/// 32.休日満喫!ラビと行く、大樹の家
今日は朝からルンルン気分のアンジェ。そろそろ起きなきゃと思い体を起こす。近くではラビが身支度を始めていた。キュルは・・・まだ寝ていた。
昨日、寝る前にラビからお休みなのでお出かけする?という問いかけに、当然のごとく二つ返事で喜ぶアンジェ。
色々計画をたてたが、結局は少し買い食いをしたら大樹の家を見に行ってみようということになった。
あまり人のいる場所へは行きたくないのだが、大樹の家は外目からは以前見ていたが、中がどのようになったっているのかは気になっていた。そしてラビが居れば安心だ。ということで予定はきまった。その後はその時の流れでいいだろうとも。
アンジェもラビと一緒に身支度をはじめる。といっても顔を洗い、髪を整える程度でほぼ終了である。聖者の衣(女神の祝福)はアンジェからオシャレをするということも奪っていた。残酷な仕打ちである。アンジェの心、女神知らずである。
その他には、今日がチャンスと普段は大事にしまってあった、ラビからプレゼントされた可愛い兎の髪飾りをつけていた。
そして最近は、無骨な星切用ホルダーを、こっそりギルドお抱えの職人に作ってもらった、聖者の衣(女神の祝福)のデザインに合わせた可愛い系おしゃれホルダーに交換していたこともあり、トータルコーディネイトとしてはラビもニッコリの出来になっていた。
支度を終えた二人と一匹であるが、アンジェは背後からラビに抱きしめられ「アンジェちゃん可愛いわー」と可愛がられてからのお出かけとなり、少し遅めの出発となってしまった。
大樹の家へ向かう前に、露店で以前買ったオーク肉の串焼きのたれ&塩を大量に購入し、新しく出たというからしマヨ風味の串も少量購入した。いくつかを食べお腹を満たすと、大樹の家へ向かうのであった。
◆大樹の家・門前
敷地が近くなると、少しだけ中の様子が見える。塀の中では大人の男性が、子供達が何やら作業をしているようだった。
「こんにちは。ギルドからきました。ラビといいます。少し見学してもいいですか?」
ラビの挨拶に一人の男性が声を返す。
「あっ!ラビさんじゃないですか!それに後ろにはアンジェリカさんに・・・竜?」
そう言ったのは大樹の家の元副院長、デニイロであった。
「覚えてらしたのですね。アンジェちゃんと、この竜はキュル。アンジェちゃんの使い魔ちゃんです」
「使い魔さんですか。アンジェリカさんも相変わらずのようで、そしてよろしくキュルくん」
「キュル―!」
挨拶も済んだようで、ラビの背後を確保しているアンジェも一安心である。
「今日はちょっと中を見せていただけたらな―と思ってきちゃいました。後これお土産です」
そう言ってラビは先ほど購入したオーク肉の串焼きを差し出す。
「いやーわざわざすいません。おお!おいしそう。子供たちも喜びます。見学ですね。ちょっと待っててくださいね」
そういうとデニイロは、串焼きの袋を片手に、一番大きな建物に入っていった。作業をしていた子供たちはぼーっとこちらを見ていた。その中には前にも会ったエドワール君もいて、こちらに向かって元気に手を振っていた。
その後、さゆりさんがいつものように「まあまあ~」とやってきて本館へと案内された。本館に入ると、肌寒くなってきたこの季節でも暖炉に火が灯され、暖かな空気に包まれていた。
「ここが一応生活のメインの場所になるんだけど、この広間と食堂の他には、寝泊まりできる部屋が10個ほどあってねー。今は一応出身の孤児院ごとに別れて泊ってるのよー。いずれは直接ここにくる子も増えるから空き部屋も埋まっていくだろうしねー」
おっとりとしゃべるさゆりの説明でその寝泊まりできるという部屋に案内されると、そこには部屋の両端にそれぞれ3個、計6個の二段ベットが並べられた一室だった。
「こんな風に全部同じ作りになってるんですよ。結構広く作っていただいたので助かります。この部屋は元々大樹の家にいた子達の部屋で、この時間はまだ小さいシロップちゃんがいるだけなんですよー」
そう言われ、広い部屋をきょろきょろと確認する。その目の前でゴロゴロとおもちゃを持ちながら眠たそうに転がっているのが、シロップちゃんなんだろうと思った。
「ラビちゃんやアンジェちゃんのおかげで、すっかり子供らしい生活をさせることができたのよ・・・ありがとうね」
そういうと、さゆりはこちらを真っすぐ見つめて、深く礼をした。
「こちらこそ、未来の冒険者も含め、よろしくお願いします」
ラビもそう返して礼をするので、アンジェも同じように礼をした。
「ふふふ。ほんと優しい二人。あ、キュルくんもいるから三人ね」
「キュルルゥ!」
名前を呼ばれたキュルはくるりと空中で一回転をして喜んでいるようだ。
