/// 69.たのもー!
◆イーストギルド1階・ギルド長室
部屋にノックの音がする。
「入っていいわよ!」
エルザは気だるさを押さえて返事をすると、その部屋にアンジェが勢いよくドアを開け入ってきた。
「た、たのもー!」
「な、なんなのよ!無理しないの!顔真っ赤じゃない!」
「くぅ・・・」
指摘されて後ろを向いてしゃがみこみ、真っ赤になった顔を両手で覆い隠すアンジェ。頭上ではキュルが慰めるように翼で頭をペシペシとやっていた。
しゃがんだままエルザの方へ向き直り、エルザをチラチラ見ながら顔をパタパタと両手で仰いでいる。
「今日はラビと一緒じゃないの?」
「うん・・・キュルと二人できた・・・」
顔を仰ぎながらつぶやくアンジェに子供を見るような優しい眼差しで見ているエルザ。
「まあいいわ。何かお願い事があるっていうなら聞くわよ。聞くだけだけかもしれないけどね」
先ほどの、勢いで行ってしまった自分の行動へのダメージが回復しないアンジェに「しっかりしなさいよもう!」とエルザの声がかけられると、ようやく立ち直ったアンジェは、小さな声でつぶやいた。
「あの、エルザさんに・・・修行を付けてほしいなって・・・私、まだまだ強くならなくちゃ、ダメなんだと思います、ので」
アンジェの自信なさげなお願いに、ため息をつくエルザ。
「あんたねー、もう十分強いじゃない。人間誰しも一人で何でもできると思ったら大間違いなのよ?周りを頼って生きることも必要なの。分かる?」
「それでも!それでも周りの人たちだけでも、私は守りたい!ん、です・・・」
どうやら決意が固いようなアンジェにエルザは困ってしまう。なんせ人に教えることなど今までなかったのだから。何かあれば我先にと殴りにいっていたエルザに、他人に指導をするという経験は皆無であった。
「私は無理よ。私の拳は破壊の拳。壊すことしかできないわ!」
「・・・」
エルザが左手を握り締めてそれに右手を添え、苦悶の表情を浮かべていた。
「ちょっと・・・今のは笑うところよ。最近流行ってるっていう本の。結構気に入っているフレーズなのに・・・」
「ああ・・・」
なんとなくその本に心当たりのあったアンジェは苦笑いしてしまう。
「まあいいわ。私は教えれないけど伝手はあるわ。ちょっと待ってね、あ、これでも食べてなさい」
そう言うと、エルザはアンジェに何やらお菓子を放りなげると、机の上に並べてある魔道具の一つを手に取る。
「ピポパポポっと。ア¨ーんんん¨!しもしもー、何よノリが悪いわね。どいつもこいつも・・・あんたさ、アンジェに稽古つけてやんなさい。えっ?何?無理じゃないわよ!いいからいいから。なによ!私の言ってること聞こえてない?回線状況悪い?そうよ!じゃあ分かったわね!帝都の中央ギルドに3日後昼までに待機。後は任せるわ!頼んだわよ!」
額の汗をぬぐう動作を見せたエルザは、アンジェに清々しい笑顔を向けて「快諾してくれたわ!」と言い放った。
先ほどからアンジェは口の中が苦くもないのに苦い顔ばかりしていた。
そして先ほど投げ渡された物体をやっと確認する。
それはアンジェが見慣れた・・・ということもないが、丁度こちらに転生する前にブームを巻き起こした日本産のお菓子であった。当時は北海道の親戚に頼んだがなかなか手に入らなくて結局は食べられないままこちらに転移してしまったのだ。
恐る恐る袋を裂き、中の物にかぶりつく。さっくりとしてそれでいてほろほろと崩れ落ちる外壁に、甘く優しい餡とバターの味わい・・・久しぶりの故郷のお菓子に目は潤み、少し色気のある表情を魅せてしまったのも仕方のない事であった。
それを見たエルザが思わず喉をならし、震える手で最後の一本となってしまったそれを貪ってしまったのもまた、仕方のない事であろう。
そしてしばしの至福の時を過ごしてしまった二人である。
若干の不安はあるものの、これで希望通り修行の相手も見つかったようだ。そう思ったアンジェだったが、最後に聞かねばならないことが残っていたことに気が付いた。
「そ、そういえば、誰が、私に修行をつけてくれるんですか?」
「ああ、ベリービットよ!」
「ベリービットさん?」
「英雄連合の・・・赤い髪の」
「えっ・・・」
神国で戦った彼女を思い出してぷるぷると首を振って無理感をアピールするアンジェだったが、エルザが「大丈夫!」「大丈夫よ!」「心配ない!」としか言わなくなったので結局はあきらめるしかないことに落胆してしまう。
こうしてアンジェは、不安を抱えながら足取り重くイースト地区の城門を抜けると、キュルにまたがって帝都まで帰るのであった。
◆エルザード帝国・帝都・英雄連合本部
帝都内の某所、英雄連合のアジトである一室で、ベリービットは机に突っ伏していた。
エルザから所持することを強要された通信機から、次なる指令を受けたのは先ほど。丁度ダンジョンから戻ってきた時であった。
普段はダンジョンに潜りながら、エルザの細々とした指令、ほとんどがお使い程度のものをあの日から毎日のように言い渡される日々。その都度、地上の部下に連絡をしてその依頼をこなさせていた。
当のエルザに叩き折られた武器の代わりを調達するために、毎日ダンジョン深くに潜っているというのに、だ。
そして今回は修行という任務である。部下の指導をすることも少ないくない彼女にとって、それは難しいことではない。しかし私が指導をするのであれば、ダンジョンに潜れなくなってしまう。
自分がいなくなれば連合のパーティの潜る階層を抑えなくてはいけない。かといってすでにレベル10まで上がっているアンジェを指導するもの、と考えてみても数えるほどしか思いつかない。そしてその面子は残念ながらすべてが男。ゆえに自分が行かなくてはいけないと結論付けた。。
そう思うと今から憂鬱でしかなかった。
修行開始は3日後。
ああそうか。アンジェも一緒に潜ればいいんだ。そしてダンジョン内で実践と一緒に指導もしていけばいい。これなら時間も無駄にならないし、自分と何名かの女性メンバーが一緒であれば、それほど階層を抑えなくても大丈夫であろう。俺の武器探しにそこまで支障も出ないだろう。
そう考えをまとめた彼女は、仲間と共に足取り軽くダンジョンの魔物たちを屠るのであった。
◆神界
「キュルにまたがるアンジェ!!!」
興奮するいつもの変態。
「もみもみもみもみもみもみもみもみもみもみ、ぶはっ!!!!」
アンジェの尻と一体化したその変態駄女神ウィローズはまたも出血大サービスであった。
「しっかし、あの赤髪女と修行ね・・・あっ、修行を乗り越えたアンジェにはやっぱり褒美も必要かしらね・・・こうしちゃいられないわ!」
そして立ち上がり、顔をネチャリと緩ませて、『アンジェ専用☆神力バッテリー』へと気力を注ぎ込む変態であった。
愛しのアンジェに届けたい!この卑猥な変態魂を!
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現在火木日の週3更新となります。
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