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【完結】Camellia~紅の吸血鬼が紡ぐ物語~  作者: 八十浦カイリ
第六章 サイレンは鳴り続ける
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第六章 2 すごい変な奴なんだよ

「一体、なんでそんな風にその……面白くないのばっかり集めるようになったのかなって」

優斗さんの眉がぴくりと動く。これはもしや、聞いちゃいけないことを聞いてしまったのかな……?

「ああ、理由としてはそんなに面白いものじゃないよ。ああ、麻倉さんには話してなかったっけ」

ごくり。大した事のない日常の会話のはずなのに、なぜか妙に緊張が走る。


「僕はもともともうちょっと王道の物語が好きだったんだ。でもね、ある日から不意にそういうものが面白いと思えなくなってきた」

「んーー……?」

私には既にわからない話だった。思えば、私は何よりも王道のものが好きだったように思う。昔から読んでいた漫画も、結局は主人公が最後には想い人と結ばれたり、持っていた目標を達成して終わったように思う。

「予想できちゃうんだよ。そういうのってね。過程がどうなったとしても、結局は想定されていた結末に物語は向かっていく

それって面白いかい?って思っちゃってね。まあ、詩音も鳴も睦海も、佐久間さんも誰も共感してくれない話だけどね」


共感するしないとか以前に、まず思ったことが1つ。

この人、ものすごくひねくれてるなぁ……。

詩音も大概だったけれど、それこそ詩音がとても素直に見えてしまうくらいに。

「なんつーか、優斗はすごい変な奴なんだよ。結局」

「でもさ、こんな仕事、変な奴くらいじゃないと出来なくない?詩音に関してはそういう才能があるのは僕からは認めるよ。でもね、鳴や睦海はちょっと常識的に過ぎる。僕はそう思うよ」

常識的じゃないと出来ることじゃない。言われてみれば、確かにそんな感覚はある。

でも、今更ここを抜けて、元の日常に戻れなんて仮に言われたとしても、私は……


「アンタに褒められても別にボクは全然嬉しくないんだけど。ま、でも睦海が常識的過ぎるっていうのはわかんないでもないかもね」

「あなたに常識がないからバランスを取っているんですよ。確かに亜人狩りに狂気が大事だというのは私も同意です。ですが、狂気ばかりでは現実を見失う。現実が見えている者がいてこその狂気ですよ」

「いやぁ、睦海がそこまで僕に食って掛かるなんて珍しいじゃないか。心境の変化でもあったのかな?」

「茶化さないでください。まったく……麻倉さんもわざわざああいう人に話しかけないでください。わざわざ自分のペースで人を転がして楽しむような人なんですから」

仲悪いのかな……?それ以上の事情は、何となく聞いてはいけないような気がしていた。


「そうだ、お前ら。そろそろ勉強は休憩だ。昼飯の時間だぞ」

佐久間さんの鶴の一声で、いったん手を止めてご飯時になる。

行く前に買ってきたサンドイッチとおにぎりをかばんから取り出す。そろそろ、自分で作れる練習なんかもした方が、良いのかな。

「それにしても……」

こうやって見ると皆普通の高校生だなぁ、と思う。

実際、亜人さえ絡まなければ皆、そうなのかもしれないけれど。


「食べないのですか?」

「あっ、いえ。ちょっとぼーっとしてて」

睦海さんが私を心配して、覗き込むようにして顔を見る。

「なんだかあなたを見ると、ここに入ってきたばかりの鳴さんのことを思い出しますね」

「鳴くん?私、ほとんど話したこともないからどんな子なのか知らないけど……」

彼のことについては私自身、何も知らない。

ただ。少しだけ近寄りがたい雰囲気があるのと、優斗さんといつもいるから、なんとなーく会話しにくいな、と思うくらいだ。


「彼がここに来たのは五年前です。……まあ、あまり詳細まで話すと本人に怒られてしまいますからかいつまんで話しますが」

サンドイッチを頬張りながら、睦海さんの話を聞く。

どこか遠い目をしながら、彼女は語り始めた。

「最初は世界の全てを憎んでいるような目をしていました。あなたと同じように。…いえ、今でもそのような様子を見せることがあるんです」

「……睦海」

「わかってますよ」

「……ならいい」

こちらの背筋まで寒くなってしまうような、冷たく低い声。しかしそれでも、睦海さんは全く動じなかった。


「それと、彼は今記憶喪失なんです。彼がまだここに属しているのは、自分の失われた記憶を探すためでもあるんです」

「そういえばそんな人もいるって、聞いたことがあります」

私の記憶には、あの光景が、あの痛々しい赤が、まだすぐに鮮明に思い出せるほどに焼き付いている。

それが思い出せないのだとしたら、それは私にとっては信じられないことだった。


「少し喋りすぎましたね、あとは本人に聞いてください」

「うーん……それはちょっと……?まだちょっと近寄りがたいっていうか……いつも優斗さん傍にいるし」

「ああ、それは仕方ないですね。余計なお世話だったかもしれません」

気づいたら、睦海さんは手に持っていたお弁当を全て食べ終えていた。いつの間に食べたんだろう……


「ところでさぁ、睦海は全部知ってるんだよね?鳴のこと」

「勿論。とはいえ、私の方から話しても仕方ないでしょう。あなたはどうしてそれを伝えないんです?」

「その方が鳴と一緒にいられそうだから……かな」

「全く、あなたは本当に……いえ、何でもありません。好きにしてください」

「愛する人と共にいることを、望んではいけないのかい?本当に睦海は常識的に過ぎる。その姿勢では詩音も楓も守れないよ」


優斗さんの刺すような視線の冷たさが、気づけばこちらにまで伝わってきたみたいだった。

「いろいろと相性が悪いんですよ、彼とは」

「あはは…色々困ったものですね」

「麻倉さんも気を付けてくださいね」

気を付けて……う、うん。何を気を付ければいいんだろう。


私はまだ、元の自分に戻りたいと思っていた。

けれど、もしまだここに身を置くのだとしたら……

もしかしたら、元の自分に戻っちゃいけないのだろうか。

まだ、悩みも心の痛みも、尽きない。

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