そしてさゆりに誘導されて、裏にある4つの建物の近くに移動する。それぞれローテーションで、商業、農業、財政、政治、魔法、剣術などの座学として教える部屋として利用しているとのことだった。そしてその裏には訓練場として広い敷地に戦闘訓練などに使うのだろうか、よくわからない人形や的のようなものが並んでいた。
さらに畑には、成長の早いいくつかの作物がすでに収穫時期を迎えており、何名かの大人にまじって子供たちや作業をしている。最初にここを訪れた際に挨拶をしてくれたセザイルとマリーネも年長組として子供たちを指導しているという。
今はここの畑で色々な野菜を作付けしているという。いずれは育てた野菜などは食べきれない部分を出荷したりして資金を回していくのだとも。お肉類には困ることはないようだ。主にアンジェの支援が大きいのだが、他の冒険者も多数の寄付をしてくれているようだった。そして金銭的な部分では、領主からの補助金であったり、多くの冒険者からの寄付により、授業を行う専門家を常勤させたりしていた。
「こんな暮らしがまたできるなんてね・・・なんか日本の戦時中からの復興みたいね・・・アンジェちゃん・・・」
そういって涙ぐみながらいつもとは少し違った口調で話すさゆりを見て、アンジェも胸に熱い何かがこみあげてきた。
「私!もっと頑張る!」
珍しくしっかりとした言葉でさらなる決意を口にした。ラビさんはそれをニコニコと見つめ、アンジェを撫でる手は一層優しく動かされていた。
その様子を、本館の校長室からハアハアと見つめる『蜃気楼の聖女 守護の会』司祭、聖浄守斧・ザンガス校長は、「ああ!聖女アンジェリカ様がお見えになられた!これはもてなしをしなければ!」と秘蔵のワインを開ける決意をして、最高級のチーズをベースにしたソースと、ここで採れた新鮮な野菜のディップというマイフェイバリットメニューを作成しに、調理場へ急ぐのであった。
結局、アンジェたち三人はそのまま帰ったためその徒労は無駄に終わり、失意に暮れて校長室に戻るのだが、ワインやチーズはザンガスが冒険者としての働きで購入したものなので、横領などではないことは彼の名誉のために明記しておく。
「あらあらあら~。こんなところに素敵なワイン!こっちはソース?あら美味しい!野菜も切ってくれてるのね。丁度お腹が減ってきたころだし。みんなを呼んで頂いちゃおうかしら!野菜ジュースも出しておかなきゃね。ふふふ。また運動しないと、お腹にお肉がついちゃうわね。こまったわぁ~」
◆ギルド二階・ラビの部屋
大樹の家で新鮮な野菜をいただいた三人は、武器工房『頑固な武器屋』に立ち寄った。
アンジェの星切や、キュルの竜撃の爪の手入れなどを頼むために寄ったのだが、新しく変えられていたおしゃれなホルダーを見て、ルドルフが微妙な表情を浮かべていたが、アンジェは気づかないふりをしていた。
そして部屋に戻ると、今日はいよいよ洞窟竜の肉を使ってのすき焼きパーティーの予定である。40階層のボス戦でゲットした貴重なお肉である。ボス戦以外だとまだ少し下の階層に生息しているため、かなりの高価なお肉である。休みの日に食べようと予定していたのだ。
新鮮野菜に最高級なお肉。三人の最高の休日となったことは容易に想像できるであろう。
「アンジェちゃんアーーーン!」「お姉ちゃんおいしー!」「お姉ちゃんもあーん!」「ふふ!美味しいわアンジェちゃん!」「キュル!キュルルル!!!」「はい!キュルもー!」「キュキュー!」「ふふふ!おいしいねー!いくらでも食べれちゃう!」「うん!」「はいあーーん!」・・・
この部屋だけ気温が10度ほど上がった気がする。そんな夜だった。
◆神界
「ア¨ァーー!私もっ!下界にっ!イクッ!」
拳に力を入れて歯を食いしばり、血の涙を流す・・・そしてその歯ぐきからも血が・・・よだれが・・・そんな滴らせ変態駄女神はくやしさに顔を歪ませていた。
「行きたいいぎだいあの部屋にいーぎーたーいぃぃー!」
誰も見ていないことを良いことに、いい年をした女神が寝転がって足をバタバタさせていた。
当然下界に降りるなどできるはずもない。キュルの装備に分体を送っているだけで本来はアウトである。
そんな変態の夜は悔しさを存分に味わいながら過ぎていく。ラビとアンジェの顔に挟まれながらおいしいお肉をくちゃくちゃしたい。そんなささやかな願いが叶う音はいつの日か・・・
宴が終わり下界が寝静まった後、そのうっぷんを吐き出すように分体を使ってアンジェを、ラビを、存分に堪能する変態と共に、今日も平和に世界が過ぎていく。
「ふぅ!」
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