3-8 カノ島の苦悩
文化の日なので、臨時投稿です。
「どうしたんだ? これで3日連続だぞ! 今まで、こんな事は一度も無かったのに……」
カノ島には北極工場からの摩導コンテナが1日何便か届くのだが、いずれも到着した際のコンテナの中身が空っぽなのだ。
それが連続し、到着するマナクリスタルが届かなってしまったため、カノ島の受入倉庫にある管理ルームは緊急事態となっていた。
先日までは、マナクリスタルは普通に届いていた。 それは何十年も毎日同じように到着していた。
コンテナに搭載されて運ばれてくるマナクリスタルであるが、ある便からコンテナの半分しか入っておらず、さらにその次の便からは空になってしまった。
輸送中に紛失したのか? 盗難にあったのか、その原因はこれからの調査となるが、いずれにしても、いつまでもこのまま状態が続くとカノ島の運営に大きな打撃が出る。
カノ島で作られるすべての製品である、衣服、建材、日用品から食品のパッケージに至るまで、すべてに摩導チップが組み込まれている。
この摩導チップにより、売買される商品はすべて摩導サーバで販売管理することが出来、逆にこれが無いとカノ島で商品を流通させ、ショップで販売することは出来ない。
在庫がまだあるとはいえ、マナクリスタルの消費量は多く、いつまでも供給が止まったままだとカノ島での生産や物流活動が停止してしまう。
何十年間、カノ島の人口変化はほとんど無く、生活の変化は少なかったので、カノ島の製品の生産数は安定した状態となっており、毎年一定の量を生産すれば、特に生活に支障が出る事は無かった。
そして長い年月をかけて在庫量は調整されてきたため、カノ島の生産量という物は、余って捨てることが無いように、島内で使用されるぎりぎりまでに絞られてしまっていた。
「まだ、少しはマナクリスタルの在庫は有るが、やはりこのままじゃまずいな。 北極工場の摩導ボールカメラの映像を見せてくれ」
「はい。 では始めます。
やっぱりこの映像だと、結晶炉の中でマナクリスタルの結晶は製造されているように見えますね」
「じゃあなぜそれが、ここに出荷されてこない?」
「配送経路中で壊れてしまったのでしょうかね?」
「他の監視カメラの映像を切り替えて順に見せてくれ」
「うん? この摩導コンテナはまだ中が空のようだが、もうコンテナは出発するみたいだぞ? どうしたんだ?」
「摩導コンテナは、マナクリスタルが一杯にならなくとも、一定時間が経過すると自動で出発する仕組みになっています。
この感じですと、タイムアウトして出荷されるようですが、それまでにマナクリスタルはコンテナに一個も収納されていませんね。
だから、空の摩導コンテナが何回も来たのではありませんか?」
「でも、さっきの結晶炉の映像では、炉内でマナクリスタルが作られていただろう?
あ、そうか。 ひょっとすると……
さっきの結晶炉の映像を、もう一度時間を逆に巻き戻しながら見せてくれないか?」
「はい。 では再生します。 あれ、何か変ですね?
時間を巻き戻しても映像が全く変化しませんね。 故障かな?」
「いや、故障じゃないと思うぞ。 そのまま、さらに巻き戻してみてくれ」
「あれ? 急に結晶が小さくなり始めました」
「それは、何時だ?」
「4日ほど前です。
あ! そう言えば、その少し前に太陽風が通過したはずですね。
と言う事は太陽風通過より後は、マナクリスタルの結晶が成長していない。
だから、結晶に変化がないから、それ以降は映像が止まって見えたのですね!」
「どうやら、一番いやな予想が当ってしまったようだぞ。
宇宙空間から北極工場へのエターナル供給量をチェックしてみてくれ」
「あ! エターナルの流入が止まっています。
宇宙空間から地磁気の磁力線を伝わって、北極工場へ流れ込んでいるはずのエターナル供給量がゼロを示しています」
「そうか、やはり装置の故障などではなく、北極工場に流れ込んでいるエターナル自体の供給が止まっているのか。
原料供給が止まってしまったら、どれだけ待っていてもマナクリスタルの結晶は成長しないな。
まずいな……
これは、調査のために一度現地の北極に飛ぶ必要があるな。 すぐに準備をしてくれ。
その前に、大至急北極一帯にエターナルの観測ボールをばらまいてくれ」
◇◇◇ ◇◇◇ ◇◇◇
もし50年くらい昔に戻って、その時代の電気技術者に今のパソコンのCPUの殻を割りその中身を見せたとして、この小さい四角い結晶の中には沢山の電気回路が入っていて、この結晶は電気で動いていると言っても信じられないと思われる。
電気とは銅線の中を流れるもので、それは明かりを灯すものであり、重く大きなモーターを回すものであり、最近発明されたラジオでも電気は使われるが、電気で計算できるって何?って言われかねない。
カノ国が作られた時、この世界に摩導技術が登場した。
