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【完結】Camellia~紅の吸血鬼が紡ぐ物語~  作者: 八十浦カイリ
第六章 サイレンは鳴り続ける
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第六章 4 断ち切りたいんだ

「……まあいい、上がってけよ」

断る理由もないので、そのまま優斗を家に上げる。

「相変わらず狭いし汚ぇ家だけどすまねーな」

「別に構わないよ。そういうのも味だと思うしね。あ、お気に入りの漫画持ってきたんだけど読む?」

「いらん」

まだタイトルも表紙も見てないが、100%まともなもんじゃない。見る必要もないだろう。

そもそも俺は漫画を読むこと自体、別に趣味じゃないんだが、優斗はそういう点に関しちゃあんまり理解はないみたいだ。もう諦めた。


「それで、早く本題入れよ。もう夜も遅いし、早めに話しとこうぜ」

「せっかちだなぁ。まあいいよ。鳴のお願いに答えてあげようじゃないか」

少しだけ溜めを作ってから、ようやく本題が始まる。

「咲坂芽衣について調査しようか」

「……っと、それは」

考えてはいた。だが、もし今調べている件に関係がなかったとしたら、それは無駄足じゃないのか?と考えて、言い出せなかったのだ。


「嫌かい?」

「そんなことはない。でも大丈夫か?本人今街にいないって聞いたぜ?」

「本人がいないからこそ調べられる部分もあるよね。それに、鳴の迷いだって断ち切りたいんだ」

「俺の迷い?」

変なことを言い出すやつだ。

「最近の鳴は亜人への敵意が弱くなっている。彼女が何もしなかったから、君の心が揺らいでいるんだろ?」

全て図星だ。なにもしない亜人の存在が、俺への敵意を弱めている。全てお見通しってやつだろう。


「個人的な理由で向かっていいのか?恭平さんにはどう報告するんだよ」

「別に?個人的なもの以外にも理由はあるから問題ないさ」

「そうか。俺はどっちでもいいよ。ただあんまり気は進まないな」

「ここまで言われているのにかい?」

「俺は今、亜人への敵意で動いてるわけじゃないからな。それが薄れたくらいで仕事ができなくなるってわけじゃねえ」

自分でも詭弁だとは思う。それを口にした途端、心の中でのモヤモヤとした感情がより強まったような気がした。

それは、俺がまだまだ自分で目を逸らしている部分だ。


「明日になったらどうするか聞くよ。メールでも電話でもいいからそこだけ聞こうか」

「そっちに連絡は入れてるのか?」

「もちろん。こっちは咲坂芽衣の友人ってことにしてるから怪しまれることはないと思うよ」

お前みたいなのが来たら、どっちにしろ怪しまれると思うが……。というのは、口に出さないでおく。

優斗は一応これでも、外じゃ典型的な優等生として通っているんだと聞く。

こいつの胡散臭い部分を知っているのは、あくまでも俺や亜人狩りの面々だけだ。


要件だけ伝えると、優斗はそそくさと帰っていった。

マイペースなやつだ、と思うが。何年も一緒にいるとこんなのは慣れてくるわけで。

次第に振り回されるのも、少し悪くないと思えてきた自分がいる。

俺には家族がいない。それどころか、10歳より前の記憶がない。

亜人狩りという使命がなければ、この何もない家のように空っぽな人間なのだろう。


「……あいつ、漫画忘れてってるじゃねえか」

別に中身は興味がないので見ないが、絵柄を見るに相当古そうな漫画だ。下手したら親世代だろう。

「しょうがねえ、寝るか」

表紙をわざわざ見てると、気になってしまいそうだ。無視して俺は寝ることにした。


気づけばあっという間に朝になっていた。

よほど疲れていたのだろう。そこそこ良い時間になっていた。

今日の何時までに答えを出せ、とは言われていなかったが、長い間悩んでいるのも性に合わない。

迷いなんてものは、俺にもっとも相応しくない。

優斗に図星をつかれたのは正直悔しかった。自分の心の裏を見透かされることに、ここまで抵抗があるとは自分でもわからなかった。


「何でずっと迷ってたんだろうな、俺」

そのまま、優斗に電話をかけることにした。


-------------------------------------------


芽衣ちゃんがいなくなってから、もう半月が経った。

いなくなった後も、ついつい余計にご飯を作ってしまって次の日に残しちゃったり、意味もなく空っぽの部屋に向けておはようの挨拶をしてしまったことがあった。

染み付いた習慣というのは簡単には変わらないもので、なかなか抜け出すことができない。


今日も、作りすぎてしまったカレーライスの残りを一人でつついていた。

今の私はほぼいつもひとり。お母さんはいつも帰りが遅いから、一緒にいる時間はほとんどない。

家の中にほとんど音がなくって、やけによく聞こえる自分の足音や衣服の擦れる音が、わたしの寂しさを増幅していく。


「芽衣ちゃん元気かなぁ……」

無事に何度か連絡が来てるということは、元気でやってはいるんだろう。

でも、だからこそこんな感情が頭に浮かんでしまう。

何で、私も連れていってくれなかったんだろう。

私がまだ小学生だった頃から、私たちはずっと一緒だったはず。

突き放される理由もわかってる。事情もわかってる。だからこそ、自分の感情がそれに納得できなくって、より寂しくなってしまう。


帰っては、こないのかな。


食べ終わったご飯の食器を片付けて、わたしは気分転換に本でも読もうと一冊の本を取り出した。

芽衣ちゃんが置いていった小説のうちの一冊だ。

昔っからお父さんも活字が好きだったから、芽衣ちゃんも影響されて、いつの間にか本の虫。

しかし、私はほとんど影響されなかった。お母さんについていって、家事を学ぶことばかりしていた。

皮肉なことに、芽衣ちゃんがいなくなってから、やっと芽衣ちゃんの読んでいたものを読む時間が出来てしまった。


なんてことのないよくあるファンタジー小説のうちの1つだったけれど、その中身はとても面白いものだと思えた。

何も知らない場所へと急に投げ出された主人公が、苦難の道を歩みながらようやく自分を見つけていく物語。

その姿が、いつの間にやら自分と重なるような気がして。

「…こっそり、読んじゃったなぁ」

続きもあるみたいだから、明日にでも読もう。


読み終わってしばらくぼーっとしていると、家のインターフォンが鳴った。

昨日、家に来るって言ってた人だったかな?

怪しい人じゃなければいいんだけど。


「えーと、お客さんですかー?」

「やあ、咲坂葉月さん、だったよね?」

ドアを開けた先では。優しそうだけど何故か少し怪しいお兄さんと、そこに付き従う小柄な男の子が。

私は心底願ってしまった。誰か、助けてください、と。

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