと切り取って戻りたい時間に戻れるんだが…戻った分の寿命は戻ってこないんだ。」
「え…それはハユンさん以外の人もですか?」
「もちろん。だからリーダーは時空の能力を使わないようにしてるんだ。未来や過去の能力はなんの影響もないから使ってるけど。」
自分の寿命を減らすのは嫌だけど人をボコすのは何ともないってか。それにしても、1つの異能で実質3つの能力を使えるなんて…そりゃ世界最強って言われる訳だ。
「なになにリーダーの話?」
俺とイーゼンさんの間にスアンさんが飛び込んできた。
「ヤマトにリーダーの異能を詳しく教えてたんだよ。」
「そうなんだ。リーダーは異能がなくてもめちゃ強なんだよ〜」
「確かに、スキルアップを手伝ってもらった時素手でモンスター倒してました。」
そんな笑談をしていると、ハユンに勘づかれたのか催促された。
「早く車に乗れ。出発するぞ。」
『はーい』
そして、作戦決行すべく現場へ向かう。




