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【完結】Camellia~紅の吸血鬼が紡ぐ物語~  作者: 八十浦カイリ
第六章 サイレンは鳴り続ける
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第六章 3 どっちだと思う?

夏休みの補習が終われば、次は夏休みの宿題というやつが襲ってくる。

亜人狩りと学業の両立というのは、案外難しいものだ。ただでさえ何度か怪我をして病院に運ばれたり、時には亜人の力の影響で学業そのものに大きな支障が起きたこともある。

正直、優斗や睦海が何とか学業を両立出来ているのが不思議なくらいだ。詩音は……結構ギリギリらしいが。


俺は今家に帰って宿題の続きをやっている。

生きるか死ぬかの世界にいるようなやつが、学業で頭を抱えるなんていうのはお笑いだ。

家の中はいつも静かだ。何せ家には俺しかいない。

事務所からの支援で何とか借りられる程度のボロアパートで、雨が降った時には雨漏りもするような場所。

見るやつが見れば不幸だと笑うだろうが、もうずっとここで暮らしている俺にとっては、こここそが住む家であり、ここ以外に住む場所はない。


「………わかんねぇ」

数学のプリントを前に、頭を抱える。問題の答えがわからないんじゃない、解き方がわからないのだ。

教科書を何度見ても、この数学というやつは特に苦手だ。

自分でも何故苦手なのかはわからない。ただ、数式を覚えてそれを応用するのが、この上ないほど苦手なのは確かだ。


面倒になってきたので放り投げて晩飯を摂ることにする。わからない部分は優斗にでも手伝ってもらおう。色々余計なことを言われるだろうが、背に腹は代えられない。そろそろ成績がヤバいんだ。

「……まー、たとえ進学できなかったとしても、亜人狩りやり続ければ問題ないだろ」

口をついて出た一言。しかし、それでも大丈夫なのかという不安は、なくはない。


湯気が出始めたやかんを手に取り、熱湯をカップラーメンに注ぐ。俺の晩飯といったら大抵はこれだ。料理をするなんていう繊細な作業は、あまりにも俺には似合わないし実際に不得手。

調理実習でも基本的に役立たずだったからな。

その点、熱湯を注ぐかレンジで温めれば食べられるカップラーメンやコンビニ弁当はあまりにも便利だ。

こういうものがなければ、俺は食事すら面倒になってろくに食べてはなかっただろう。


3分の待ち時間を退屈に待とうという姿勢になったところで、スマートフォンに着信が入る。こんな時間に珍しい。

発信者の名前は相澤優斗。この時間にかけてくるなんて、さては何かあったのか?

「あー、もしもし」

「もしもしー。いやぁ、こんなにすぐ電話を取ってくれるなんて僕は実に愛されてるなぁ、嬉しいよ」

「気持ち悪い茶化しするな。んで、どうしたんだよ」

「つれないね、そんな君も素敵だけど」

優斗の茶化しをスルーしつつ、俺は本題を聞こうとする。


「最近追ってた亜人の死亡事故や変死事件が減ってきたのは、鳴も知ってるよね?」

「ああ。結局俺たちが解決できないうちに一気に収束した」

「さっき、恭平さんと話しててね。そこについてはひとつのきっかけがあるんじゃないかと考えたんだよ」

小さなきっかけ。俺には全く心当たりがないが……。


「吸血鬼の一団が街を出た。気付かれないとでも思ったのかな?特にあの背の高い金髪の吸血鬼は街でも有名だったらしいからね。突然いなくなった、って結構騒ぎだよ」

何故か背筋が寒くなった気がした。吸血鬼の一団と言われたら十中八九「あいつら」だろう。そして、暴走事故を起こしたというのは既に恭平さんから伝わっている。

暴走事故によって……"あいつ"が殺されたということも。

「……なんでまたあいつらの名前が出る」

「タイミングが明らかに一致しているんだよ。僕らの考えとしては、そいつらが裏で何かしてるか……あるいは」


「敵対している何者かが、裏で手を引いていた」

正直、俺の中に否定したい気持ちが一つだけあったのは確かだ。

それは、やつらを"信じたい"という気持ちだ。

何度か話して、協力体制まで一度は築いた相手である以上、俺の中に情のようなものが湧いているんだ。

それなりに悪くない感情を抱いていた相手が、殺されたというのに。

「鳴はどっちだと思う?」

「さあな。どっちでもあると思う。ただ、わざわざ事を起こす気なら起こしてから逃亡したってのはよくわからねー」

「やることが終わったから逃亡したかもしれないよ?」

「……だからどっちでもありそうだと思ってる。人畜無害そうな顔をして、裏で人を害してる亜人なんていくらでもいるから、あいつらがそういうやつらだって可能性はいくらでもある」


「鳴。もしかして彼女たちを庇うつもりでもあるのかな?」

「……何で、何でそう思う」

「君のことなら何でもお見通しだからさ。……というのは冗談だ。何せ、鳴の言葉からはこの吸血鬼たちが首謀者であるというのを否定したいという気持ちが読み取れたからね」

「ちょっとした肩入れしてたのは事実だよ。首謀者だと信じたくない気持ちも、ある」

「今日の君は素直だね。もう少し噛み付いてきてくれた方が、僕としては満足するんだけど」


「お前の性癖はどっちでもいい。どうせ嘘ついたところでお前にはバレるからな」

「信頼してくれて嬉しいよ」

「とにかく、詳しい話は後にしてくれないか。俺にもやることがあるんだ」

「おっと、もしやテストの続きかな?」

「晩飯。カップ麺が伸びる」

そう言って俺は電話を切る。

カップ麺が伸びるっていうのはあくまで建前だ。伸びようが正直食えればいいからな。だが……


一体、何をモヤモヤしているのか。今まで通り、人間を害する亜人を狩り続ければいいじゃないか。

あれから、調子が狂わされっぱなしだ。

それに、この街の中で一体何が起こっているというのか。

伸びきったカップ麺を啜りながら、そんなことを考える。存在を忘れて夢中で電話してたせいで、流石にふやけすぎて食えたもんじゃなかった。不味い。


食べ終わったカップ麺を片付けていると、インターフォンが鳴った。十中八九あいつだろう。

「こんばんは、来ちゃった」

「来ちゃった、じゃねーだろ」

玄関の前には、案の定優斗が立っていた。

「悪かったかい?いやぁ、さっきどこで話すかっていうの全然考えてなかったからさ。僕がこうやってこっちに来たわけさ」

「別に明日で良かっただろ」

「君の顔がすぐ見たかったから、じゃダメかな?」

相変わらずの調子の良さに、思わずため息が出る。こいつは本当に、何を考えているのかわかんねぇ。

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