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4-4 国境のトンネルを抜けると

 江戸川の河原で変な娘、山下里美の後ろを追うように、先ほど河原で収穫した山盛りのサツマイモを乗せた一輪車を押しながら、俺 佐藤隆二は謎のトンネルの中を歩いていた。


 このトンネルは、どうやら堤防の中をくり貫いて作られているようで、50mほど歩くと反対側の出口が見えてきた。

 トンネルにこんな大きな穴を開けてしまって、洪水の時は大丈夫なのかな?


 そして、トンネルを抜けると、そこにはビニールハウスのような、中に植物が植わっている四角いハウスが何棟か建っているようで、これがさっき山下さんが話していた 彼女が働く農場なのかもしれない。

 俺たちは、ハウスの脇を通り、そのまま近くにある建物に向かうと、彼女がその倉庫を指さし、


「今収穫して来たサツマイモは、そこに置いてくれるかな?

 それと、一部を調理にまわすから、大きそうなのを何本か選んでちょうだい。

 あと、生育が悪かったものは、その原因を調べるため分析装置にかけるから、生育の悪い物も何本かちょうだい」


 俺は一輪車からサツマイモを倉庫に降ろしながら、大きそうな物いくつかと、小ぶりの物を選び彼女に渡した。


 分析すると言っていたが、サツマイモの栽培程度でそんな事までするのかな?


 俺がいたコンビニでも食品検査はするが、いろいろ高額な検査装置や専門の知識を持った化学分析の検査員が必要で、それは簡単には出来ない。

 ここは電気すら来ていない場所だと先ほど聞いていたので、そんな高度なことが出来るのかとちょっと驚いている。


「ん、どうしようかな。 ちょっといっしょについてきて。

 まず、ここでお客さん用のIDリング作るから、そこの穴に指を入れてね。

 ここの施設の中では、そのIDリングですべて操作するし、売店の支払いもそれで行えるから。


 シャワールームはそこにあるけど、汚れた服はシャワールームのロッカーに入れると、シャワーを浴びているうちに綺麗になっているわ。

 だから、今着ている服をもう一度着てもいいけれど、もっとラフな服が売店で売っているから、お酒を飲むときや寝る時にはそれを買って着替えたほうがいいわよ。

 今日のバイト代をIDリングにチャージしておくから、服くらいだったら十分に買えるわよ。

 私はさっき採って来たのサツマイモを分析してくるから、シャワーを浴びたらそこの休憩室で待っていてね」



 返事をする間もなく、両手に芋を抱えた彼女は足早に去って行った。

 いきなりいろいろ言われ、何か訳が分からない状態で、見知らぬ場所に一人放置され、俺は少し戸惑っていた。

 とりあえず、IDリングとやらは作ってもらったが、彼女の行動に面食らっていたこともあるが、この建物の中も落ち着いてよく見ると驚きであった。


 世間は停電中であるはずなのに、この建物の中はどこも明るいのだ。

 しかも天井のどこにも照明の器具などは見当たらない。

 天井や壁?というより、廊下や部屋全体が明るいのだ。

 でも、それは見えない場所に照明装置が隠された建築化照明や、間接照明と言うわけでもなさそうだ。


 俺は、さっきの芋ほりで頭から土汚れが付いており、汗の臭いもするであろうから、売店より先にシャワールームに向かうことにした。

 照明と同じく停電の影響を受けず、やはりここではシャワーも普通に使うことが出来るようだ。

 それから、さっきシャワールームで服をきれいに出来ると言っていたが、脱衣所周辺を探したが洗濯機はどこにも見当たらなかった。


 汚れたこの服を、あとでもう一度着る事になるが、まあそれは仕方が無い。

 シャワールームに入ると、洗濯されたタオルやバスタオルが畳んで置かれてあり、誰でも自由に使えるようになっていた。

 脱いだ服をすべてロッカーに入れたが、中に入れて蓋を閉めてからロッカーに鍵が付いていないことに気が付いた。


「ありゃ、ここは盗難防止の鍵は無いのかな?」


 そう思い、一度締めたロッカー扉の中を確認しようとしたが、なぜか今 服を入れたロッカーが開かない。

 すでに下着までロッカーの中にすべて入れてしまっており、素っ裸なのでこのままだとまずい!

