夢か真か(2)
カチッ カチッ カチッ カチッ
時計の針が動いている。
目を開けると木の椅子に座っていた。ここはどこだ...喫茶店?でも誰もいない。
1つだけある窓の外を見ると、緑が輝く美しい町が見えた。まるでおとぎ話の世界に迷い込んだみたいだった。
これは夢を見ているのか?さっきまで流れていた血は体のどこを探してもついていなかった。
『久しぶり』
ゆっくり顔を上げると、正面に黒いマントを羽織った見覚えのある服装の男が座っていた。顔はやはり隠れて見えない。
「お前は...審判!?」
『まだそんな呼び方をしてるのか。』
「なんでここに...え、これは俺の夢だよな...?もしかして夢じゃない?」
頭が混乱する。夢にしては意識ははっきりしているし、夢じゃないとしたら現実味が無さすぎるし...。それに審判はあの冥界から出られないって言ってたしな。
『お前に伝えたいことがあるんだ。』
「え...なんですか?」
『1ヶ月後、今お前がいる世界で大災が起きる。』
「大災?地震とか...ですか?」
『違う。前に世界を守護する存在がいると言ったのを覚えているか?』
転移する前に審判が言ってた"外"から世界全てを見守る存在ってやつか。
「覚えてます。」
『その守護する存在が、"運命"を与えた。』
「運命...」
『"世界が滅びる運命"を。世界を守護する存在に与えられた運命は絶対になる。』
俺は思わず立ち上がって声を上げた。
「世界が...滅びる...?世界を守る存在なのに何故世界を滅ぼすんですか!?そもそも俺がこの世界に来たのも世界の破滅を防ぐためでしょう?」
『今ギルド同士で敵対しているお前の世界は、いずれ戦争に発展して滅亡する。それを止めるために滅ぼそうとしているのだろう。』
「なんですかそれ、矛盾しすぎですよ。どっちにしろ世界は滅びるじゃないですか!」
世界を守ってくれるってことは善良なんじゃないのか?なのに世界を滅ぼそうだなんて...!なんて滅茶苦茶なんだ。
『よく考えろ。全世界を守る神みたいな存在だぞ。争い事が嫌いだからこんなことをしているのかもしれない。』
「でもだからってそんな簡単に...沢山の人が死ぬかもしれないのに。」
『仕方ないだろ。何もかも...全てはやつ本人しか分からない。』
どうしたらいいんだ。やっと...やっと新しい人生で上手くやっていけそうだったのに。それにギルドの人達に絶対死んでほしくない。
「...止める方法はないんですか?」
審判の顔を見ず、下を向いたまま恐る恐る聞いた。
審判は笑みを浮かべていた。...あれ?この顔どこかで...
『1つだけある。それは...』
指先まで伝わる鼓動を感じながら息を呑む。
『何があっても絶対に死なないことだ。』
「...俺が?」
『お前が。』
「俺は死ぬつもりなんてありませんけど…。」
『そうか?じゃあもしお前1人が死ねば世界が助かるとしたら?お前はどうする。』
「えっ、そりゃ...えっと...」
俺1人が死んで助かるなんてそんな軽い事態じゃないだろ。でももし本当にそうなら...うーん。
『ほらな。』
「でも、俺が死ななかったら世界は救われるってどういうことなんですか?」
『お前、まだ異能を使えないだろ?』
あっそういえばそうだったな。転移する前に言われてたけど、未だに能力なんてないし。俺を行かせるために嘘ついたんじゃないだろうな?
審判に疑いの目を向けた。
『なんだその顔は。言っとくけど俺は嘘なんてついてないぞ。』
「じゃあどうしてまだ異能が使えないんですか?」
ずっとこっちを向いていたのにいきなり顔を背けた。
『それは...まぁ.....うん。』
「ほら嘘ついてるんじゃないか!!」
『いや違うんだよ、落ち着け。本当にお前は異能を発動するんだ...ただ、今教えることはできないってことだ。』
「なんで言えないんだ?」
...あれ、急に視界がグラグラしだした。審判の声がだんだん小さく聞こえる。
『とりあえず絶対、何があっても死なないことだ。もう少ししたらきっと全てがわかるから。』
床にバタンと倒れ込む。
目の前が真っ暗で何も見えない、聞こえない。
カチッ
また時計の針が動く音がした。




