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8-1 漂着

「おーい! 助けてくれー!」

「おーい、おーい」


 その大型船のデッキには多くの人が鈴なりとなっており、遠くに見える小さな船に向かって船上から必死に手を振り、救助を求めていた。

 この船舶には何千人もの人が乗船し、世界の港を訪問するクルーズ旅行の大型豪華客船である。

 中には、長い棒にシーツを結びつけ、何とか助けを求めていることを示そうと、大きなフラッグのようにしたものも必死に振っている船員もいた。


 エンジンが停止した大型客船は、潮流や偏西風で流されて、この3週間の間太平洋を漂流していたが、昨夜何かに引っかかったような感じで船の流れが急に停止し、ここにしばらく停船している。

 夜が明け、双眼鏡で必死に周囲を観測していた船員により、たまたまこの付近を走行していた小型船が発見された。

 船員達は船に備えられている大きな海図と、夜間に観測された星の角度から、現在の船の位置はカノ島という太平洋上の島、そこから約50kmほど西の沖合であると推測されていた。

 地球は丸いため、この距離離れると水平線に隠れて、船からカノ島の陸地を見る事は出来ない。

 しかし、今回見つけたのは小型船であり、海図によってもこの海域にはカノ島以外に島は無いので、小型船の大きさから航続距離を想像すると、それはカノ島の船である可能性が高いと推測された。


 今、この大型船が何に引っかかって止まっているのかはわからないが、少なくともそれは座礁ではなさそうである。

 海図に書かれた周囲の水深は深く、今停止しているのが座礁ではないと考えられる。

 もし風向きや海流が一度でも変われば、これまでの漂流を再び太平洋上で始めてしまうことを船員たちは恐れていた。

 ここまで何とか温存してきた水や食料はほぼ尽きており、ここで人が住む島の近くから離れてしまうと、動力を失った客船ではもう助かる術は残されていない。

 絶対逃すことが出来ない、最後のチャンスであった。



 ◇◇◇ ◇◇◇ ◇◇◇



 カノ島は丸い形をした島であり、島の直径でいうとほぼ100㎞ほどあり、円の面積では7850平方㎞である。

 これは、ハワイ諸島で一番大きなハワイ島の、三角形の形の角を削って、小さく丸くしたような島だ。


 異次元からこの地球にやって来て、カノ島に移り住んだ人たちも、長い年月の間に、この島で伴侶を見つけ、夫婦となり、子を成しこの世界に馴染んでいった。

 この島には、移住してきた人の孫やひ孫たちの世代まで住んでいて、多く異次元人はこの世界の人と共に普通に生活をしており、カノ国の人々の間には、出身が異次元だと言うような意識や偏見は全くない。


 そしてその島の沖には、島を守るために摩導による防御シールドが設けられていた。

 それは、カノ島の沖50㎞にまで、シールドの直径としては、島を中心とした半径100㎞の範囲に敷設してあり、シールド外部からの物体の侵入を防いでいる。

 摩導シールドは、そこを通過できる物質などが選択でき、今回の太陽風のように人体に影響が有る放射線や宇宙線も遮断の対象となる。

 シールドは摩導による斥力が用いられており、シールド表面に物体が近づくと同じ極性の磁石が反発するように、近づくほどに強い力で弾じかれることになる。

 シールドは単に反発するだけであり、何かがそのシールドに触れたからといって、相手が爆発するようなものではない。


 未登録の航空機や船舶など外部からの侵入は、このシールドで反発し、それを通過することはできない。


 生物はシールドを外から内側に通過できるように設定されているが、生物以外の生命の無い物体は通過できない設定となっている。

 また、シールドの内側から外に出る場合、そこには特別な許可を必要とし、これも勝手に通過できない。


 これは着衣状態での侵入では、衣服がシールドで引っかかるので、マリンスーツや水着を着たままシールドの中に入ることはできない。

 そう、シールドの前で着衣をすべてを脱ぎ捨ててこないとカノ島に入れず、島内に外部の物品を勝手に持ち込むことは出来ない。

 何等かの装置や浮袋などを使わずに、シールドから島までの50kmを泳ぎ切れば島へ立ち入る事は可能であるが、普通の人間が無断で島内に侵入することは不可能である。


 海水はシールドの除外対象と設定されており、そのまま島の周りを流れることはでき、海流に乗って魚やプランクトンはシールド内に入ってくるが、逆に一度中に入ってしまうと外に逃げだすことは出来ない。

