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8-4 目覚め

「きゃー、あ、あなた。 だれ?」


 行倒れていた娘を助けて自宅まで運び、介抱して目覚めた娘に自分の晩御飯までをペロッとたいらげられた挙句、痴漢みたいに叫ばれた耕平はちょっと戸惑っていた。

 さっきまで必死でご飯をかき込んでいた彼女であるが、人心地つくと、そこで初めて知らない人が目の前にいて、さらに自分が下着姿になっていることに気が付き、叫び声と共に、さっきまで寝ていた隣の布団の中に飛び込んだ。

 ブランケットを頭まですっぽりとかぶると、顔も出さずに布団の中から


「私の服、あなたが脱がせたの⁉」


「お姉ちゃん、この人がお姉ちゃんを助けて、お姫様抱っこしてくれて、このお兄ちゃんの家まで運んでくれたんだよ」


 そう聞くと、布団の中からはしばらく返事が返ってこなくなった。

 頭も少し動きだし、ようやく直前の状況を思いだした事とすこし現状が見えてきたようで、恥ずかしさが一気に爆発したようだ。


「あの君さ、お腹が満たされたのであれば、お風呂に入ってさっぱりしたら?

 話聞くのはその後でいいからさ、着替えは持っているの?」


「え、着替って? あ、思いだした!

 ガードレールに車がぶつかっている横を走ったら、私の自転車もパンクしちゃったのよ。

 どうしてって思ったら、その事故で何か道に落ちていたみたい?


 パンクするまでは、自転車の荷台にこの子を乗せて走っていたので、背中に荷物をほとんど背負えなかったのよね。

 だから水など重い荷物も自転車の前かごに縛り付けていたの。


 パンクしてからは二人とも自転車を降りて、押して歩いていたのだけれど、途中からきつい山道となり、上り坂の途中で小石に乗り上げた時、前かごが重くってハンドルがふらついて、気がついたらあっという間に自転車は谷に落ちていったの...

 深い谷だったので私では下まで降りることは出来ないし、それに谷から荷物を引き上げる事は絶対無理!

 そして自転車と共に水や食料、着替えなどすべて谷に落ちていき、失くなっちゃった。


 このまま暗くなると山が越えられないので、悩んでいてもダメと思って再び歩き出したのだけど、 そう荷物が無くなり身軽になったので何とか山頂は越えたのだけど...

 しばらく歩きながら、自転車と荷物が無くなっちゃんだなと考えていたら、そうだ食べ物はもう無いんだって思ったら、そうしたら急にお腹が空いてきて、そして目が回って、気がついたらここで寝てました。 てへ!」


「僕の服で良かったら、服と下着を貸すから、風呂に入って着替えてください。

 ちゃんと洗ってあるからさ。

 お嬢ちゃんにはかなり大きいと思うけど、小さい服を持っていないのでごめんね」


「お兄ちゃん、ありがとう」


 俺の下着だという部分が引っ掛かっているようで、彼女は布団の中でぶつぶつ言っているが、それ以上の返事がない。

 でも、何日も入っていなかった風呂の魅力には勝てなかったようで、ブランケットをぐるっと体に巻き付け、とりあえず風呂場まで移動した。

 夏用の薄いブランケットなので、つよく巻くと体のラインがはっきりと出てしまうのだけどね。



「タオルはこれね。

 石鹸やシャンプーは中に置いてある僕のを使ってください。

 お湯は溜めておいたから、ゆっくり入ってください。

 汚れた服は洗っておきますか?」


「いえ、結構です‼

 汚れた下着には絶対に触らないでくださいね。 絶対ですよ!」


 洗っておいてあげようかと思ったのだが、そこは女の子の大事な下着である。

 強く言われたので、素直に従うことにした。


 ただ、先ほどまで寝かしておいた俺の布団は、摩導具によるクリーンを掛けておいた。

 布団に残っていた土埃や、何日も風呂に入れていない女性の匂いはこれで取れたはずだ。


 このまま今夜はここに泊まりとなりそうなので、これまで使ってこなかったけど、元の家主の来客用の部屋と布団をお借りする事にする。

 来客布団を準備した後、俺のTシャツと短パンを2人分準備して、バスタオルと一緒に着替えとして脱衣所前に置いておく。

 とりあえず、男物の下着のパンツだが、さっきは返事はなかったが、念のためにそれをバスタオルの下にこっそりと置いておいた。


 それより、さっきは僕の食事まで食べられちゃったので、保存食から貴重なカップラーメンを取り出して、彼女たちが入浴中に食べる事にした。

 カノ島製の麺料理は頼めばいつでも手に入るが、その料理の中に、このようなカップラーメンはない。

 いや、摩導パックに入った本格的な中華の麺料理は有るのだが、このチープ感のあふれた揚げた麺と独特のスープの日本のカップラーメンというのは実に奥が深い。

 以前はコンビニに行くと、いくつもの種類のカップラーメンが手軽な価格で手に入ったが、もはやそのコンビニ自体が閉まっており、いくつか残されているカップラーメンは僕の最後のお宝だ。

 この世界が正常だったとき、もっと沢山買いだめておくべきだったと悔やんでいる。


 しかし、お風呂に行ってから既に1時間以上過ぎているので、また中で倒れていないか心配して風呂場に近づくと、タイミング悪くちょうど風呂から出てくるところであった。

 危うく、未知との遭遇となるところであったが、ドキドキしながらもそれを何とか回避し、僕はそっと部屋に戻った。

 しかし、彼女らは風呂から出た後も、脱衣所からなかなか戻って来ない。


 やはり僕の下着が置かれていたことに怒っているのかな?

