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未来の女王陛下、初恋の君と再会する  作者: 畑中希月
第三章 学校生活が始まった

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二十二 ラティーシャの日常

 ラティーシャの朝は早い。主であるマルヴィナの起きる一時間前には起床し、身支度を整える。


 ラトーン学院に入学するとともに、マルヴィナの起床時間は早くなり、必然的にラティーシャは五時に起きることになったが、さほど苦にはなっていない。お嬢さまが毎日学校生活を頑張っておいでなのだから、自分も頑張って主を支えようと思うのだ。


 マルヴィナの入学から、早くも一か月が過ぎた。マルヴィナもだいぶ学校生活に慣れたようだ。ラティーシャも、上司がいないという特殊な環境下での生活に、ようやくなじみつつある。


 同僚といえば、マルヴィナを護衛している三人の女性騎士だけである。最も近い立場にいるのは、マルヴィナの属するジェニスタ氏寮の寮母や使用人たちで、必要なものを取りにいく時に挨拶していたら、自然と話すようになった。


 主の環境を整える仕事と、適度なおしゃべり。それらを終えた夜、いつものように、離れに帰ってきたマルヴィナを出迎えたラティーシャは、主の表情が曇っていることに気づいた。


「お嬢さま、どうかなさったのですか?」


 思わずラティーシャが尋ねると、マルヴィナはしばらく言い淀んでいたが、意を決したように口を開いた。


「ラティーシャ、聴いて欲しいの」


「はい、もちろんです」


 拳を固く握り締めて、ラティーシャは答えた。マルヴィナは「実は……」と恥ずかしそうに切り出す。


「わたし、ここ最近、他の生徒から立て続けに告白されるの。今日も、一人から告白されて……。でも、わたしの立場では断るしかないから、何だか心苦しくて」


 それはそうだろう。ラティーシャは心の中で胸を張った。

 ラトーンの生徒がマルヴィナ以外は全て男子で、女生徒はマルヴィナしかいない以上、十分に起こりうることだ。というか、起こらないほうがおかしい。


 ラティーシャは、惚れ惚れとマルヴィナを見つめた。編み込まれた金褐色の髪に、エメラルドグリーンの瞳。東方の白磁のような肌に、薔薇色の頬。端正すぎて、幼い頃は人形のようだった顔立ちは、十五歳になった今では、美貌の月の女神、ファルセーレの生きた彫刻のようにも見える。


 さすがは、世界一すてきなドゥーガルドさまの姪御でいらっしゃる。


 これからも、日に日に蕾が開くように美しくなっていくマルヴィナに、年頃の男子生徒たちが手をこまねいているはずがないのだ。


 マルヴィナは右の頬に手を当てた。


「でも、不思議よね。入学初日に食堂でわたしの前に座っていた子がいたの。その時は目を逸らされたから、てっきり嫌われたのかと思っていたら、今日、彼から告白されたのよ」


「それは、お嬢さまがお美しいから、恥ずかしくて目を逸らされたのだと思いますよ」


「え!? そうなの?」


 ドゥーガルドの教育方針により、マルヴィナは容姿に関する自覚が薄い。同じ女性として、容貌に自信を持たせないのはいかがなものかと思う一方で、美貌ばかり鼻にかけて性格の悪いマルヴィナなど、ラティーシャも見たくはない。


(それはともかくとして、これはこれで問題かもね。お嬢さまに良い縁談が持ち上がる前に、悪い虫がつかないようにしなくては)


 自覚がないということは、降りかかる火の粉に気づかない可能性も大きいのだ。


「お嬢さま、いくら相手がかわいそうだからといって、気軽に男性とお付き合いなさってはいけませんよ。何をされるか、分かったものではありません」


「分かっているわよ。レオニス女公である以上、お付き合いや結婚をする相手は、わたし一人で決めていいものじゃないから」


 立場を十分に自覚しているマルヴィナの言葉を聞いて、ラティーシャの胸はちくりと痛んだ。自由に恋もできないのでは、お嬢さまがあまりにかわいそうだ。

 そう思ったところで、ラティーシャはあることを想起する。


「ですが、例の――昔、親切にして下さった方が、はっきりと分かれば、その方とお付き合いなされば良いではありませんか。どちらにせよ、宰相閣下のご子息なのでしょう? レオニス女公のお相手として、家柄も申し分ありません」


 幼い頃、繰り返しマルヴィナから聞かされた「王子さまのような男の子」――その彼が、朝晩、マルヴィナを送り迎えにくる双子のどちらかだということを、ラティーシャは秘密の話として打ち明けられている。

 マルヴィナは大きな目をさらに大きくみはり、顔を赤らめた。


「え!? いやだ。わたし、そんなつもりじゃないわよ。ただ、兄弟のどちらが彼だったのか分かったら、あの時のお礼を言いたいだけで……それに、もう婚約者や恋人がいるかもしれないし」


 こういう時、ラティーシャはため息をつきたくなる。前にも申し上げたことがあるけれど、お嬢さまは、もっとご自分に自信を持つべきだ、と。本気になったマルヴィナになびかない男は、ごく少数だろう。


 マルヴィナがいまいち自信を持てない理由は分かっている。大逆犯の孫だという事実は、想像以上に暗い影を落としているのだ。


「お嬢さま、今からそんな弱気でどうなさるのです。先方に婚約者や恋人がいらっしゃったとしても、その時はその時です。どうしてもお気になさるのなら、お調べになればよろしいでしょう」


「だから、そういうつもりじゃないってば。それに、今はあの時の子がどちらなのか、調査している段階だし――あ、そうだ! 次の日曜日に、お友達を招いて、ここでお茶会を開こうと思うの。準備を手伝ってくれない?」


 逃げられた。だが、恋愛ができる可能性をマルヴィナに感じ取ってもらえれば、今は十分だろう。それに、お茶会に呼ばれるばかりだった彼女が、ついに主催者になるのだ。そう思うと、実に感慨深いものがある。


 マルヴィナのためにも、絶対にお茶会を成功させよう。ラティーシャは固く誓ったのだった。

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