 そのために、この島の周囲は天然の巨大な生簀となっており、シールド内から定期的に魚を減らさないと、カノ島の海岸はぎっしりの魚であふれる事に成る。


 その魚の状態を観測するために無人の調査船が何隻も運行されており、カノ島では安定した漁業というものが成立しており、いつでも魚を食べることが出来る。

 島を中心とした巨大な生簀では、プランクトンなども管理されているので、この規模が養殖なのか天然であるかは判らないが、魚にとって住みやすい環境が維持されていた。



 ◇◇◇ ◇◇◇ ◇◇◇



 その大きな船は、カノ島のシールドに押し付けられるようにして停止していた。

 先ほど発見された小型船は、カノ島周囲の魚の状態を調べるため、毎日運行されている無人の調査船のうちの一隻であった。


 そして、島内に有る海洋コントロールルームにいた人は、その調査船の監視カメラの映像を見て困惑していた。

 調査船をシールド付近に近づけると、そこで停止している大きな船は客船であり、海面近くの小型船からの映像には、そびえる大きなビルを眺めるような感じであった。

 しかも画像をズームしてみると、その甲板では多くの人が助けを求めている姿を見ることが出来た。



 ここで問題となるのは、カノ島には大型船が着岸できる岸壁はない。

 どこまでも砂浜が続く遠浅である海岸線は、大型船を島に近づけさせない。

 そう、海岸から何キロも離れていても、島に近づくだけで座礁してしまう。

 大きな船の場合、吃水線より下、海中深くにまで船底がある。

 大型船が着岸する為には、水深が深くまで掘られた埠頭が必要であり、カノ島では沖合にある石油取り込みの浮き埠頭以外では、沖合に停泊した状態で、小型のボートに乗り換えて上陸する必要がある。


 それより問題は、この船をカノ島で救助することは、国籍を持たない人を島内に入れる事に成る。

 客船の大きさから、乗客、乗員合わせると恐らく少なくとも千人は乗船しているものと考えられる。

 今の島の人口10万人から考えると、例え千人であっても1パーセント近い人口が急に増える事となる。

 急にそれだけの人を受け入れ、宿泊させる施設も無ければ、それだけ増える人に提供する食料も急には準備できない。


 人数が多すぎる事は、島としての急な受け入れは物理的に不可能であり、この件はすぐに評議会に報告され、現状の確認の為に何人かがその客船に乗船する事に成った。




「はじめまして、僕はこのカノ国評議会の議長をしています、西脇風太と申します。

 日本語でよろしかったでしょうか?」


「私はこの船の船長をしていますイェジ・アダムスキと申します。

 日本語は話せますので、英語ではなく日本語でお願いします。

 ご足労頂きまして、大変ありがとうございます。

 今私たちは衛星電話やそれを使ったインターネットにも接続が出来ず、外部との連絡や情報の入手が失われました。

 船には以前の船長が残した古い書籍しかなく、その資料ではカノ国は王国だと記載されていますが、西脇さんが議長をされている評議会というのは、カノ国でどういう立場なのでしょうか?」


「そうですね。 そこからちょっと説明させていただきます。

 カノ国は王国ですが、ここ何十年も国王は不在です。

 国王不在の間、カノ国の運営は私たち評議会で行っています。

 ですので、私達評議会が現在の国の代表組織と考えていただいて構いません。

 それで、状況をお教えください」


「おお、お若いので国を代表されている方とは思いませんでした。

 まずは、失礼をお許しください。


 およそ3週間前の夜、船がいきなり停電し、船の機関が全て停止しました。

 私たちは、世界各国を回るツアーを行っていまして、日本は定期航路の1つであり、大事なお客様がいつも大勢乗船されていますので、私も日本語を勉強しています。

 この航海は日本に向かうところであり、まもなく日本の横浜港に到着する予定でした。


 そろそろ距離的に湾岸局とのVHF通信が使えるかと思っていたのです。

 あの夜の故障により、衛星電話はおろか、短波帯などすべての通信機器も故障し、船舶の制御装置や機関装置、船内の照明を始め全ての電気製品が利用できなくなりました。

 無線が停波するとともに、あらゆる方法での外部との連絡が一切出来ず、そのあとはここに至るまでは陸地は一度も見ない、完全な漂流状態となっていました。

 機関が停止した当初は、日本に近かったので、航路上に他の船も見えていましたので、私たちの船が故障していても、すぐに誰かが救助してくれると思っており心配していなかったのです。

 しかし、その他の船も我が船と同じく、どうやら制御を失っていたようで、あちらもゆっくりと別の方向に流されていきました。

 それから3週間近くは陸地も見えず、他船も遭遇せずに、偏西風と海流により、こちらにまで押し流されてきました。


 今この船には、乗客・乗員合わせて約4000人が乗船しており、数日前に食料が尽きており、発電機が停止してからは淡水の生成も出来ていません。

 淡水はプールに入れてありましたので、飲料水では無いのですが、皆が泳いでいたプールの水を使っています。


 機関停止以降、外部とは一切通信が出来ませんし、船舶警報通報装置(SSAS)と非常用位置指示無線標識装置(E-PIRB)は作動させたので、電波でこの船の座標は届いたと思い救援を待っていたのですが、しかし救助は来ませんでした」



