表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ルネサンスの女神様 - ねえ、電気つけてよ!  作者: 亜之丸
もしかして、これって災害なの? [3日目]
22/64

3-6 山から戻った男

 長く続く停電。


 停電と言う良くある単なる事故に惑わされ、電気という物理現象がこの世の中から消えてしまったという、とても重大な事に最初は気が付かなかった。


 情報が失われ、通信が失われ、さらに交通手段が失われたことで、人々は他人の意見や、自分の考えを次に伝える手段をも失っていた。

 本来であれば大至急対峙しなければならなかった この大災害に対して、すっかり初動が遅れてしまった。


 まだ全体像は見えていないが、大変な事が起きているのでは? と、気が付いた人はいたが、では何をすればよいか全く分からなかった。

 多くの自治体でも、同様に気が付いた人がいて、「これは単なる停電などではなく、災害だ」と、自分が気が付いた事を説明し、そしてようやく避難所の開設及び支援物資の供給を行う事を始めた。

 

 現金を持たずに、まだお金が使えた期間であっても食料を買うことが出来ず、そして身の回りから食料が完全に尽きてしまった人達は、遅まきながら始まった災害支援のおかげで、何とか飢えをしのぐことが出来た。

 実際に支援を開始すると、想像以上に困窮している人がいることがわかり、町内会の協力を得て公園や学校など多くの開けた場所にブロックを組んだ簡易的な竈を使っての大規模な炊き出しを行う事になった。

 

 炊き出しに使用する残っていた食材は、自治体職員がリヤカーにより運び込み、それを町内会の女性達により調理され配布されていた。



 自衛隊でも各基地や駐屯地などで支援活動が開始され始めた。

 上位部隊との連絡が取れない中、孤立していた部隊であるが、ようやく自転車による連絡が順に届き、その内容に驚愕していた。


 その伝達された内容によると、現在最大級の災害が発生しており、それがまだ継続中であり、既に非常事態に陥っているとの事が書かれており、その原因や対処方法はいまだ調査中とだけ記されていた。

 さらに、外部からの攻撃もまだ考えられる旨と、侵略行為等が確認された場合、連絡網が断絶しているため、状況判断および対応は各部隊にゆだねるとの事が書かれていた。

 そして、大至急 地域住民の救援を開始せよとも記載されていた。



 材料や飲料水が自治体の人力により運び込まれ、そして炊き出し作業は町内会により開始されていた。

 入浴のための施設の提供も自衛隊により開始されたが、そこで使用する水がない為、これは自衛隊員のリヤカーにより遠方から運ばれていた。


 とりあえず、最低限ではあるが人が生きていくための準備が始まった。

 ただ、物資の輸送が出来ないため、各自治体でもこの支援を長く維持する事は難しく、食材などの確保が課題であることに気が付いた。


 救援を続ける為にも、とにかく周りの情報が欲しかった。

 地方自治体は、自分の市や町の情報ですら完全には把握ができておらず、この数日を使ってもせいぜい隣の町との情報交換くらいしかできていない。


 もしこの停電が、自分達の地域だけで起きている局所的な問題であれば、やがて周辺から応援が来ると考えられる。

 しかし、もしこれが広域停電、いや広域災害であった場合、最悪の場合では、いつまで待っても支援は得られないことになる。

 想定を検討する為には、より多くの情報が必要であり、誰もが最悪の状態に陥ってしまったとは考えたくなかった。



 ◇◇◇ ◇◇◇ ◇◇◇



 それは大停電発生から4日目の午前中。

 2台の自転車が、彼らが通っている上野近くの大学へ到着した。


 彼らは、大停電発生後、岐阜の山の地下深い研究施設から脱出し、夜が明けると山奥から自転車で出発し、東京までの340km近い道のりを、普段乗り慣れない自転車で駆け抜けてきた。

 地底からの脱出に用いた電気自動車は、東京まで走行するだけの電池残量が残って無く、途中での充電は不可能であると判断された。

 そこで、地元の役場に頼み込んで何台かの自転車をお借りして、大切なデータと僅かな食料をもって東京まで走り出した。

 多分だが、このお借りした自転車の返却は難しそうだ。


 本来であれば、ライトが必要となるトンネルをなるべく使わずに太陽光の下を移動したかった。

 しかし旧道が閉鎖された場所では、その長いトンネルを抜けるしかなく、その中は真っ暗であり、ライトを灯け、自転車を降りて押して進んできた。

 自転車のライトはやはり点灯しないので、トンネルを脱出する時に使った非常用のヘッドライトがついたヘルメットがここでも役に立った。

 ただ、ヘッドライトの充電がいつまで持つかも判らない。

 たとえ省電力なLEDとはいえ、高出力なヘッドライトはそれなりに大きな電力を使うので、なるべく節電して東京まで持たせる必要がある。


 トンネルに入ると、走らなくなった自動車が途中でそのまま放置されていた。

 走行中にいきなり真っ暗闇になってしまったようで、電装部品が全て機能しなくなった車はブレーキしか使えずに、多くの車はトンネルの側壁に車体の側面をこすりつけたような状態で停止していた。