 ちょっと焦って、手を扉に当てると、ロッカーはすっと少し開いた。


 どうやらさっき作ったIDリングという物がロッカーの鍵になっているようであった。


「そういえば、さっき彼女はここの施設はすべてIDリングで操作するとか、そんなような事を言ってたな」


 そして、シャワーブースも個室になっているようで、そのIDリングを近づけるとブースの扉が開いた。


「おっ」


 中は、シャワーブースと言うよりは かなり広めに作られており、横になって寝ころがる事が出来る程の広さがあった。

 正面にあるコントロールするパネルには、いろいろな機能が選べるようになっていた。


 そこにはシャワーだけでなく、このシャワーブースが小さなサウナにもなるようで、椅子に腰かけたり、寝転んだりしてリラックスできるようであった。

 とりあえず全身シャワーと言うのを選んだところ、壁全体や天井の他、床からまで360度全方向からお湯が噴き出してきたので、かなり驚かされた。

 パネルをよく見なおすと、そこには全身ではなく、全室シャワーって書いてあった。

 

 他にもたくさん機能があるようで、試してみたいが、彼女を外で待たせることになると悪いので、最後に乾燥と言うボタンを押してみた。

 すると、今度は部屋全体から暖かな風が吹き出し、やがて風は俺の周りを中心とした強い竜巻のように回転し、体に巻き付くように流れ、少しの間に体中が乾燥していた。

 気持ちよかったので、もう少し長く風の中に入っていたかったが、さっきまでのシャワーで濡れていたブースの床までもが既にすっかり乾燥していた。

 外にバスタオルが置いてあったが、それは使う必要は全くなかった。


 ロッカーに戻り、IDリングでロッカーを開けると、服はそのままの状態で残っていたが、さっきまで服にあった泥汚れが無くなっており、ズボンもシャツもきれいな状態になっていた。

 どうなっているのかわからないが、ロッカーの中にクリーニング機能があるようで、シャワーを浴びているうちに綺麗になると言っていたのは この事だとようやくわかった。

 洗い立ての靴下同様、げた箱に入れておいた靴も、当然のように畑の泥汚れはすべて落とされており、むしろ河原での作業を行う前よりも綺麗になっているのではないかと思われた。


「なんだ、ここは……」


 俺が、休憩室に行こうとすると、ちょうど廊下の向こうから山下さんがやって来て、


「あれ、早かったんじゃない? サウナとか泡ぶろとか試さなかったの?」


「いや、里美さんを待たせるかと思ったので、急いで出てきた」

 

「あらそう、それはありがとうね。 では、君が今夜泊まるお部屋を先に案内しておくわ。

 そして、その後夕食にしましょう。 佐藤さんは、お酒は飲まれる?」


「俺は、アルコールは好きですが、ここではまだお酒が飲めるのですか?」


「え? 他ではお酒が飲めないんですか?」


「やはり、俺は別の国に来てしまったようですね。

 今は、お酒どころか、ほとんどお店が閉まり始めていて、これまで売っていた物も商店の棚から無くなってしまっています」


「あ、忘れてた。 そうそう、ここは日本じゃないです。

 すっかり話すのを忘れていましたが、日本の中にありますが、ここは日本ではありません。

 日本の国境線を越えた、ここはカノ国の領土なのです」


「え! じゃあ、さっき話していた河原も領土って、本当にそこはカノ国の土地って意味だったのですか?

 でも、ここは日本国内ですよね?」


「そうですね。

 例えるならば、アメリカの大使館や軍の基地は日本の中にあるけれど、その中は日本の法律が適用されないアメリカ国なのです。

 カノ国は小さな国ですが、カノ国大使館は名古屋に有り、この東京ブランチは、カノ国の東京にある領事館なので、この土地は日本国にあるけれど日本ではありません。

 ここはカノ国の初代国王様が、その当時の日本の陛下から頂いた?土地、何かの代替えの地として返還された土地だって聞いています。

 ようこそカノ国へ」


「あの? つかぬことをお聞きしますが、山下さんは日本人ですよね?」


「いえ、私はカノ国人で、ここに住む者は全員カノ国の人です」


 怪しげな宗教団体かも? とか思っていたが、それどころか、ここは日本ですらなかった。


「ええ! でも普通に日本語を話されていますし、この建物の中のどこ見ても日本語しか書いてないですよね」


「ふふふ、カノ国の母国語は日本語なのですよ。

 もともと、カノ国は日本から派生したような国なので、って、私がここでそんな言い方すると叱られちゃうかな?

 実際カノ国が出来た時、ほとんどが日本の方だったらしいのです。

 まあ、電気を使っていないなど、違いは無くはないですが、日本とはずっと友好国ですし」


「そうなのですか、ちょっと俺は良く知らなくって、すみません」


「せっかくですから、食堂で食事しながら説明しますよ。

 そろそろ姫も帰ってくる時間だし、まずは忘れないうちに今夜の君の部屋の案内ね。

 部屋の鍵はIDリングで開きますよ。

 売店はまだ行ってないの? あ、ここの売店は無人の店舗で、店員はいなくて、レジもないけれど、商品を棚から持ってくれば自動的にIDリングから精算されるわ」


「え? もし商品を持ってきた後で残金が足りなかったらどうなるのですか?」


「その時は商品を棚から取ることが出来ないから大丈夫よ」


「あの、辞めたばかりとはいえ、俺もコンビニの関係者の端くれですので、その無人売店にちょっと興味があります。

 お酒を頂く前にちょっと見せて頂いてよろしいですか?」


「いいですよ。 だったら部屋を見たら、次に売店に行きましょう。

 もし気になるようであれば、売店は24時間いつでも開いていますから、いつでもご自由にどうぞ」

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