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ルネサンスの女神様 - ねえ、電気つけてよ!  作者: 亜之丸
もしかして、これって災害なの? [3日目]
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3-4 フラッグセマフォ(手旗信号)

 当初、敵襲もしくは妨害工作が行なわれた事が考えられたため、陸上自衛隊(陸自)の各基地では臨戦態勢を敷いていた。


 とある陸自の基地でも、各部隊が保有する通信装置が、何度点検しても使えなくなっており、戦車はおろか、何故か普通の車両すらも動かない。

 とにかく電子監視装置を含む、それらすべての防衛装置が停止してしまい、当然高度な戦略コンピュータ網も機能していなかった。


 戦争や大きな災害で連絡が取れなくなる事は想定されていたが、現在のような攻撃や被害を何も受けていない状態で、各部隊が完全に孤立してしまうことは、これまで何万パターンも行われてきたシミュレーションでも想定されていなかった。

 今回はそれに類するような報告は、まだ何も基地には届いていない。


 停電発生からすでに3日が経過するが、そこまで一度も攻撃は観測されていない事から、どうやらこれは敵による攻撃などではなく、想定されていない異常状態が発生しているのではないかと言う結論となった。


 自衛隊では互いの基地間の連絡が取れなくなっているが、もともと多くの隊員は営舎内に駐屯しているため、停電発生後の対応も早く行うことが出来た。

 そして、ここから事態がさらに悪化しても対応できるように、隊員の全員勤務となる第3種非常勤務態勢の命令が下された。


 この陸自の基地の周辺では、被害の形跡は確認はなされていないが、少し離れた街では火災の多発が確認されていた。

 それだけでは根拠には乏しいのだが、街全体の状態を鑑みて、各基地では事態対処法で定められた緊急事態、存立危機事態、緊急対処事態、重要影響自体に該当すると判断した。

 上位組織との連絡はいまだに途絶しているため、対策本部長権限でこの基地独自の情報収集活動、災害対策として基地およびその周辺住民の安全を担保する活動を行う事となった。


 街が静かであるが故、災害であることにすら なかなか気が付けなかったが、それは世界が経験したことが無いレベルの大災害であった。



 各自衛隊の隊員は、電気が使用できない場所での野営訓練や、またいつでも非常事態に対応できるだけの糧食も常に備蓄されていたため、その活動に影響は無かった。

 しかし、それら各部隊の指揮を執る上級将校や、上官となる家庭持ちの年配の自衛官は、基地の外からの通いであった。

 車両が一切使用できず、しばらく上官の不在が続くとともに、遠隔地の基地への出張中の隊員も航空機や船舶も使えずに、自分の基地へ戻ることが出来なかった。


 この基地で最初に行われたことは、現在使用できる(・・・・・)車両や兵器・武器の確認、そして周辺の偵察と連絡網の確立であった。

 点検の結果、通信ケーブルや装置内部のハーネスが黒く変色していることが確認され、電子装置を搭載する大型の兵器や偵察装置はいずれも使用できず、車両や通信装置など電気を用いた装置はすべて動作しなかった。

 ほとんどの近代兵器が使用できない中、火薬を用いた銃火器などの携帯武器については、かろうじて使用できることが確認された。

 しかし、これまでギラリと銀光していた剣の刃先が黒く変色してはいたが、切れ味は落ちていないようであった。


 基地周辺の確認行動については、車両が一切使用できない為、徒歩もしくは自転車による移動となり、複数の小隊を各方向に向かわせた。


 重要な連絡網の確保には、かなり多くの隊員が投入されていた。

 最初に高い場所に部隊を移動させ、そこから手旗と双眼鏡を使い、基地との間で視認連絡が出来るかを確認した。

 まだ距離が延ばせそうな場合、さらに先へと移動し、最大距離での手旗通信が可能なポイントを探っていた。


 ポイントが一度定まると、そこに何人かの小隊を残し、本隊はそこから次なるポイントを探して移動していった。

 ポイントは直線だけではなく、複数の方向にも分岐し、網を作るように広げていった。

 こうして、何か所もの中継ポイントを置きながら、徐々に距離を延ばし、周辺の連絡網を構築していった。

 そしていつでも連絡が出来るように、常時双眼鏡による監視が行われ、各ポイントには分岐する方向毎に観測手の隊員を配置した。

 いずれのポイントから手旗による通信が開始されると、それは一度記録され、その後に送信を担う隊員に渡されると、その伝文を再び手旗にて中継していった。


 こうして、自衛隊では新たな情報伝達手段を手に入れることが出来、都心周辺にある基地間での情報網は復活した。


 確立された手旗通信中継システムは、日比谷会議の相互連絡分会で採用され、自衛隊の協力の下、都心の各官庁のビルの屋上に連絡部隊が配備され、霞が関を中心とし、都内の重要拠点に手旗連絡網が出来た。

 特にこの通信は重要であるために、陸自から始まった手旗システムではあるが、手旗により慣れている海上自衛隊(海自)の協力を得て、複数の自衛隊による合同編成部隊が発足していた。

 海自や航空自衛隊(空自)は、その防衛に必要な船舶と航空機を失っており、いまや地上勤務となっていた。


 しかし、海自の多くは、今でも沖に取り残された仲間の船や遭難船の救援を行うべく、今でも海の上で活動している。

 ただ、潮流や風に逆らって船舶の重量を牽引するだけの曳航手段がなく、双眼鏡で視認できる範囲にいた船舶であっても、そこに容易に近づく手段がないため、救援は遅々としてはかどっていなかった。