 ヘルメットに付けたヘッドライト程度では大きなトンネル内の全体を照らすには光量が全く足りず、また照らすスポットの範囲も狭いため、事故車から落下した部品などを踏んだり、衝突したりする可能性が有り危険であった。


 何キロも続く長いトンネルを自転車を押しながら移動していると、その途中の暗闇の中で何かがいきなり飛びついてきた。

 暗闇の中で、いきなり目の前に髪の長い女性に飛びつかれると、こちらが「ギャー」と叫びだしたくなる。


「うぇーん、暗いの嫌だよー! 助けてください~!」


 ヘッドライトで照らすと、そこそこ良い年の女性の様であるが、子供のように泣きじゃくっていた。

 どうやら、そこにはトンネル内を走行していた時に大停電となってしまったため、急いで車を降りて脱出しようとしたようだ。

 しかし、乗ってきた自分の車の位置すらわからなくなり、真っ暗で長いトンネルの中にとり残されてしまい、そこから動くことが出来ずに道路に座り込んでしまっていたようだ。

 絶望していた中、揺れながら歩いてくるランプが見えたので、その頭の上にあるランプを目指して、思わず飛びついてきたらしい。

 もし自転車に乗って走っている時に、さっきみたいに飛びつかれていたら、双方とも大きな怪我になったと思われた。


 ずっと、ここで抱きつかれていても困る。

 僕らも使命が有ってここまで来ているので、このまま介抱しているわけにはいかない。


「落ち着いてください。

 僕らは貴方を助けるために来たわけではありません。

 これから先にまで歩いてトンネルを抜けますので、もし付いてくる気が有れば一緒に来てください。

 無理であれば、このままここに置いて行きます」


「いやー! こんなところに置いて行かないで!」


 その女性は叫びながら、再び抱き着いてきて、これ以上ここにいる事は絶対に嫌だと言う事を態度で示した。

 僕らはヘッドライトの明かりを頼りに、自転車を押しながらトンネルを進んでいった。


 すると、トンネルの中にはその後も何人もの人が方向を見失って、しゃがみこんでいた。

 停電からすでに半日以上経過しているので、かなり弱っていたが、まだ自分で歩くことは出来そうであったので、そのままついて来てもらう事にした。


 途中で拾った人たちを何人も引き連れて、トンネル出口まで一緒に歩いてきた。

 トンネルの中では停電からずっと夜であったが、出口が近づいてくると、日中の光により周りの空気がぼんやりと明るくなり始めた。

 それを見た彼女たちは、僕らを追い抜いて思わず出口に向かって駆けだしていった。


 以前であれば、自転車を使う事でもっと短い時間で移動ができたであろうが、いろいろな場所で、いろいろな事情で、余分な時間を要する事に成っていた。


 研究所を出発する前に、事務所の壁に貼ってあった大きな日本地図を見て、その中継地点となる都市名を順に紙に書き写してきた。

 日本の道路には、至る所に道路標識が取り付けられていたので、例え地図は持って無くとも道路標識の都市の名前に向かって進むと言う、そんないい加減な情報だけでも道に迷うことはなかった。


 自転車で道路を少し走りはじめると、至る所で自動車が止まっており、事故を起こしたままの状態で止まっている車も多く見かけた。

 事故を起こした車の付近では、路上に部品などが飛び散っており、それを絶対に踏まないように気を付けて走る事に成る。

 東京までは長い道のりであり、自転車の修理道具は持って無いし、運よく自転車屋が開いているとは絶対に思えないので、途中でのパンク発生は致命傷となる。

 岐阜の山奥を出発した時は3台の自転車で出発したのだが、2日目にして1台は途中で脱落した。


「すまない!

