/// 33.そそくさと41階層
昨日、遅くまでパーティーに興じていたからなのか、アンジェもラビも、いまいちスッキリしない朝を迎えていた。
それはそれとして昨日は楽しい宴が行われ、気合十分な二人はそれぞれの役割を全うするため、身支度を整え二人のスイートルームを出るのであった。
「よし!今日もいっぱい頑張る!」
◆イーストダンジョン・42階層 / 魔窟
アンジェの周りは、昨日見た通りの浜辺が広がっていた。遠くでは海があり波が砂浜に打ち付けらえていた。
昨日ほとんど狩りをすることなく通り過ぎた41階層。苦手な階層であればスルーするに限る。ということでこの42階層へ進めることにした。
しかしながら海は見えるがその攻略法が分からない。まさか所々に点在するヤシの木っぽい奴で筏でも作れと言うのだろうか?そんな考えが浮かんではいたが、まずは進むしかないのであろうと足を前に出す。
念のため警戒をしつつ海へ向かって歩き出す。少し進んだところね危険察知が反応する。目の前の砂地が盛り上がり、そして弾け飛んだ。
バックステップで飛び、すぐに念のための防御態勢で体制を整える。目の前には幅1メートルほどのワームが垂直に飛び出てきていた。蛇!と思って一瞬ビクッとしたアンジェではあったが、頭の中は大ミミズ?であった。ミミズは許容範囲であるようだ。
神速で近づき、少しジャンプをして目の前のそれに切りかかる。小さな傷は残せるようだ。また両手じゃないと無理か、と思いながらいったん距離を置き鑑定リングで鑑定すると『サンドワーム』という名称であった。
特に情報なし。名称からは大ミミズという情報しかなかったことにアンジェはがっかりしていた。だが毒とかはなさそうだ。攻撃手段も何かを飛ばしたりはしない?名前から受ける印象はこんなものだった。
じっくりと観察すると、そのワームの一番上には大きな口がありギザギザの歯がある、まるで鮫のようにさらに何段も口内の奥に続いているように見えた。砂下から突然襲ってきて丸かじり?という攻撃方法を想像して、この階層もやはり油断ならないと気を引き締めた。
そしてグネグネと体を揺らしながら砂から這い出てくると、全長は5メートル程であろう。やはり大きい。そして気持ちが悪い。尾の方は少し細くなり3つ又の鞭のようになっている。それらでバシバシと砂を叩いてこちらを威嚇している。
ふと、目の前のサンドワームがキュルに頭を向けている気がして、こちらの注意がそれただろうと、隠密を発動してサンドワームの横っ腹まで移動する。そしてその太い胴に星切を両手で力いっぱい突き刺し、そして横に切り捨てた。
その傷口からは緑色の粘液が放出され、アンジェの方にも飛び散ってきたのだが、それらは一応、絶対聖域で防いでくれていた。その攻撃にゴリゴリとした手ごたえを感じなかったアンジェは、さらに隠密を使い反対側まで回り込むと同等の一撃を繰り出した。
両側から与えられた大きな傷に、かろうじて首がつながっている状態のサンドワームは、その場で頭を地面にぐったりと落とし、収納されていった。
そしてアンジェは思う。隠密は今までのソロプレーであれば使いっぱなしで大丈夫ではあった。しかし今は一人ではない。群れに近づいてもキュルが先に感知されてしまうため、今回のように戦闘中意識が外れた際に発動して止めを刺すという作戦にするしかなかった。
とは言え、キュルが居てくれるのは心強い。やはりソロでは度し難い不都合というものもあるようだ。ずっと二人でいるために連携も取れてきている。今回の戦法は非常に良いシミュレートとなっただろう。
そんなことを考えているうちに、危険察知が反応して下から砂の盛り上がりを感じ、大慌てでその場を退避する。
アンジェの立っていたはずの場所からボコりと砂を飛ばしながらまた一本のサンドワームがその頭をこちらに向けていた。それに対して冷静に対処するアンジェ。神速で左右に動きその頭からの突進をかわす。
キュルも真空の刃を放ち小さな傷を作り続けていた。すでに尾まで出したそいつはキュルに向かって鞭を打ち付けている。その最中も、中々こちらから視線を外さない。どうやってキュルの位置を把握しているのだろうか。
それならば、と多少は強引にと先ほどと同じ横からの攻撃を試みた。星切を垂直にその胴にたたきつけると、一瞬その刃に抵抗を感じた。どうやら障壁のようなものを張られたようだ。視認されている状態ではこんな方法で抵抗されるのか。