 風太は、そこで聞いた人数にまず驚かされていた。

 評議会での想定では、千人位かなどと話し合ってきたのだが、その4倍の人がこの船にいた。

 もしこの船を救助しカノ島に着岸させたとして、4000人という人数はカノ島にとってあまりにも多すぎるからだ。


 かといって、それだけの人を餓死させるわけにもいかない。


「分かりました。

 いろいろ難しい問題ばかりで、ここで即答は出来ませんが、とりあえず水の補給と食事の援助をいたします。


 しかし、一度に4000人分の食料ですと私どもでも簡単にご提供することは難しいと考えます。

 私どもの国では、たとえ入国いただいても、それだけの人数を収容頂くための施設も御座いません。

 私共カノ国は、島全体でも人口10万人規模のとても小さな国ですので、そこはご理解ください」


「大変ありがとうございます。

 ところで、今更なのですが、いったい何かが起きたのでしょうか?

 ここまで、外部との連絡は取れないので、私たちには情報が一切無く、何が起きたのか分かっておりません。

 どうして私たちの船が停止したのかすらわかっておらず、こちらで何か解りませんか?」


「そうですね。

 ちょっと申し上げにくいのですが、いま世界は、いや地球全体は、あなた方の船と同じ漂流状態に陥っています」


「えっと?

 ちょっと議長さんのおっしゃられた意味が良く理解できません」


「言ったそのままです。

 私どもでわかっている事と言えば、あの大失電によって世界から電気という物が無くなってしまい、現在すべての国が機能を停止しており、道に迷って漂流しています。

 あ、大失電と言うのはこの地球規模の災害がおき、停電ではなく、電気そのものを失ってしまったようなので、日本と言う国では大失電と呼ばれているようです。

 移動手段や連絡網が完全に喪失したため、国土が広い国など、多くの国が無政府状態となってしまい、人類は瀕死の状態です。


 したがって、洋上でいくら待っていてもどの国からも救援などは望めませんし、例えどこかの国に漂着されても、そこで補給なども一切出来なかったと思います」


「まさか? そんな事、嘘ですよね」


「残念ながら、これは事実のようです。

 そして、地球上のほぼすべての国で、食料や物資が不足しています。

 人の移動や物資を運搬する車や電車、飛行機や船、これら一切が動きません。

 さらにすべての政府はお金が使えなくなったことで債務不履行(デフォルト)に陥り、国自体が破産状態となっています。

 そのため、それまで各国の中央銀行が発行して来た通貨の価値が失われ、お金を使った物品の売買が行えない状態になっています。


 あなた方は、長期航海に備えて船内に食料などを持っておられたので、陸上に比べると船の上の方が、まだ状況としては良かったのではないでしょうか?

 あ、ここカノ国はもともと国の政策としてこれまで電気を使ってこなかった事と、小さな国であり、この島だけで食料などは自給自足で回っていますので、今回の大失電の影響はほとんど受けていません」


「それで、さっきの船が走っていたのですね。

 もし、見つけて頂けなければ、大海に浮かぶ墓場となってしまうところでした」


「いや、まだ安心されても困ります。

 先ほど申した通り、今回の災害は日本では大失電と呼ばれているようですが、それは残念ながら一時的ではありません。

 また、カノ国では国民以外の島への上陸を許可する事が出来ません」


「いろいろ情報ありがとうございます。

 驚きが大きくて、まだ地球規模での災害という物が良く理解できていません。

 世界各国が混乱されているようですが、無線が使えない中、こちらはどのようにその世界の情報が伝わっているのですか?」


「私どもはもともと太平洋上の島国ですので、他国に頼らない独自の情報網を構築しています。

 もともと電気には頼っていませんので、電気が失われたとしてもこれまでと変わらない状態で情報は入って来ていおります。

 もっとも、この規模の災害ですので、私共も静観するくらいしかできません。

 あなた方の船一艘を救助する事ですら、私たちの国の規模から考えると、キャパシティ的に大きな影響が出ますから……」


「大変申し訳ございません。

 いくつかお聞きして、私どもが漂流以上に大変な状況に陥っていたことがわかってきました。

 ですが何とか、見捨てないで、お力をお貸しいただけるようお願い申し上げます」


 そう言いながら深々とお辞儀をする船長との話し合いは、まだ続けられていた。

いつも、本小説をお読みいただきありがとうございます。

また、この作品を見つけて頂いた事に大変感謝をしております。


ブックマークと、評価ポイントの登録を頂けますと、作者のとても大きな励みとなります。

何卒お願い申し上げます。


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