6-1 マリ姉
「風太、久しぶりね! 元気にしてた?」
そう言って、バングルの摩導通信によってカノ国評議会の議長である西脇風太に呼びかけてきたのは、カノ国の王族の一員であるマリエからであった。
カノ国国民の全員は、腕に付けている金の腕輪を使用して摩導通信を行うことができ、これは太陽系の範囲くらいであれば離れた相手とでも互いに通信ができる。
カノ島では電気や電波は使っていないため、今回の大失電の影響は受けなかった。
「え! マリ姉? あっと、マリーさんですか? ずいぶんご無沙汰をしております」
小さなころから、風太は2歳ほど年上のマリエによく面倒を見てもらっていた。
王族と言う血縁関係であり、マリ姉などと呼んでいるが、実の姉と言うわけではない。
「おうおう、君もなんか立派な受け答えが出来るようになっちゃって。 昔のように、マリ姉でいいよ。
風太、それはそうと今評議会議長やっているんだってね。
ちょっと合わない間に立派になって、マリ姉としてはうれしいよ」
カノ島では、出産後の乳児は日中は保育設備にて育てられ、出産を終えた女性も、出産後数日すると職場に戻っていく。
そして、夜間と、奥さんか旦那の仕事が休みの日は、自宅で子供を育てる事をしている。
それはそのまま教育へと繋がっており、0歳児から15歳までは教育課程とみなされている。
カノ国国民は一般課程と、個人の選択による大学相当の専門課程とを15歳までに修了している。
そして16歳を超えると成人とみなされて、一般的に親から独立する。
16歳以上になると自分で仕事をしても良いし、国外へ留学する場合は20歳まではカノ国から奨学金として留学費用の支援が得られる。
マリエや風太達は初代王の血筋を受けた家系であり、腕には石が埋められた少し平らなバングルをしている。
王族であっても、島内での立場は一般のカノ島国民とそれほど大きく変わらないが、細かな面を見ると少しは異なる部分が出てくる。
例えば、王族が持つバングルを持つことで、一般には入れない王宮施設であっても自由に出入りすることが出来る。
カノ国では、1枚の特別な板が選んだ人間が国王となる。
それは、必ずしも現在の王族の中から次の王が選ばれるかが決まっているわけではないが、国のしきたりとして、初代王の血を受け継ぐ子供は、幼少期のある時期にいくつかの特別な教育や研修を受けている。
「で、マリ姉。 久しぶりに連絡してきて、どうかしたのですか?」
「あー、それそれ。 この間、空から白い石が振ってきたの知っている?」
そう、あの太陽風が通り過ぎてしばらくした時、空から降ってきた白い石の事だ。
「えーと? カノ島は上空にもシールドが有りますので、島に何かが降ってくることは無いのですが……」
「そうだよね。 それで、私日本で拾ったのね、それ。
そしてね、良く分からないんだけれど、その石からマナクリスタルに似た反応が出ているって、バングルが教えてくれるのよ。
バングルじゃそれ以上は詳しくは調べられないから、現物を入れた摩導ボックスをそちらに送るから、研究所で解析してもらってくれない?
議長さんの権限を使って、大至急ね!」
「そうですか。 マリ姉の頼みですから、何とかしてみますが、それがどうかしたのですか?」
「きみね!
北極工場が停止した知らせは、こちらにも摩導通信の一斉配信で届いているわよ!
議長さんがそんな呑気で良いの?」
「今、僕はその対応で連日非常に忙しいのですけれど!」
確かに、マナクリスタルが無くなってしまうと、それは電気が無くなると同じようにカノ国の基礎を失う事になり、致命的な事となる。
まだ評議会議長になって日が浅い西脇風太にとって、とてつもない重圧がかかっていた。
「だから、それが私の考え通りだったらだけど、うまくすればマナクリスタルの代用が見つかるかもしれないって話よ。
どうやらこの石、宇宙空間から地球上に大量に降って来たらしいの。
なので、石を集めてあげるから、あんたが何とかすれば、当面のマナクリスタル問題は解決できない?」
王族の使用しているバングルには王族を守るために、常に周囲の変化を敏感にとらえる機能が組み込まれている。
毒や放射線ではないが、白い石が発するエターナルを捉えたようで、バングルはそれをマリエに報告していた。
ただ、やはり詳しい分析となると摩導バングルだけではできない為に、カノ国の研究所の分析装置にかけてみる事にしたのだ。
「えっ? そう言う話だったのですか? 少し話が見えたような気がします。
でも、地球上に散らばっている石を、どうやって大量に集めるつもりなんですか?
今地球のカノ国以外の国では、車や機械なんかは動かないって聞いています。
と言って、カノ島から人を貸し出すことは出来ませんよ」
「それも少しは考えて有るって。
なので、風太はその石にマナクリスタルと同じ成分が含まれていないかを大至急調べてくれない?」
「わかりました。 それが判らないと、次へ進めないのですね」
「あと、議長さんさ。
正確な数値は知らないけど、今カノ島の摩導プラントや工場の生産は、その能力の一割も使っていないわよね」
「昔、カノ島からの輸出が沢山あった時に工場を拡大したようですが、今輸出はほとんどありませんので、ほとんどの工場はその一部のみを稼働をしていますね。
カノ島での製造と消費は均衡がとれていますから、大量に物を造ってしまっても、カノ島内では消費しきれず、余って捨てる事になりますからね」
「それ、議長権限で動いていない工場の稼働体制を、すぐに最大にまで上げてくれない?」
「ええ! そんなことしたら大変な事になるよ。
新しいマナクリスタルの入荷が止まっているので、カノ島で新しくモノを作ることを抑制しようとする動きすらあるのに。
カノ島の生産量を上げると、マナクリスタルの在庫が枯渇する心配が出てくるよ。
それに、言っておくけど世界への援助物資の供給なら無理だよ。
前回の議会で他国の援助まで手が回らないと言う決議宣言が出されちゃったから」
「そう? マナクリスタルについては意外と大丈夫なんじゃない?
でも、今の評議会はそんな連中ばかりだから、前議長もそいつらと衝突して辞めた事だし」
「え! そうだったの? そんな話、僕は聞いていないよ」
「前議長が衝突していた時は、あんたはまだ未成年だったからね。
少し前の事なので、多分誰も教えてくれなかったんだね。
まあ、それを君に言っちゃったら、また議長不在になっちゃうからね」
「う! ひどいな……」
「まあ、万事お姉さんに任せなさい。
ということで、いくつかお願いね。 プツン」
「あ、マリ姉、ちょっと待ってよ!」
一方的に摩導通信を切られてしまった。
「何だよ、最後の自分の口で言ったプツンって!
久々だったせいか、今日のマリ姉はいつになくちょっとテンションが高かったな。
しかし、なにかひどく急いでいるように感じたけど、どうしたんだろう。
まあ、彼女もいろいろあるのかな」
それは、マリエが年下の男の子に対して、なぜか少し苦手意識を最近持ってしまった事が原因かもしれない。
それが、風太に対してもどこかに出てしまったようだ。
風太が知っているマリ姉は、どちらかと言うとおとなしいイメージを持っていた。
最近は議会の問題で毎日暗くなっていた中、久しぶりにマリ姉と話が出来て、忘れかけていた心の安らぎを少し得たように、嬉しそうな西脇風太であった。
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