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ルネサンスの女神様 - ねえ、電気つけてよ!  作者: 亜之丸
もしかして、これって災害なの? [3日目]
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3-5 お嬢様の出勤

「マリーお嬢様、御出社なされるお時間ですよ。

 今日はレインコートをお持ちになられますか?」


 マリエに話しかけた畔上(あざがみ)Hora(ホーラ)は、まだカノ島で暮らしていた時から王族であるマリエを補佐する侍女であり、マリエが留学する事になった為、カノ島から一緒に日本に来た従者の一人である。

 カノ国人であるホーラは、マリエの事を正式な名前であるマリー様と呼んでいた。


「あ、ホーラ。 あなたはいつも時間に正確ね。

 そうね、今日雨は大丈夫だとは思うけど、今日も先生と日比谷まで一緒に歩くので、念のために頂いておくわ。 では、後をお願いね」


 ホーラは、マリエのお印である花の刺繍が入った淡いピンクのコートを渡し、東京ブランチで見送りの言葉をかけていた。


「それではお嬢様、お気をつけて行ってらっしゃいませ」


 マリエは東京ブランチの屋上に駐車されていた自分の摩導カートに乗り込むと、そのまま上野にむけてスキップ移動で発進した。



 ◇◇◇ ◇◇◇ ◇◇◇



 ホーラはマリエより2つ年上の二十歳である。

 ホーラの先祖は、日本の陛下からカノ島国王に、友好の証として遣わされた従者の末裔にあたる。

 初代カノ国王からは侍従職などに固執せずとも、カノ国では自由な職業に就いて働いて欲しいと言われていたが、彼女の一族は、今でもカノ国王宮で王族に使えることを使命としていた。


 ホーラは、マリエと同様に細い金のバングルを腕にしているが、マリエのバングルよりは少し幅が狭いバングルであった。


 幅のあるバングルは、王族だけが付ける王族専用の物であり、カノ島開祖3世代目が提案して、カノ国王族につながる者はこの幅が太い特別なバングルを付けている。

 この王族専用バングルには、色が付いた石が埋め込まれており、それは初代国王からの系譜を示している。

 そして、その色の並びを調べる事で王族内での系図を知ることが出来る。

 石の並びとして先頭には必ず透明のダイヤモンドが埋め込まれており、その石が初代王を示している。

 また、この王族用のバングルは一般のバングルと異なり、その目的として非常に強力な護衛機能を備えているために、たとえ近くに従者を従えていない時であっても、王族の身を外敵から自動的に守ることが出来る。

 このバングルができたおかげで、たとえ王族であっても、普通に一人での行動が許されている。


 初代王は、たとえ王族であったとしても、特権となるような権威などを認めていなかった。

 しかし、王位継承が行われないまま初代王が消え、さらに二世代目が引退した後の世代の者達の中には、少しであっても自分も王族の血を受け継いでいるので せめて形だけでもその証を示す物が欲しいと願い出て作られたものである。

 初代王には、異世界人からやって来た3人の正妻とそれ以外にも何人もの奥さんがいたが、その奥さんたちとは全員平等に接し、順列などは付けられていなかった。


 しかし国王と言う立場上、複数いる正妻の中から、王妃だけは外交上に決められており、それがマリエの曾祖母であった。

 その初代王妃の流れを受け継ぐ血脈には、マリエ以外にもたくさん子孫は生まれていた。

 さらに初代王は他の正妻や側室などからも子宝に恵まれ、そのために初代王の血を受け継いだといわれる子供たちはカノ国の中に沢山いた。

 マリエが生まれた時には、初代王も王妃も既にどこかにお隠れになっており、特権階級を認めないカノ国の教育により、マリエ自身も王族という意識はほとんどなかった。


 初代王は人々の差別につながるような順位付けというものを特に嫌っていたが、時代が移ると、逆にそういった権威への拘りを強く求める人がいた。

 マリエは初代王の正妻の中でも王妃を受け継ぐ者であり、特別な権力こそは与えられていないが、バングルの石の色を調べる事で、他の王族より高い立場であると見られていた。


 そのマリエの曾祖母にあたる王妃は、以前いた世界でも姫であり、王族に纏わる所作や知識、文化を持ち合わせていたため、対外的に彼女が初代王の王妃となった。

 そして、マリエはその初代王妃の曾孫にあたり、異世界の姫の血が1/8 流れたワン・エイト(one eighth)である。 両親の血で言うハーフ、クオーター、その次のエイスである。


 マリエから華やいだオーラが感じられるのは、僅かではあっても何代にもわたる本物の王妃の血が流れていることが理由なのかもしれない。

 ちなみに、侍女であるホーラも、マリエとは異なるが異世界の人の血が流れており、彼女の名前が横文字なのは、祖先から受け継がれてきた名前であった。


 マリエの曾祖母が住んでいた異世界には、魔法という文化が有り、その世界の王族の多くは魔法を使うことが出来た。

 しかし、曾祖母がやって来たこの世界では、空間を流れる『エターナル』が非常に弱く、それは魔法に必要な物であり、初代王から力を得てようやく、王妃はこの世界でも魔法を使うことが出来るようになった。