摩導は魔法などとは異なり、異次元の摩導科学の理論に基づいた技術によって作られている。
摩導を知らない今のエンジニアが摩導具を見ても、何それ、ファンタジー?って言われて信じてもらえないと思われる。
カノ島で使われている摩導具は、この世界の電気のように、内容こそ異なるが その世界の文化を支える技術として発達したものである。
しかし、今この世界で使用されている摩導チップは、異世界の摩導技術と、この世界の科学技術が融合してできた、異世界には存在しない最先端技術に位置する物である。
この世界にやって来た摩導の技術は、電気で実現していたこの世界の技術を応用し、更なる技術に高められていた。
元となった異世界の摩導技術は、摩導インクを用い、職人に描画されたパターン図で構成された摩導回路であり、それは肉眼で手書きにより製造される為に大きく、出来た摩導回路は虫眼鏡を使わず肉眼でもそのパターンが見える。
またその摩導回路を組み込んで作られる摩導具には、摩導回路とマナクリスタルで構成され、1つの摩導回路には1つの機能しかなかったため、それが組み込まれた摩導具は単一機能の道具でしかなかった。
しかし、この世界で摩導回路はパターン画像としてパソコンに取り込まれ、いくつもデータベース化され、AIによる深層学習により、そこから機能ごとの要素が抽出されていった。
回路を機能要素として組みなおすことで、無駄な回路は削られ、またそれぞれの回路に共用できる入力や出力が定義されたことで、複数の機能を組み合わせた複合摩導回路が出来上がった。
また、手作業で描画されていた摩導回路は、この世界のシルクスクリーン印刷技術によって作られ、量産化が始まった。
そして、複数要素をどんどん組み合わせる事で肥大化していく摩導回路であったが、現代のIC製造設備を導入し、最終的に超小型化された摩導チップとなった。
このように、この世界の科学技術や製造技術と融合した摩導具は、それが生まれた元の世界では考えられないような途轍もない大きな進化を遂げていた。
現在では、1個の摩導チップの中に多くの機能を持った摩導回路があらかじめ組み込まれ、必要な機能のみが利用されている。
摩導チップの内部をプログラミングする事で、同じ摩導チップであっても、書き込むプログラムにより異なる用途に利用できるようになっていった。
さらに、この摩導チップを組み込んだプラスチックシートが作られているが、ここで用いられているシートは、ポリ袋などで使われているような薄くて透明な物だ。
摩導チップを組み込むのに素材の縛りは特にないが、たまたま最初にポリエチレンが入手できたので、以降それが多く用いられることになった。
カノ島を作る際、この安価で大量に手に入るプラスチックシートをベースにした摩導シートが活躍した。
軽くて柔らかな状態で様々な形に加工された薄いシートは、摩導を発動させることで分子間の結合を高め、形状を保ったままで超硬度の製品となった。
平滑であったシートの表面構造を摩導で変化させることで、触った際に柔らかかったり、ざらざらになったりと、質感を変化させることが出来た。
また元の素材は透明であるが、表面で特定波長の光を反射したり、吸収させる事で、様々な物体の色や模様であるテクスチャを再現させることが出来た。
さらに、シート表面を光の波長で振動させる事で、表面自体が様々な色で発光する事すらできた。
こうして、摩導シートはカノ島で使われるさまざまな商品の材料、洋服、パッケージ、家具、建物、内装材、道路で用いられ、そしてカノ島もこの摩導シートによって作られていた。
そう、摩導シートは建物はおろか、カノ島自体がこの摩導シートによって太平洋上に作られていたのだ。
太平上の何もない深海に摩導シートが幅広く敷かれ、その後摩導の力によって海底のシートを海上にまで隆起させ、こうして作られたのがカノ島であり、その島に建国されたのがカノ国である。
摩導技術はエターナルの力で分子間力に作用し、それは地球の引力に対しても同様に作用が出来る。
カノ島で移動に使用されている摩導シートで出来た摩導カートは、ほんの少し浮き上がり、引き合う引力と反発する斥力を利用し、道路の上を自在に滑ることが出来る。
いや、道路だけでなく、地球の重力と反発する事で、宇宙空間にまで移動する事すら可能だ。
カノ島の中央には、この移動方法を用いた摩導カートの着陸ベースが作られている。
現在も地球を観測している摩導ボールは、地球の重力を利用して宇宙空間に定位している。
素晴らしい摩導技術ではあるが、すでに電気と言う技術にどっぷり染まっていたこの地球では、それを利権ととらえる人間によって、カノ島とともに封印されてしまった。
しかし、今回の大停電により、この封印された摩導具が再び日の目を見ることが出来るようになるのかもしれない。