しかし視認されているキュルの攻撃は通るのだから、物理が駄目なのだろうか?そう思っていたアンジュであるが、正解はキュルの竜気によるもののダメージであった。竜撃の爪とキュル自身が持つ竜気の力が合わさった結果である。
そもそも最初の個体に攻撃がしっかり通って倒しきっているのであるから物理無効ではあるはずがない。問題は視認されていると障壁を張られてしまうことなのだ。
何度目かのキュルの攻撃でその視線が外れる。執拗な攻撃に、遂にはその攻撃の主であるキュルの方へ頭を軽く向けるサンドワーム、そしてその隙を見逃さないアンジェの隠密からのサイドアタックにより強烈な一撃が加えられていた。
視認される前に反対側からもう一撃!といったところで、すぐ横の砂がもりあがり、さらには砂を弾けさせこちらへ何やら迫りくるものがあった。もう一匹サンドワームが飛び出してきたのである。
アンジェはその場をすぐに離れると、傷を負った方のサンドワームに新参者はがぶりと噛みつき、そして体をぐるぐると回しながら口の中のそれを飲み込もうとしているようだった。
「う・・・」あまりの光景に少し吐き気を催すアンジュだが、偶然にも共食い、仲間割れとなってしまった2匹の隙を見逃すわけにはいかない、こっそりとすばやく2匹の間に入り横なぎに一回転。さらにもう一回横に薙ぐことで2匹の動きがとまり、ひとまずの戦闘は終えることができた。
いつものように「ふぅ」と一息つき、アンジェはそれらを収納後にキュルの方を確認する。何やら砂浜の砂と同化しているような大きな蠍がかろうじて3匹見える。それと飛び回りながら戦っていたキュル。連戦なんですけど!とボヤキながら慌ててそちらに駆け付けた。
急いで使った鑑定リングには『砂蠍』との名称であったため、どうやら毒持ちではなさそうだと思い、神速で距離を詰める。
砂蠍は後ろの尾を激しく上下させながらキュルをめがけて何度も突き刺そうと攻撃を繰り返していた。前にある大きなハサミもうまく使い、キュルの真空刃も弾き飛ばしていた。その攻防は3対1でありながら、均衡しているようだった。
そこにアンジェが隠密&神速からのズドンである。若干卑怯臭い、とは思うが対魔物である。非情にも3匹の尾を切断し、最大の攻撃方法を失った砂蠍は、なすすべもなく二人に蹂躙されるのであった。
どうやらこの階層は今のところ二人との相性は良いようだ。と思って砂蠍の方も回収しようと思ったら、切り取った尾から紫色の何かがポタポタと垂れ、そして砂浜の砂にそれが落ちる度にジュッと小さく音を立てていた。
アンジェが毒持ちではないと思っていた砂蠍には、どうやら毒らしいものがあるようであった。毒砂蠍とかに名前変えてほしい・・・そう思ったアンジェであった。
気を取り直してさらに進むアンジェ。
すでに戦闘経験を積んでいたサンドワームと砂蠍については同時に何匹か遭遇しても、特に問題はないようであった。そして1時間ほど進むと、海岸の端が見えてきた。そこには蛇行しながらも砂の道ができており、どうやらこの砂の道を通りながら次の階層を目指すということらしい。
これ海からも何か出る奴だよね。というアンジェの想像は当然ながら大当たりであろう。
曲がりくねった砂浜を歩く。所々大きく蛇行しているため、深いところは迂回して、浅いところはそのまま海中に入り超えていった。当然ながらキュルは一切関係なくふよふよと宙に浮かんでいた。
「キュルがもっと大きくなったら乗せてってもらえるのにね」
「キュル!キュル!」
アンジェの冗談にキュルが近づいてさあ乗れよとばかりに背中をこすりつけた。当然乗ることはできないのだが、アンジェに足をクイクイと引っ張られ、「きゅるぅ」と力なく諦めるその姿に癒されていた。
しかしそんな癒しタイムはすぐに終わりを告げる。先ほどから何度か前の階層と同じように海面から二人に向けて弾丸のように突っ込んでくる魔物が存在した。『シーソードフィッシュ』という鑑定結果に一応違う種類なんだと思いながらも、躱したり弾いたりしていた。
その中で、何回かキュルの広範囲に広げて放った真空刃に当たり、何匹かのシーソードフィッシュが勢いを殺され、砂浜に落ちた後にぴょんぴょんと跳ねて海面へと戻ろうとしていたので、急いで仕留めるアンジェ。
その体は固かったため中々刺さらず、むしろ砂浜にめり込んでしまう。仕方がないのでひさびさのロングダガーを収納から取り出し、星切と交差させて削いでみた。かろうじて首に致命傷をつけることに成功し、そのまま収納することができた。