 あ、そう言えば僕は使わないけれど、女の子は髪を洗った後ヘアドライヤーがいるのかな?

 僕は、普段は使っていない摩導ドライヤーを探し、脱衣所の外から恐る恐る声を掛けてみる。


「ドライヤー使いますか?」


 しばし待つが、返事がないので、また倒れているのではないかとちょっと心配になり、


「大丈夫ですか? 中に入りますよ!」


 僕は大きな声で呼びかけながら脱衣所を覗くと、なんと二人とも背中合わせで床に座り込み、軽い寝息を立てながらすでに寝ていた。

 一応、二人とも既に僕のTシャツとパンツを履いてくれたようで、ちょっと安心した。

 かなり疲れていたのであろう。 お腹も膨れて、お風呂で体も温まり、睡魔には勝てなかったようだ。


 まだ少し髪が塗れているようなので、枕にバスタオルを敷き女の子を抱っこして客間の布団に運び込む。

 そして、次は大物である女子をお姫様抱っこして布団まで運んだ。


 僕の腕力だと、たとえ体重の軽い女性であってもお姫様抱っこは無理だと思う。

 種明かしをすると、腕に付けたバングルにより、物体への引力を抑える事が出来る。

 これは摩導具の斥力制御を使ったものであり、物体に作用する引力を打ち消すように斥力を働かせると、物体が軽くなるのだ。


 二人を布団に寝かすと、僕は家の前に停めたままになっていた摩導カートを再び使い、山の麓の街道まで戻り、街道を山の方に走っていく。

 カノ島では普通の移動手段である摩導カートではあるが、日本では目立つといけないので、この地に住んでからは自転車しか使わずに、摩導カートは畳んで納屋に仕舞い込んでいた。


 周りを見ながら街道をゆっくりと走り、山頂を越えてからは、道路の横に谷が有りそうな場所が有ると、道路から離れて摩導カートを谷の斜面に走らせる。

 摩導カートの底面を強く光らせて、斜面を明るく照らしながら何度か往復すると、確かに荷物を括りつけられた自転車が落ちていた。

 周りに他の荷物が落ちていないか一応探したが、とりあえず荷台紐は緩まずに、そのまま荷物と一緒に自転車は谷まで落ちたようだ。


 摩導カート底に引力を発生し、自転車を裏床に引き寄せ貼り付け、その後摩導カートを小さなスキップジャンプで垂直上昇させ、農家の前に着陸する。

 摩導カートも空を自由に飛べればよいのだが、基本的に空中移動に対しては、引力に対して斥力により垂直に飛び上がる事と、昇り切った上空から着陸方向目指して落下する事になる。

 家の前に大破した自転車を置いた後、摩導カートを畳んで納屋に仕舞う。

 

 今日は夕方からいろいろあったので、僕も疲れたのでそろそろ休ませてもらおう。



 ◇◇◇ ◇◇◇ ◇◇◇



 翌朝、畑から野菜を採ってきて家に戻ると、二人は起きていた。

 まだ、そこそこ早い時間だと思うが、彼女たちも毎日夜明けとともに移動を開始していたとの事で、早起きをしてきたようだ。


 朝は、採れたてソラマメで作る温かいポタージュスープと、小麦粉から作るパンケーキの予定だ。

 摩導ボックスに残っていた卵と牛乳を使い切り、卵白を強く泡立てて、それに残った黄身と砂糖、篩った薄力粉にメレンゲ状になった白身をさっくりと混ぜて焼き上げる。

 ベイキングパウダーなど膨らし粉は使わずに、強く泡立てた卵白の細かい気泡が、焼くことで膨張し、それが生地をふんわりと仕上げる。

 そこに農家の台所に温存されていた、大きな瓶に入っていた蓮華のはちみつをたっぷりかける。

 昼ころまでには、次の摩導ボックスが届くと思うけど、これで主な食材が無くなってしまうのはちょっと悲しい。

 まあ、野菜だけはたっぷりあるし、コメや小麦は農家が残してくれたのがまだあるし、それにカップラーメンは秘密だけどね。


 なかなか、男子の一人暮らしだと、どこででも食料は手に入ると思っていたから、特に食料備蓄などはしてこなかった。

 こんな来客は予想もしていなかったので、ちょっと困った事に成った。

 今日届く予定の定期便では、相変わらずの食糧しか頼んでいなかったので、久しぶりに東京ブランチに直接連絡をして、追加で食材を送ってもらう発注をした。


 昨日までの緊張と疲れで、朝食を食べ終わると梨花ちゃんは再びお眠のようだ。


 僕は、彼女たちを家に残し、朝から学校に顔を出し、今朝採れた野菜を届けてきた。

 いつもであれば、校庭の交換市にも顔を出すのだが、今朝は同級生の女の子が来ていたので、持ってきた野菜を渡してすぐに帰ってきた。

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