7 私は死んだはずだった/侍女との握手
スマホの着信音が鳴った。私は大学へ歩いて向かいながらも、電話に出る。
「もしもし?お母さん?なんか用?」
『あんたも独り立ちしたんだから、そろそろ部屋のもの片していい?遥香の荷物もあんたの部屋にも置きたくて。』
「じゃあ、私の荷物、今度仕送りして。」
歩いていると信号が見えてきた。赤信号である。
『仕送りって、ちょっと!家に来て整理しないわけ?』
「大学生は忙しいの。…というか、電話切っていい?今、まじで遅刻しそうで急いでる。」
『だいたい、あんたはなんで遅刻しそうな時間に家を出ているのよ!』
「今日もなんか変な夢を見てさ〜。まぁ、内容は全然思い出せないんだけど。」
『子供の頃からあんたって変な夢を見るわよね。しかも、内容は全然覚えてない。』
母は皮肉っぽくそう言った。信号を待っていた私は母の言い方に頬を膨らませた。
「仕方ないじゃん!それは、嘘じゃないし…。でも不思議だよね。夢を見た日は目覚ましにも気づかずにもう遅刻寸前!」
『病院で診てもらったら?』
「え〜。でも、昔行ったときも異常なしだったじゃん。」
『今はわからないわよ。もしかしたら、異常ありかも。』
「うわ。それだったら最悪だ。」
思わずクスッと笑ってしまう。そういえば、大学生になって一人暮らしを初めて以来、家族に会いに行ってなかったな〜。こんな風に話すことすら久しぶりだ。
『え…待って待ってお姉ちゃん!?』
『ちょっと遥香!スマホ奪い取らないで!』
『お姉ちゃん!もしもし?健康?元気?ちゃんと大学やれてる?』
「大丈夫。元気だし、大学もちゃんと行けてるから。」
『よかった〜。』
妹の心底失礼な安堵のため息に私はムッとした表情を浮かべた。
「失礼ね。どれだけ心配してたの?」
『まぁ、妹ですから〜。』
「胸張っていうことじゃない。」
『えぇ!?電話越しなのになんで分かったの!?』
「そりゃあ、姉なので。」
胸を張って言い換えしてやった。妹は笑っているようだ。
『でも、お姉ちゃん。今日は気をつけてね。』
私はその言葉に思わず黙り込んでしまう。
「まだ覚えてるの?」
『当たり前じゃん!だって、今日はお姉ちゃんが死にかけた日なんだよ!?』
「何年前の話よ。」
『それに今日はその死にかけたあとにあの占い師の人に言われた日じゃん!』
「占いなんか信じてるの?どうせ、あんなの嘘に決まってるじゃない。」
後ろからチリンという自転車の鈴の音が聞こえた。私は向かってきた自転車に歩道を通すため、待っていた信号の足を一歩前へと出した。信号はまだ赤のまま。
『お姉ちゃん、後ろは常に警戒してね。』
「わかっているわよ。」
『特に駅のホームは気をつけて!』
「もう駅出て大学の近くの信号待ってるだけだから問題なんかな…!?」
突然のことだった。誰かが私の背中をトンッと押した。そして私は赤信号である横断歩道に1人飛び出てしまう。
すぐ真横からは大型トラックが私に迫ってきていた。反射的が足が動かない。トラックの大きなクラクション音が響き渡る。
『あなたには、死相が取り憑いていますね。』
思い出したのは、あの占い師の言葉。
あぁ。私はやっぱり死んじゃうのか。遥香に背後は気をつけてってあんなに言われたのに。まさか、油断するなんてね。
『お姉ちゃん!お姉ちゃん!』
私はこのときーー死を覚悟した。
***
「…っは!」
目を覚ますと、シャンデリアのある豪華な部屋のベッドで目を覚ました。私は呼吸を整えながらも、身体の安否を確認していく。
今日は死んだあのときの夢…。はぁ。私は夢を見ずに寝ることができる日がいつ来るのよ。
「大丈夫でございますか?うなされておられましたが。」
「えぇ。大丈夫よ…って、えぇ!?」
少し近くに執事であるロンがいた。彼と目が合った瞬間、思わず布団を被ってしまう。
「な、なぜ、ここに!?」
「お嬢様を起こすことも、執事の務めでございますので。」
「だからって、部屋の中にですか!?」
私、許可した覚えないわよ。というか、うなされてたって本当!?まぁ、確かにうなされてても、おかしくない夢だけどさ。
すると、執事はベッドのすぐ横にあった窓のカーテンを開けた。私は眩しさあまりに手で太陽光を遮る。
「ですがもう、お昼でございますので…そろそろ起こしたほうがよいかと思ったのですが。」
お、お昼!?もうそんな時間!?…やっぱり夢を見た日は起きられない…。
「ひとまず、着替えますね。」
***
私は急いで着替え、ムーンストーン宮で食事をとっていた。高級すぎて、どれも私にもったいない品物だ。
「ミアお嬢様。」
「はい。」
お肉を切りながらも、ロンにそう返した。彼は相変わらずの無表情で口を開く。
「エメラルド宮のリーゼ様から、侍女がいらしています。」
「侍女?」
お肉を切っていたナイフの手をとめる。
侍女?私、そんなの頼んでいないけど。
「入って。」
「し、失礼します。」
侍女の服を着た女の子は恐る恐る部屋へと入ってきた。身長は全体的に小柄である少女。
わざわざエメラルド宮の侍女を私に渡すなんて、リーゼは何が目的なの?まさか、侍女を使って私の弱見でも握ろうと…?
だったら…。
「あなた、お名前は?」
「あ…。エバ・ワッテリィです…。」
「エバ。これからどうぞ、よろしくね?」
私は彼女に向かって手を出した。彼女は私の手を握り返す。
だったら、あんたの作にわざと乗ってあげて逆にあんたの弱見を握ったあげるまでよ、リーゼ。