 この手旗信号による通信は、途中にある多くのビルが障害となり、長距離での通信のポイントが見つからず、そのため短距離の区間で、いくつもの中継ポイントが必要となった。

 一度中継ポイントが設置されると、いつ緊急連絡が飛び込んでくるか判らない為、中継ポイントの観測手は常に高倍率の双眼鏡を使い、目視を続ける必要があり、極度に神経をすり減らす疲労度が高い作業となった。

 中継所が増える事で各中継所には交代要員を含めた多くの隊員が必要となり、また途中での情報の誤りや中継に多大な時間を要し、日比谷会議の要請で有っても23ある都内の区役所まで広げたのが限界であった。


 今回の災害に対応するためには、多くの知識を持った人材が必要となることがわかってきた為、自衛隊では災害対応の為に予備自衛官の招集を発令した。


 予備自衛官とは、平時は自衛官以外の仕事をしているが、災害などが発生した場合、自衛隊に所属して対応にあたる隊員であり、退役自衛官の他、民間の様々なスペシャリストで構成されている。

 技能公募によるスペシャリストの中には、医師・衛生士・弁護士や整備士・技術者など多岐にわたっている。


 招集発令と言っても、電話で連絡が出来るわけではないために、登録されていた予備自衛官宅を隊員が個別に訪問して、依頼を行っていった。

 停電発生から3日目では、誰もが電気は復旧するものだと言う楽観的な気持ちをまだ持っており、あくまで最悪の事態に備えると言う気持ちが拭ぐえなかった。



 ◇◇◇ ◇◇◇ ◇◇◇



 都心部は、もともと住んでいる住民も数少ないため、交通機関が停止した今、街からは人の姿が消えていた。

 といっても、全く人がいなくなったわけではなく、たとえ都心であろうとも食べていくために食料を求めて徘徊している人もいる。


 そのため、防犯や治安維持のために、オフィスビルの谷間を警察官や自衛隊の人がときどき歩いている。


 信号が消え、車も消えた静かな皇居の周りを、1台の自転車が走っていると、その後ろから大きな声で追いかけているスーツ姿の人があった。


 声を掛けてきた男は、普段はあまり走しる事などなかったのか、思いっきり息を切らせながら、


「はぁ、はぁ、 あ、すみません、はぁはぁ」


 彼は、話したそうにしているのだが、なかなか息が戻らない。


「お、お待たせしてすみません」


「いえ、それより大丈夫ですか? ゆっくりでいいですよ」


「はい。 すみません、私、こういうものです」


 後ろから追いかけてきた30才くらいの男性は、首からぶら下げたIDカードを引っ張り、自転車の男にそれを見せた。


「あの、お役所の人が、何か僕に用事ですか?」


「はい。 あなたのお住まいはどちらでしょうか?」


 いきなり住所なんか聞くから、自転車の男は少し警戒したような表情をしたが、非常事態であるのでまあ仕方がないかと思い答えた。


「僕は用賀から来ています。 それより、これは何が起きているのですか?」


「あ、東京の方で良かった。

 今の状態については、私たちも調べており、まだはっきりとは判っていませんが、あくまで推測ですが、先日の太陽活動により、電気というものが無くなってしまったのではないかと考えています。

 現実として、街はこの有様です。 いや、この東京以外は大丈夫なのかもしれませんが、何しろその情報が完全に途絶えており、ここにはなにも伝わってこないのです。

 ところで、立派な自転車にお乗りですが、お兄さんは自転車がお好きなのですか?」


「ええ、まあ好きというか、これで飯食っているプロです。 今日は町の様子を確認するためここまで走っていました」


 それを聞くと、スーツの男の眼鏡がキラリと光った。


「プロってことは、普段は食事のデリバリーか何かですか?」


「あ、いえいえ。 僕は、競輪選手です」


「おお、そうですか。 私は幸運です。 実は貴方のような方を探していたのです。 今お時間って、世間はこんな状態ですから、ありますよね?」


「ええ、暗くなるまでに帰れるならば、大丈夫ですよ」


「あの、これはお願いなのですが、今この国は未曾有の危機に貧していることは間違いありません。

 そして、今私どもでは自転車を使った連絡方法を検討しているのですが、ご協力を頂くことが出来ないか、お話を少し聞いていただきたいのです。

 大変申し訳ありませんが、こちらの場所へ直接行っていただきたいのですが、お願いできませんか?」


 その差し出されたコピー用紙には、手書きで描かれた地図と左上には彼の名刺がステープル(STAPLE)で留められていた。


「いま街中でスポーツバイクに乗った方を見つけて、声を掛けているのですが、皆さん速くって、追いかけても間に合わず、ようやく停まってお話しできたのがあなたで2人目です。

 何人かで声がけをしているので、そろそろ何人かは集まって頂いているとは思うのですが、なかなか思うようにいきませんね」


「僕一人でそこに向かうと言う事は、あなたは一緒にいかないのですか?」


「私はまだまだ貴方のような方を探さなければいけませんので、申し訳ありませんが、日比谷公園のその場所にはお一人で行ってください。

 そこで待機している者がおりますので、お願いですので一度顔を出してください。 お願いします。

 あと、日比谷公園であれば、現在までにわかっている最新のことも、聞けるのではないかと思います」



 スーツの男は、真剣な顔でいうと、深いお辞儀をした。

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