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【完結】Camellia~紅の吸血鬼が紡ぐ物語~  作者: 八十浦カイリ
第六章 サイレンは鳴り続ける
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断章 とある少年の話4

「は、はぁ……逃げ……でも……ここどこ……?」

少年は逃げ出していた。

道もわからぬような、どことも知れないような場所を。

近くの電柱にはまだここが神楽坂町であるということを示す文字が書かれていたが、まだ小学生である彼にとって、行動範囲の外であるここはまさに未知の場所だった。

「だ、誰か……お母さ、……」

母の名前を呼ぼうとして、息が詰まり始める。

そして、彼の頬を熱いものが伝い始めていた。喪失の実感。自分の日常が失われてしまったことを、どことも知れぬ場所で強く実感することになった。


家に突如現れた、正体不明の化け物。

そして、それらを退治してくれた、自分より少しだけ年上であろう少年たち。

何もかもが、彼にとっては意味不明だった。

「どうして……どうして俺なんか助けたんだ……」

ポロポロと涙をこぼしながら、どこともわからぬ場所をずっと歩き始める。

陽が沈み始め、道はだんだんと暗くなっていた。

もう、子供は帰る時間だ。でも、彼にはその帰る場所すら存在しない。


そういえば、父親は今どうしているのだろう。

そのまま、すがるようにして彼は子供用の携帯電話へと手をかけた。

『おかけになった電話番号は、現在、電話の届かないところにいるか……」

無機質なそのメッセージは、彼にとって十分絶望的なものとなった。


------------------------------------------------


「睦海。別にわざわざ探しに行こうとするなんてしなくていいじゃないか。見つけたところでどうすればいいんだい」

「あのままじゃ帰る場所すらないでしょ。せめて数日間ここで保護する」

「真面目だねぇ。亜人に殺されて家族が1人残るなんてよくあることじゃないか」

「でも、私たちくらいの歳の子が残ったのは初めてよ。私だってどうしたらいいのかわからないのよ」

「つまり保護した後で考える、ってこと?」

「あーもう、文句言うくらいなら探すのに協力しなさい!恭平さんにももう協力してもらってるんだから!」

懐中電灯を手に取りながら、2人の少年少女がすっかり暗くなった道を歩いていた。

彼らの目的は亜人に殺され残されてしまった少年の保護。どうしても彼のことが放っておけなくなった少女…神原睦海が、自らの上司である佐久間恭平に頼み、少年のことを探して保護するという方向になったのである。


「……あ、いたよ」

「嘘!?思ったより早かったじゃない」

「きっと早く帰りたいっていう僕の意志が神様にでも伝わったのかもしれない」

「あんた早く帰っても漫画読むかレンタルビデオ見るかしかやることないでしょう……が……?」

懐中電灯に照らされた少年は、亜人狩りの2人にも全く反応することがなく、ただ虚空を睨みつけている。

「君」

「……何?」

「僕達のところに来ない?泊まるところなら用意するよ。その様子だと行くところもないだろう?」


「……嫌だ」

「だったら君はこれからどうするつもりなんだい」

「どうするつもり?知らない。それより、何で俺を助けたりなんかしたの?」

「君を見捨てるのは僕の仕事に含まれていないからね。救える命は多い方が良い」

「だったら何でお母さんを助けてくれなかったんだ」

「もう助からない様子だったからね。それくらい君もわかっていただろう?わかっていたことを今更言うのかい?」

「……だったら」


「俺のお母さんはどうでも良かったって言うのかよ!!」

「優斗っっ!!」

少年は亜人狩りの少年……優斗の胸倉をつかみ、あらん限りの声で叫んだ。優斗の言葉が、溜まっていた彼の怒りの感情に火をつけたようだ。

「……ははぁ、なるほど。いやぁ、君いい目してるよ」

だが、優斗はそんな様子に対しても、何も気にしないといった様子で涼しい顔をしていた。

「おい、答えろよ……っ!!」

「いや、その質問は少々イジワルだと思ってね。僕だってどうでもいいと思ったわけじゃないさ。出来る事なら君の母親を助けたかっただろうし、隣にいる女の子はまだそれを悔いている」

「……だったら何で俺を助けた。何で、お母さんと一緒に死なせてくれなかったんだ……!」


「君はまだお父さんがいるんだろう?」

「お父さんにはね、さっき電話かけたんだ。でもね、繋がらなかった。お父さんは答えてくれなかった……!」

「答えてくれなかっただけなら、まだどこかにいるかもしれない。私たちでお父さんの方にも連絡を入れておくから、来るまでの間だけでもうちで休んでいって」

「ああ……そうか、何かあったのかと思ってたよ。でも、お父さんがこの時間に、電話に出ないってことはほとんどないはずなんだ」

優斗たちはその言葉に、少し不穏なものを覚えたが、気にしても仕方ないと思いそのまま事務所へと足を運んだ。


「なるほど、少年の父親の方に連絡を。彼なら連絡先を持っているのか」

「今って小学生でも携帯電話持つんだね。僕らには中学に上がるまで持たせてくれなかったのに」

「携帯なんてややこしいもん小学生に持たせるかっつの。お前らは我慢しとけ」

「出来ればスマートフォンの方にしてくれれば更に助かります」

「ワガママにワガママ重ねんな睦海。とりあえず、問題の少年の方に話をつけといてくれ。そこはお前らの方で頼むぞ。大人だと子供は怖がっちまう」

「はい」


優斗と睦海は、さっそく客間で待機していた少年の方へと向かった。

少年の目はどこか虚ろで、どこか遠い空間を見つめているように見えた。

「……とりあえず、お父さんの方にまた連絡することにしたから。一緒に待ちましょう」

「……うん」

「まあ、僕らの方ももう少ししたら帰るけどね。一応これでもまだ法律上は子供なんだ」

「お兄ちゃんたち、いくつだ?」

「2人とも中1。君は?」

「小6」

「あんまり変わらないね。そうだ、一応名前くらいは名乗っておこうかな。もし今後もどこかでお世話になるんだとしたらね」

「…絶対お世話になりたくない。アンタらみたいな胡散臭い奴等」


「…まあ、そうかもね。僕は相澤優斗。苗字でも下の名前でも好きに呼んでいいよ。こっちの女の子は神原睦海。まあ、ただのお人よしだよ」

「もっと言うことあるでしょうが。そうだ、君は?あんまりずっと君、って呼ぶのも気まずいから」

「俺。俺の名前」


「……篠原、周」

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