 まだここから先は長いが、ここから先は君達だけで行ってくれ。

 俺の水と食料を少し渡すから、何とか頑張ってくれ」


「わかった。 お前は一人で大丈夫か?」


「俺はここから戻るつもりだが、とりあえずこの周辺に町がないか行ってみるよ。

 なるべくトンネルは通りたくないしな。

 しっかりカミノマンダラのデータを届けてくれよ」


「では東京で待っているからな!」



 俺たちは道を急いだ。

 急な山を自転車を押して登り、頂上付近の平湯温泉を超え、そこから松本方面までは下り坂だ。


 山間部にある村落などでは、外からの情報が入って来ないため、大停電の情報すらも伝わっておらず、住人たちは不安そうにしていた。

 しかし田舎の小さな商店では、天井から売り上げやお釣りが入ったザルがぶら下がっており、電気が無くともそこではまだ普通に商売をやっており、幸いなことにそこで東京までの食料や飲料を現金で購入することが出来た。


 ほとんどが山道であるため日没が早く、夕方になると暗くなるまでに急いで道の駅などに入り、閉まっている店舗の軒下でビバークし、夜が白み始めるとすぐに出発した。

 幸い夏至の後であり、日中時間は長かったが、それでも舗装されているとはいえ、山道を自転車を押して昇るのはかなり厳しかった。


 松本の市内には寄らず、諏訪湖を抜けると、都心の近くまでなんとかやってきたが、3日目はそこで日没を迎えてしまった。

 以前であれば街頭や街の明かりで、多少暗くなり始めても自転車は走れたが、今は真っ暗闇であり、都心の近くにまで来ても暗闇の道を自転車で走るには危険であった。


 4日目、夜明けを待って最終地へ向かおうとするが、都心に近づくにつれて、街の雰囲気は田舎よりも悪いものとなってきた。

 田舎では数こそ少ないが商店が現金で商売を行っていたが、この付近では道沿いで営業していそうな店舗は一軒も見つからず、食料を失った多くの人々が飢えた状態で路上に座り込んでいた。


 そのような理由により、予想よりも1日余分にかかったが、停電から4日目にして何とか東京の大学にまで到着できた。

 とにかく、カミノマンダラで起こったことを、研究室に伝えるために大事なデータを背負ってここまで走ってきた。

 しかし、せっかく苦労して運んできたデータであったが、これまでの状況を見ると、それが今の日本で本当に役に立つとはとても思えなかった。


 ようやく大学に到着し、まだ疲れている彼らであったが、今すぐに乗ってきた自転車で日比谷に向かうように指示された。


 日比谷会議では、必死になって届けたニュートリノのデータについてはあまり興味を持たれなかったが、彼らが日比谷会議に伝えたのは、カミノマンダラのニュートリノの話だけではなかった。

 ここまで自転車で走ってきて、途中で見聞きしてきた生の町の情景から、日本が瀕死状態に向かいつつある事が伝わり、まだ東京から外に出ていない日比谷会議のメンバーには大きな衝撃が走った。


 更に、彼らが脱出の際に地底トンネルで乗っていた電気自動車と、最後までトンネル奥で動いていた観測装置の存在は、別の意味で大きな騒ぎにつながっていた。

 停電の原因はわからないが、深い地下においては影響を受けていないのではないか? そしてそこには今でも電気が残っているのではないか? という話になった。


 彼らがもたらした情報から、高速道路などの長いトンネルは高い山の中腹を貫通しているため、山の真下にあたる部分などでは太陽風の影響を受けずに、そこに電気が残されている可能性がでてきた。

 大停電の発生時刻が夜遅かったため自家用車は少なく、トンネル内に取り残されていると考えられる車両としては、深夜便のトラックが多いものと考えられた。

 そして、取り残されたトラックの積み荷にはパソコンなど今後役に立つ装置も含まれている可能性があった。


 また、その山深い位置の取り残された車は、同じ理由からエンジンがかかる可能性が高く、その場合 車を発電機としてバッテリーの充電ができ、発掘された動くパソコンが利用できるのではないかと言う希望が出てきた。

 鉱山の誘導灯が出口に向かう途中までは生き残っていたという報告から、岩盤の状態にもよるが、山の厚み500m以上あるトンネル区間であれば、その深さにより太陽風の影響が到達していないことが予想された。


 ここでインターネットが使えなくとも、パソコンを使えることになれば今後の復興計画に強力な道具となりうる。

 また、パソコンが見つからなくとも、電気が使えて動く自動車が入手できることは、計画の大きな前進につながる。


 日比谷会議では、暗く深いトンネルの最深部から、トラックや車両を発掘する作業の開始を指示する事になった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
script?guid=on
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