 魔法は自然に使える物ではなく、幼い時期に魔法を覚醒させるための特別な儀式をきっかけとし、更に魔法という学問を勉強する必要があった。

 初代王が活躍した時期に異世界からやって来た人たちの中には、元いた世界で魔法が使えた人は何人もいた。


 カノ国では、それら魔法が使える遺伝子を持つ可能性がある異世界の血を受け継いだ人は、幼少期の一定期間、エターナルが濃い北極の施設にて暮らすことになっている。

 それと、魔法を使える人が現れても国民が驚かないように、カノ国では子供のころから国民全員が、魔法という知識を学んでいた。

 しかし残念ながら、魔法が覚醒した者は今の世代からはだれも現れなかった。



 ◇◇◇ ◇◇◇ ◇◇◇



 三県境にある東京ブランチから金町まで、以前であれば摩導カートで移動し、そこからは電車に乗り換え、湯島に有る遠藤建築都市計画事務所に通っていた。

 移動に使われる摩導カートは、カノ島では普通の移動手段であり、カノ国人はだれもが自分用にカスタマイズした摩導カートを使うことが出来るので、とても便利な移動手段だ。

 摩導カートの表面は自由に設定できるので、地上を走る時は日本の軽自動車と同じようなイメージを用いる事で、一見すると2人乗りの超コンパクトカーが走っているかのように見え、摩導カートに対して誰も特段疑問を抱かなかった。

 マリエが電車に乗る金町がある葛飾の地には、三県境を流れる川があり、そこから下を覗きこむと、大きな()()り、その上に立つ3体の像(両、寅、翼)がこの地を支えているという、謎の伝説がある地であった。


 しかし大停電からは車も電車も動いていないため、摩導カートで道路を走ると目立ってしまう。

 その為、停電後は東京ブランチから上野まで、上空をジャンプして一気に移動する摩導カートのスキップ移動を使い、不忍池の弁天堂の裏の目立たない場所で摩導カートを降りると、そこから歩いて湯島天神近くにある事務所に通っていた。


 通常は、摩導カートは地面に対して弱い斥力により少しだけカートを浮き上がらせ、さらに進行方向への引力により地表を滑るように走行する。

 その場合、浮き上がるとは言っても僅かであり、飛行機のように空高く飛んで、自由に空中を飛行出来るわけではない。


 しかし、摩導カートにはもう一つの移動方法があり、地球の引力に対して一気に強い斥力を発して、上空にまで垂直に飛び上がり、飛び上がった頂点から斜め方向に落ちてくることが出来る。

 この一度垂直に飛び上がって、斜めに落ちてくる移動方法は、スキップ移動と呼ばれている。


 摩導カートで長距離の移動を行う場合、最初に成層圏を超える高さまで垂直に飛び上がり、そこから目的地に向かって斜めに滑り降りる。

 宇宙からの見通し範囲を超え、目的地まで一度に届くことができない場合であっても、地表と成層圏の間のジャンプを何度か繰り返すことで、地球の裏側であっても移動することが可能である。

 飛び上がる時は地球に対して垂直方向にしか上昇できないが、頂上に昇った後、そこを中心とした見通し円内であれば、滑り降りるように指定した2点間を移動することが可能である。


 また、肉眼では、高速に上下移動する小さな物体を認識する事は難しいので、スキップ飛行中の摩導カートが見つかる恐れはそれほどない。

 さらに摩導カート表面に空と同化する配色を用いるなど、スキップ中であっても人から認識されにくい いくつかの仕組みが施されている。



 ◇◇◇ ◇◇◇ ◇◇◇



 その摩導カートが普通に使われているカノ島の事である。


 最高権力者であるはずの王位が不在のカノ国では、現在の内政についてはカノ国評議会による議決により行われている。

 カノ国評議会議長である西脇風太は、まだ16歳と言う若さであるが、カノ国評議会の議長に就任していた。


 評議会の議長は、必ず王族の中から選抜されると言う大前提が有り、前評議会の議長が辞任した際、評議会に参加していた王族は、たまたま彼しかいなかったため、若い彼にお鉢が回ってきた。

 カノ国で16歳は既に成人年齢であり、彼は第4世代でも若い方であるが、彼はもともと外交に対して興味が有り、勧めもあったので将来の参考になるかな?程度の、軽い気持ちで評議会に参加した。


 風太の世代では国王を見たことなど無く、国王の不在状態が長らく続いているんで、カノ国評議会が普通の国の組織だと思っている。

 しかし、カノ国評議会として いろいろな努力を続けても、あくまで国王不在の間の自主運営機関であるので、将来国王が即位した時点で不要な存在となってしまう。

 そのため、王族は評議会への参加はあまり積極的ではなく、いやむしろ関わりたくないという風潮の方が強かった。

 特に議長であっても、国の決済権を持っているわけではないのに、何かあるとすぐに『議長の責任だ』と言う声が上がる中、きびしい立場を強いられていた。


「あーあ、僕も叔父さんのちょっと聞こえの良い言葉に乗せられて、まさか議長をさせられるなんて思ってもいなかったよ。

 安易に評議会に入ってしまったが、今更やめるわけにいかないし…

 そして、僕が議長を辞めるには、王族の誰かを僕が引っ張り込まなきゃいけないのかなぁ?

 それじゃ、叔父さんがやった事と同じことになっちゃうよな」


 彼は前議長である、やはり王族である叔父さんから勧められ議会に入ったのだが、西脇風太が加入した直後に、議長はおろか、評議会自体をも辞めてしまった。

 若く、まだ世間に対する警戒感が乏しい彼が、完全に嵌められたとしか言えないような状態であった。


 カノ国は、小さな島であり、島内には天然資源がない国であるため、どうしても経済は内向きになる。

 昔は、国外に輸出をしていたようであるが、現在は基本的に日本からの輸入が、貿易のすべてである。


 そんなカノ国であるが、電気文明を使っていなかったので、今回の太陽嵐についても島内への影響はほとんどなかった。


 ところが、そんなカノ国にとって、未だかつてない大きな問題が発生することになるとは……

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