結構倒しずらいからレアなのかも。と思っていたが、本来は高火力の炎系の魔法を弾幕にしておけば、勝手に焼き魚になってしまうため、比較的手に入りやすい食材&武器素材としての価値しかなかった。とはいえ、この階層で出る魔物である。それなり値段にはなるのだ。
その後も何度かシーソードフィッシュを仕留めつつ、進むとその攻撃の合間に一本の触手がこちらに向かってきていた。少しグロイと思ってしまったアンジェは、その一撃を躱すことを選択した。幸いその触手は空を切ってまたもとの位置に戻ろうとしていた。
そこにキュルの真空刃が飛んでくる。その攻撃で触手の先がぶつりと切れたが、残りの触手はどうやら逃げ切ったようだった。その戻った先を警戒していると、今度は4本の触手による同時攻撃が飛んできた。
今度は私も!とアンジェも迎え撃とうとする。星切でその触手をぶちぶちと切り取っていく。うねうねと不規則に動いたそれは、何度かアンジェを巻き取ろうとその体にふれる。絶対聖域を抜けてきたその攻撃に思わず「ひっ」と声を上げる。
慌ててその攻撃部分を手で払いながら距離を取る。ぬめぬめした触手がアンジェの横っ腹を舐めるように掴まれた感触に鳥肌が立った。
ここまでの戦いでこの階層は比較的楽。と思っていたアンジェは早くも反省していた。どの階層も簡単ではないよね。そう思いながら慎重に目の前を警戒していた・・・のだが、危険察知が後方から鳴り響き、慌てて横に飛ぼうとしたが、その足が砂にとられ若干の遅れが生じた。
その足が何かにつかまれ引きずられてしまったアンジェ。引きずられている中、足をかがめてその足に絡みつく何かを切り裂こうと素早い一撃を繰り出す。するとその攻撃によりアンジェの足は自由になったのだが、そのままの勢いでアンジェの体が海面に突っ込むこととなった。
少し潜った海面のその中に、どうやら先ほどまでの攻撃を繰り広げていた魔物が姿を見せていた。
鑑定リングの鑑定結果は『ダイオウイカ』そのままじゃん!アンジェの突込みは果敢なくも海中に消えていく。
突込みの勢いのまま海水を勢いよく蹴ったアンジェは、うまく体を回してその勢いを止めないままそのダイオウイカの顔に切りかかる。次の瞬間、真っ黒な墨を吐かれてしまう。逃走するというのであろうか。切り替えの早い魔物である。
逃走と決めつけ追うかどうか迷っていたアンジェは、あえなく複数の触手に体を巻き取られてしまうのであった。
そのまま本体に引き寄せられるアンジェ。しかし残念ながらアンジェの全力の一撃により、巻き付いていた触手諸共その顔面に星切は突き刺され、その命は綺麗さっぱり狩り倒されていた。どうやらこのダイオウイカに、アンジェを動けなくするほどのパワーはなかったようだ。
急いでそのダイオウイカを収納に入れ、急いで海面へ上がると、ハアハアと呼吸をしてそのまま浜辺へ戻る。心配して飛んできたキュルが頬に張り付いた。
「死ぬ・・・息が・・・やぱかった!!!」
結構ギリギリの状態であったようだ。ここは慎重にとの思いに至ったアンジェは、一度戻る決断をして、急いで浜辺エリアへ駆けるのだった。
その後は、もはや狩りなれてきたサンドワームと砂蠍を大量に狩る二人。その攻撃の一つ一つにダイオウイカへの恨みが籠っているように見える。そしてその鬼気迫る表情のアンジェに、キュルは「キュー」とやや引いていた。
その光景は、夕刻過ぎのアンジェのお腹が盛大に鳴るまで続けられていた。
何はともあれ、これでアンジェの懐はますます温かくなるのであった。
◆神界
「触手!キターーーー!!!!」
今日も絶好調に変態駄女神の涎と血しぶき舞い散る腰ふりダンスが繰り広げられる白き空間。
当然のことながら遮断魔法はかけられていた。
「遂に!海中に引きずり込まれるアンジェ!あっ、でもこのままじゃアンジェが・・・」
待望のお宝シーンとアンジェの身の安全に心揺れ、複雑な心境に腰が止まる変態。
「あっ!一撃必殺!ふぅ良かった・・・良かったのよ、ね・・・」
どことなく寂しそうな表情を浮かべた女神は、今日も遅くまで下界の様子を眺め、心の安寧を守るのであった。
今日も今日とて世界は一応平和です。
本日、お昼に短編公開しています。少しだけリンクしてるかも。
桜に転生してしまった俺は身動きを取れず傍観を生業とす
https://ncode.syosetu.com/n5524ie/
お読みいただきありがとうございます。安ころもっちです。
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