夢か真か
「あれ、そういえばイーゼンさんとハユンさんは今日いらっしゃらないんですか?」
周りを見渡しても2人の姿は見当たらなかった。
「確か2人とも仕事があって少し遅れるって言ってました。」
「そうだったんですか、大変ですね。」
会場内で飲み物を持って回っているスタッフさんにグラスに入った飲み物をもらう。すると黒いスーツを着た男性がグラスを持って声をかけてきた。
「お久しぶりです。」
「あ!キンスさんだ!」
2人の知り合いかな?初めて見る人だ。
「こんばんは、スアンさん、アンナさん。それにヤマトさんも。」
男性は俺の方を見ながら微かに微笑んだ。
「え!どうして俺の事知ってるんですか?」
「あのねヤマトさん、この方はリーダーの秘書をやっているキンスさん。」
戸惑っていると、すかさずスアンさんが紹介してくれた。
「なるほど...。初めまして、挨拶が遅くなって申し訳ありません。」
「いえいえ、こちらこそ挨拶遅れました。ハユンさんからお話は聞いておりました。キンスと申します。」
キンスさんが差し出した右手を握り、軽く上下に振る。
あれ、ハユンの秘書だったら仕事中のハユンと一緒にいなくていいのか?
「あの...ハユンさんはまだいらしてないんですよね?」
「え?もう...」
キンスさんの目線は俺の背後へ向いていた。...なんだ?
「こんばんは。」
キンスさんの言葉を遮って背後からスっと現れた。
「ハユン...さん!」
「リーダー!」
俺の後にスアンさんとアンナさんは口を揃えて呼んだ。
「遅れてすまない。ちょっと仕事が詰まっててね。」
「驚かさないでくださいよ。...お仕事お疲れ様です。」
「ありがとう。ヤマトくんにはキンスの紹介をしていなかったね。初めてギルドへ来た時はたまたま別の仕事があったから。」
だからあの日はスアンさんが送り迎えしてくれていたのか。
「ちょっと、俺のことも忘れないでくださいよ。」
ハユンの後ろにはイーゼンさんが立っていた。ハユンに気を取られて気が付かなかった。
「リーダーと一緒に来たんですか?」
「いえ、入口前でたまたま会っただよ。」
一緒に来たからこの2人の意外と仲良いんだと思った。
するとスアンさんがアンナさんの肩に手を置いて持っていたグラスを前に差し出した。
「メンバー全員揃ったし、せっかくだから乾杯しますか!」
全員持っているグラスを上に持上げ、軽くコツンと当てて声を揃える。
『乾杯!』
その後、俺は初めて会う方々に挨拶をして回り、メンバーと軽く食事をした後に解散して部屋へ戻った。シャワーを浴びて布団に入る頃には23時を過ぎていた。
時間が経つのは本当に早いな。なんてことを考えながら瞼をおろして眠りについた。
この日俺は夢を見た。
何も無い空間で、血を垂れ流しながら下へ下へと落ちてゆく夢。
熱い...痛い...何も見えない。
ゆっくり目を開けると、大きな時計があった。ヒビがはいり壊れている時計。
もう動かないはずの時計の長針が動いた。
カチッ
これは...刺されて死んだときの夢?
なんだか少し懐かしく感じた。
あ…あいつもこんな気持ちだったんだろうか




