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4-7 やせ薬

誤字報告頂き有難うございます。(2021/11/14)

 俺、佐藤隆二は東京ブランチでマリエさんからと酒を酌み交わしながら、カノ国の秘密みたいなことをいくつか教えてもらった。


 それによると、全てのカノ国人は腕に摩導バンドルを付けているとのこと。

 それはカノ国民IDを示すものであり、それは摩導具をコントロールする際に必要な物であり、また個人のお金を管理するアカウントでもある。

 俺の貰ったリングはそれに準じる物で、国民ではないがIDを持つことで、カノ国の通貨であるパラスを使って買い物をしたり、この施設の利用などが出来る。


 それとは別に、カノ国民は首から弾丸のような飾りが付いたペンダントをぶら下げている。

 これは実際の弾丸などではなく、ねじると開くピルケースになっていて、中には生薬が詰められたソフトカプセル錠剤が収められているそうだ。

 このケースは、中を開けた時点でサーバーに通報が飛ぶそうなので、残念ながら中の薬は見せてはもらえなかった。



 詳しい事は隆二にも語られなかったが、このペンダントの中の薬の事はカノ国の大きな秘密であった。

 この錠剤は昔初代カノ国国王と妃が作った物であり、現在その元となる貴薬草はカノ国王宮にある薬草園で栽培されているのであるが、残念ながら初代が去ってからは、同じ成分の薬をそれ以降に作る事が出来ていない。

 その薬はエリクサー錠と呼ばれる大変貴重な薬との事だが、初代王の方針により残っている薬は国民の為に分配されていて、それは気軽に使ってはいけないよと、カノ国では子供のころから教えられている。

 自分、ないしは大切な人が、もし生命の危険を伴う怪我や病気に遭遇した際、それを使用することが出来る。


 初代王と一緒に、そのエリクサーを作ったと言われる妃というのが、マリエの曾祖母にあたる人であった。

 その後、その薬が作れないのは、単にその製法の問題ではなく、製造中に貴薬草と呼ばれる薬草に、特別な力を与える事が必要であり、それが実現できないそうである。

 もともと貴薬草自体が非常に特殊な植物であり、カノ国はそれを探して集まってきた人達により出来ている。

 貴薬草の存在はカノ国でも国家的な機密事項であり、カノ国と名古屋の漢方薬会社のみの極限られた機関でのみ研究がされていた。


 エリクサーを作る為に、初代王は日本各地でその製法を捜し歩き、ようやく富山の漢方薬屋で代々守り続けられてきた古文書に出会う事で、それがヒントとなり、その製法が確立された。

 その漢方薬屋は、その後カノ国の大使館がある名古屋に本社を移し、今でもカノ国から譲り受けた貴薬草を原料とした丸薬を作っている。

 その丸薬は貴薬草を原料としているとはいえ、製法や濃度が異なるために、エリクサーほどの効能は無いが、たとえ僅かな量とはいえ貴薬草成分が含まれているので、服用するとそれが感じられるだけの効果はあった。


 名古屋の漢方薬会社は宣伝広告などを行なわず、自社Webによる通信販売だけにもかかわらず、その薬効から根強い人気があり、限定販売品はカートに掲載されると即売切状態となっていた。



 その他にマリエさんから聞いた、その漢方薬会社に纏わる話は、なかなか面白かった。

 エリクサーやそれ以外にもいろいろ失敗した薬もあるらしく、それについての話が興味深かった。

 それは停電が発生するよりもかなり以前の話らしいが、マリエさんは酒の席なので教えてあげるけど、本当に内緒だよとか言いながら楽しそうに話してくれた。



 富山に残っている漢方薬研究所では、カノ国の王宮薬草園から、他では絶対に手に入らない いくつかの種類の薬草の提供を受けていた。

 その代表的な特別な薬草は、先ほどのエリクサーの原材料にもなっている貴薬草である。

 そして、別の薬草を使って、その漢方薬研究所の実験室では面白い失敗薬がいくつも作られていた。


 その中でちょっと危険な薬としてはダイエット漢方薬が有った。

 それは1錠のむと、1週間近く胃の中で膨らみ続け、その間食事が食べられなくなるものであった。


「ちょっと見ていてください」


 研究員が1粒の小さな薬草の種を、水が入ったコップに放り込む。

 すると、コップの中のその胡麻粒ほどの小さな種の周りに、薄く茶色い部分が広がってゆく。

 コップを揺すると、その薄い色の部分がコップ全体に広がり、そのコップを大きな皿にあけると、中心に種が入ったクラゲのような透明なゼリーとなっていた。


 その種にはペクチンという成分が大量に含まれており、種を水にいれると成分が水に溶け出し、常温であっても周りの水をゼリーのように固めることが出来る物であった。

 大きなボールに種を入れて試すと、水の中にぶよぶよとしたクラゲのような塊は出来るが、ボールの水全部を固めることは出来なかった。

 しかし、研究員はゼリーの中から種だけを取り出し、その種を再度水に入れると、水は再びゼリー状に固まっていた。

 種の成分としては、沢山のゼリーを作ることが出来るようであるが、どうやらゼリーが固まり始めると、周りの水分が種にまで届かなくなる為、大きなボール全部を一度に固めることは出来なかったようである。


 そして、その1粒の種と水とを一緒に飲み込むと、胃の中で種の周りにゼリー状の物質が形成され、それが胃の中でブクブクと膨らむ。

 しばらくすると、分泌された胃液によりゼリー成分は消化され、やがてゼリーの塊は溶けて小さくなっていくが、そこで再び水を飲むと、胃の中に残っている種は再びゼリーを作り出し膨らみ始める。


 適当な間隔で水を飲み続けることで、種は消化されずに1週間近く胃袋の中に残り、胃は常に満腹状態を感じ続ける。

 そもそもそのゼリーはほとんどが水でできており、胃酸で解けてもその主成分であるペクチン自体は消化酵素では分解はできないので、カロリーとして体に吸収されない。

 何か食べたいという感覚が弱まり、苦労せずに痩せる事ができるという究極のダイエットフードであった。

 しかし、お腹が満腹なのに栄養が取れない状態が続くと激痩せして、生命的に危険があると言う事で、さすがにこの漢方薬はお蔵入りになった。


 ところでこのようなダイエットや減量の薬は需要があるので世間でもよく聞くが、ここの研究所では、それとは逆のハイカロリーで高蛋白な薬も作られていた。

 その薬は女性や、太った人、糖尿病患者には敵のような薬である。

 これは病気や老人などで満足に食事を取ることが出来ない人に、栄養を補給する為に作られていた。


 これには特別な薬草以外に、やはりカノ島産のキノコや木の実などで作られた、(れっき)とした漢方薬である。

 胃が弱っている人でも容易に吸収ができ、体内に高いエネルギー量を摂取できるので、その小さな薬を飲むだけで体力が回復し、一部の治験では大きな効果を上げていたが、一般の人にはほとんど知られていなかった。



 ところが、その失敗作である究極のダイエット薬とハイカロリー薬が出会う事で、また新たな変な薬が出来ていた。

 それは、両方の薬を混ぜる事で、長期間食事が不要で、さらにきちんと栄養が取れるという薬が生まれたのだ。

 さらにわずかではあるが、貴薬草の病を癒す薬効が加わる事で、1週間近く水を飲むだけで健康に生活できる薬が出来てしまっていた。


 これは凄い、絶対に売れるぞ!と言うことになって、工場では倉庫に積み上げられていた不良在庫の痩せ薬を使って、それを一気に大量に作ってしまった。

 そして、それが出来てしまったのだが、人間はモノを食べないと歯やあごの筋肉が衰え始め、それでは普通の生活とは言えなくなってしまう。

 販売前にテストが行われたのだが、習慣性を引き起こさないように、この薬は2週間に1錠しか飲んではいけないと決めた治験に対して、ほとんどの人が間を開けずに連続して薬を飲んでしまうことがわかった。


 ゼリーの中心にある種が消化されてしまうと、それまで満腹であったものが、急にお腹が空いてきたと感じるようになってしまう。

 薬が切れ始めると、それまで続いた幸福感が消え失せ、空腹は強い飢餓感を発生し、それは人の我慢の限界を超えてしまい、続けて飲んではいけないと指示されていても、それに抗しきれずにすぐに次の薬を飲んでしまう。

 空腹感を乗り切れば体に害はないが、中毒性があるとまでは言わなが、これを一般に出してしまうのはやはり危険ではないか?と言う事になり、せっかく大量に作ってしまったこの薬の販売も中止された。

 あまり効果が高すぎる薬という物は考え物であり、今度は失敗薬でこそないが、やはり倉庫の場所を塞ぎながら、再び眠ることになった。


 まあ、貴薬草のおかげで漢方薬会社はずいぶんと儲かっていたので、沢山の失敗作で大きな倉庫を埋めていく事になるが、新たな研究はその後も続けられていた。

 過去の失敗をあまり学習しない、懲りない会社であった。


 この話をしてくれたマリエさんは、そのダイエット薬というものに随分と興味があったようだ。

 販売されなくなった部分について話すマリエさんは、ちょっと残念そうな表情をしていたのが印象に残った。

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